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2024.09.17
人とのつながりが、エンジニアリングによる生産性と品質の向上を加速させる
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世界各地にある三菱電機グループの拠点。そのうち、タイのバンコクにあるのがMitsubishi Electric Asia(Thailand)Co., Ltd.(三菱電機アジア(タイ))、通称「ME-TH」。タイには三菱電機グループの6つの生産拠点があり、ME-THの生産技術部門はそこで働く技術者たちをつなぐ重要な役割を果たしている。彼らは三菱電機グループ製品の工場の生産性や製品の品質を向上させるため、専門性の高い技術と知識で貢献している。今回は、このME-TH生産技術部門の活動やそれにかける想いについて、4名の方への取材から紐解いていく。
目次
Ms. Mussalin Sirikwanwiwat(Fai)生産技術部門 アシスタントマネージャー
Mr. Kittipong Torsakulrath(Pop)生産技術部門 アシスタントマネージャー
Ms. Sansanee Thiangkhamdee(Nam)生産技術部門 アシスタントマネージャー
Mr. Anan Ritrudee(Anan)生産技術部門 シニアエンジニア
生産技術部門は、モノづくりを改善するエキスパート集団
ー ME-THの生産技術部門のミッションや役割は、どのようなものでしょうか?
Fai:最初にご説明しますと、ME-TH自体が工場を持っているわけではありません。私たち生産技術部門は、アジア太平洋地域の工場に出向き、モノづくりの生産性や品質の向上をサポートしています。各生産拠点が持っている力に、私たちが持つ技術やノウハウを加えることで、新たな価値を生み出すことを目指しています。各生産拠点におけるモノづくりで欠かせないのは、「誰でもどんな時でも同じ品質の製品が作れる」ということです。そのためには、それぞれの現場の状況を細かく把握し、関連要素を適切にコントロールする必要があります。例えば、全体の製造プロセスを理解して、個々のプロセスに適した治具を作るためには、一人だけでなくプロセスに関わる全員を巻き込むことが大切です。
ー それぞれ製品が異なる生産拠点との協働で苦労するのは、どのような点ですか?
Pop:生産拠点と協働する上で最も難しいのは、問題の本質と改善方針を関係者全員に同じように理解してもらうことです。私たちはまず工場に行き、部品や図面、現場を確認します。各部門の代表者と一緒に打ち合わせをして、問題の本質を探りながら改善方針を擦り合わせます。その段階で様々な意見や考えを聞くことで、関係者全員と共通の理解、意識作りを目指します。
ー ME-THの職場の雰囲気についても、ざっくばらんにお伺いしたいです。
Fai:みんながお互いを身近に感じ、仕事でもプライベートでも、何かあればすぐに相談できるような温かい雰囲気です。業務の打ち合わせから、笑い声が絶えない雑談まで、何でも話しますし、気軽に相談できる環境だと思います。
Nam:ME-THは家族のようなものです。みんな気軽に声を掛け合っています。仕事のあとには、私たちの生産技術部門だけでなく、会社全体で食事に行くこともあります。
Pop:仕事中は業務について相談しやすく、効率的に物事を進められますし、仕事以外でも交流の場が多くあります。さらに、ME-THで働く日本人スタッフや日本にいるエンジニアとも頻繁に情報交換をする機会があり、そのおかげで視野が広がります。
Anan:職場の雰囲気はとてもフレンドリーで、みんながお互いのことをよく知っています。部署も年齢もバラバラなので、様々な視点から意見交換することができ、新しいアイデアを仕事や私生活に取り入れることができます。
どのようにして生産現場の課題を特定するのか?
ー ここからは、みなさんの専門について掘り下げて行きたいと思います。まずは、Faiさん、Namさんの取り組む「Just In Time」(以下、JIT)について、どのようなものかを教えてください。
Fai:JITは、無駄のない効率的な生産システムで、生産現場で“必要なものを、必要な時に、必要なだけ供給する”ことを目指しています。そのためには、まずデータの収集が必要です。生産技術部門は、工場へ行く時は外部の人間として現場に入りますので、その現場に精通していないことが逆に利点になります。現場の人たちは毎日同じものを見ているので、そこに改善すべき問題があったとしても気付かないでいることがあります。私たちは外部の人間だからこそ、その問題に気づくことができるわけです。現場に入ったら、そこで働く人たちに、そうした問題がなぜ起こるのかを繰り返し質問します。それにより、問題の本質的な真因や対策を特定することができるのです。
ー 三菱電機のJIT改善活動への取り組みがユニークだと伺いましたが、どのような特徴がありますか?
Fai:多くの会社はJITの手法を主に製造部門に適用していますが、三菱電機グループでは非製造部門の生産性にも注目して改善しています。私たちは常に、より良い結果と継続的な改善を目指しています。営業、調達、製造、出荷、サービスなど、全ての現場に「カイゼン文化」が浸透しているのは、当社グループの強みです。JIT改善活動は、直接部門(製造部門)、間接部門(非製造部門)を問わず、全従業員が推進・追求すべきものです。
ー どのようにしてJITの考えを周知、浸透していますか?
Fai:日本で学んだJITスキルを活かして、各生産拠点の様々な部門の従業員やサプライヤーの方々を対象に、講師としてJITセミナーを開催しています。日本とタイの違いもあれば、工場ごとにも状況が違うので、学んだ手法をそのまま適用することはできませんが、従業員の意識改革を目的の一つにしています。そして、セミナー後に受講者の工場を訪問して現場を一緒に確認しています。例えばこの工場ではどんな課題や悩みがあり、どんなことに着目すれば良いか? を受講者と一緒に検討することで、そこからJIT改善につなげていきます。
拠点の自力育成につながるJIT改善活動
ー 次はNamさんの取り組んでいるJIT改善活動について伺いたいのですが、どのようなものでしょうか?
Nam:私は、生産拠点だけではなく、物流会社を巻き込んだJIT改善活動に取り組んでいます。JIT生産には物流が大きく関わるため、グローバルな物流が重要な役割を担います。例えば、各生産拠点がそれぞれで倉庫を使用していますが、各拠点の製品出荷量には繁忙期・閑散期といった時期によるばらつきがあります。各拠点の倉庫を統合し、そこから配送する方が効率的な場合があります。この物流改善プロジェクトを2025年までに完了させることを目指していますが、実現すれば倉庫管理がしやすくなり、配送トラックの台数を減少できることで、コストと環境負荷の軽減につながります。また、倉庫賃料も削減できるはずです。
ー 生産拠点から物流会社まで、様々な関係会社を巻き込んで取り組んでいるわけですね。そのメリットと苦労する点は、それぞれどのようなことでしょうか?
Nam:メリットは、各社の課題や悩みを共有できることです。例えば何か問題が発生すると、その問題に関係する会社が集まってブレインストーミングし、解決方法を一緒に考えることもできます。一方、苦労する点は結論をまとめることです。例えば、私が取り組んでいるプロジェクトには13社が参加しています。となれば、意見が噛み合わずに一つの結論を出しにくい状況が生まれるのは当然ですよね。
ー その問題を解決する糸口は、どこにあるとお考えですか?
Nam:最終目標を共有することです。例えば、13社共通の最終目標の一つは物流の効率化です。その目標を一貫させることで、各プロフェッショナルの知恵を借りながら、どうすれば13社全てが目標を達成できるかを議論します。もちろん、新しいプロジェクトや活動は常にチャレンジングです。最初は少しずつしか進められなくても、やがては目標を達成できるようになる。それはとてもワクワクする経験です。しかし、目標を達成するのは簡単なことではないし、人的要因も含め、考慮すべき要素はたくさんあります。私たちが提案する最初のアイデアがいきなり全員から賛同されることはなく、そこから最良かつ適切な解決策を見つけるために、みんなで一緒に議論しなければなりません。また、その方法が見つかったと思っても、実際に検証してみると不十分ということもあります。設定した目標を達成するためには、できる限りの努力をしなければならないということですね。
ー ME-TH全体に話を移すと「生産拠点の自力育成」を重要視していると伺いました。それはなぜですか?
Fai:各生産拠点は様々な課題を抱えています。もちろん私たちが連携できるところはしますが、もし各生産拠点が自分たちで自律的に問題意識を持ち、情報収集をし、分析もできれば、他の分野でも自分たちで解決できるようになる。ですので自力育成は重要なのです。私たちが初めて現場に入る時には現場の人から説明してもらいますが、そこで様々な角度から意見を交換し、問題の真因と解決のためのアイデアを見つけていきます。そうすることで、お互いが学び合うことができるのです。
ー 仕事を通じて、タイのモノづくりのレベルアップに貢献していると感じていますか?
Fai:そうですね。セミナーでは私たちが教える立場であり、現場から教わる立場でもあります。そこで得た知識を他の現場で伝えるというサイクルを続けることで、各生産拠点の生産性が向上し、最終的にはタイのモノづくりのレベルアップにつながると考えています。
一にも二にも大切なのは、データによる見える化と共有
ー ここからは、PopさんとAnanさんの取り組みについて掘り下げていきますが、その前に伺いたいことがあります。ME-THの技術に対する考え方で重視するのは、「個人の経験ではなく、科学的裏付け」ということですが、その理由について教えてください。
Pop:生産技術部門の目的である各拠点の生産性向上のためには、まず工程や設備について正確に把握しなくてはなりません。そのためには数値など集めたデータを元に、その生産工程に問題があるかないかを判別し、問題があれば改善します。もちろん人の経験をないがしろにするわけではありません。熟練した職人の経験も大事ですが、誰でも同じ品質でモノづくりできることが理想なのです。そのために生産現場で欠かせないのが、“データ=事実”なのです。
ー その一例を挙げていただけますか?
Pop:私が今取り組んでいる「プラスチック成形における冷却制御プロセス改善プロジェクト」についてお話しします。プラスチック射出成形では、冷却という工程があるのですが、その冷却速度を制御するプロセスを最適化することで、品質の向上とエネルギー消費量の削減を目指しています。改善プロジェクトの発端は、その工程のデータを精査したことです。この工程は一部可視化されていないので、代わりにいろいろなデータを見ることで推測してその工程を理解しなくてはいけませんでした。その結果、この冷却速度を制御するプロセスが基準時間よりも長いことがわかりました。必要以上に設備が稼働していて、その分エネルギーも多く使用していたのです。
ー 改善するために、どのような策を立てたのでしょうか?
Pop::冷却速度を制御する設備は、内蔵された冷却回路に水を流して温度制御しているので、スムーズな水流にするというのが一つ目の改善点。二つ目は、温度センサーの設置場所を改善することで温度をより正確に測定すること。この二つで、効率的かつ適切な冷却制御プロセスの実現を目指して取り組んでいます。このプロジェクトは、エネルギー負荷軽減によるサステナビリティへの貢献と、エネルギーコスト削減による生産性向上につながります。生産現場におけるCO₂排出量削減は重要な課題として位置付けられているので、これが実現すれば、社内外に非常に大きなインパクトを与えると考えています。
より良いモノづくりには、より良いコミュニケーションが大切
ー Ananさんが取り組んでいる「基板実装はんだ付け工程改善」について教えてください。
Anan:ある工場では、他の工場と比べて「基板実装のはんだ付け」の不良発生率が高いことが課題でした。そこでその工場のエンジニアや日本の基板実装エンジニアと協力し、様々な改善策を講じて、不良発生率を低減させることに成功しています。さらなる改善に向けてプロジェクトはまだ継続中です。
ー 苦労している点、重視している点があれば教えてください。
Anan:いろいろな改善策を試したいのですが、工場の稼働をストップできないので、昼休みにしか実験ができません。また、評価方法は実際の生産結果を不良発生率で測る必要があり、工程の条件変更には慎重にならざるを得ません。不良品が多ければ、前の条件に戻してやり方を考え直さなければならないのです。
ー プロジェクトを通して、大事にしていることを教えて下さい。
Anan:人間関係は、生産性を高めるためにとても重要です。良好な人間関係は、会話を深めることに一役買ってくれるからです。例えば、基板実装の専門家会議を定期的に開催していますが、参加者が会社の垣根を越えてさらに関係を深めるために、会議後に一緒に食事をすることもあります。基板実装プロセスの改善活動について、参加者同士がより気軽に質問したり答えたりできるように互いの絆を深めています。
ー 最後に、ME-THの生産技術部門の今後の展望と計画を教えてください。
Anan:国内外の三菱電機グループの拠点に私たちの活動をもっとアピールしていきたいと考えています。現場が直面する問題の解決のために、一緒になって活動する準備はできているので、まずはタイ国内の人たちとのつながりをもっと広げて活動していきたいです。
※掲載されている情報は、2024年4月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム