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「2001年宇宙の旅」とケネディ大統領

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 「2001年宇宙の旅」とケネディ大統領社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 「2001年宇宙の旅」とケネディ大統領

衛星通信は、SF作家の構想から始まった。「2001年宇宙の旅」などで知られるアーサー・C・クラークは1945年科学雑誌「ワイヤレスワールド」の10月号に「地球外の中継器」という論文を発表した。

赤道上空3万6000kmの円軌道に物体を打ち上げられるとしたら、地上から物体は静止して見える。これを使えば大陸間の電話中継やラジオ放送ができるのではないだろうか。このような物体を120度間隔で打ち上げて、宇宙空間から地球に電波を送ることで、世界中をカバーする通信網をつくれるのではないか。

クラークは第2次世界大戦中にレーダーの開発に従事しており、通信衛星のアイデアを思いついたという。当時は妄想じみた構想とも捉えられたが、作家の思いつきを科学が実現するまで多くの時間はかからなかった。

1957年10月4日、旧ソ連が人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功する。数ヶ月後に米国がエクスプローラー1号で続き、ここに人類の宇宙開発競争の幕が開けた。1960年になると、8月に米国のエコー1号が地上からの電波を地球に送り返し、これが通信衛星第1号となる。とはいえ、エコー1号は風船の表面をアルミ箔で覆い、地上からの電波をこのアルミ箔で反射させるだけの通信衛星に過ぎなかった。反射されて戻された電波は弱く、実用への道のりは平たんではなかった。

しかし、米国のジョン・F・ケネディ大統領が、通信衛星の本格的な利用を打ち出したことで景色は一変する。

1961年にケネディ大統領が、1960年代中に人を月に送り、安全に帰還させると宣言。莫大な費用が投入され、衛星通信技術がめざましい発展を遂げるようになった。

日本では1963年に茨城県に宇宙通信実験所が開設された。日米間で初めてテレビの衛星中継が行われたのは1963年11月23日。ケネディ大統領から日本国民にメッセージが送られる予定だったが、実際に放送されたのはケネディ大統領の暗殺を伝える驚きのニュースだった。

1964年には米国主導で衛星通信を管轄する国際機関の国際電気通信衛星機構(インテルサット)が設立され、1965年には最初の商用通信衛星「アーリーバード」が実用化された。

その後も、通信衛星はアポロ11号による人類初の月面着陸など歴史的な出来事を伝えてきた。世界中の映像を瞬時に見られることが日常になって久しい。

アーリーバードの実用化から2020年4月6日でちょうど55年。衛星打ち上げの技術進歩もあり、コストは大幅に下がり、通信衛星は大陸間のみならず、近隣諸国や国内通信にも広く使われるようになった。

想像力がたくましいクラークですら通信衛星のここまでの普及は想像できなかったのではないだろうか。彼は通信衛星が実用化された後にこう語っている。「あの時、アイデアで特許を取っていれば、大金持ちになれただろう」。

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