このページの本文へ

ここから本文

「快適な換気」って案外難しい?

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 「快適な換気」って案外難しい?社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 「快適な換気」って案外難しい?

空気は暖めると膨張して軽くなる。冷やせば重くなる。これが対流を生み、地球規模だと大気の循環となる。
ところが宇宙飛行士に話を聞くと「無重力の宇宙船内では空気循環がおきない」のだという。吐いた息もずっと同じ場所にあるので、知らずに呼吸を繰り返していると酸素が足りなくなり、息が苦しくなってしまう。空気より少し重く、通常なら足下に沈む二酸化炭素も滞留する。だから国際宇宙ステーション(ISS)では常に二酸化炭素の濃度を測り、ステーション全体で強制的に空気を循環させている。

もっとも宇宙空間の真空中にぽっかり浮かぶISSでは、手軽に外気を取り入れることもできない。滞在中の宇宙飛行士の日記を読むと、常に水や空気など生命維持装置のメンテナンスに追われていて、仕事の半分を占めているのではないかと思えるほどだ。フィルターがほこりで目詰まりして循環能力が落ち、特定のモジュール内に目に見えない二酸化炭素だまりができてしまうと乗組員の生命に関わる恐れもあるというのだから、空気循環も軽視できない。メンテナンスをする宇宙飛行士の負担は小さくない。

地上で生活するわれわれは外気を自由に取り入れられる。つまり宇宙空間のような不都合はない。それでも時代とともに換気のための設備が重要になっていると感じる。建築材料が高機能化し、住宅・オフィスとも昔とはケタ違いに気密が良くなっているからだ。

東京・霞ヶ関の官庁街を例にとると、1968年に竣工した経済産業省別館は、ほとんどの執務室で窓が開けられる。1983年に竣工した中央合同庁舎第5号館(厚生労働省・環境省など)では、開く窓の数がぐっと少なくなる。2014年にできた中央合同庁舎第8号館(内閣府など)になると、開けられる窓を探すのが難しい。高層化による安全性確保と、空調の効率を高める断熱仕様が大きな要因だ。その分、縁の下の力持ちである営繕の部署が、設備を管理しているわけである。

外気を何もせずに取り入れれば室内の冷気や暖気が失われる。強い冷風など温度差のある風が体に当たることを嫌がる人は少なくないし、実際に健康被害に結びつきやすい。宇宙ステーションではなくとも、快適な環境維持のために強制的に換気をする設備が求められる。

実は人間にとって、快適な環境は何かという定義は意外に難しい。なぜなら身の回りの空気の質を気にすることなく、忘れていられる状態こそが「快適」であるからだ。いろいろな工夫で空気を循環させ、しかもそれを中にいる人に忘れさせる。それが快適な換気といえる。現代の高気密な建物の室内や、ホールなどの大きな空間をどうやって快適に保つか。設備機器のメーカーと、それを動かす運用担当者の腕の見せ所だ。

関連記事:
シナジーコラム

大空間 × 換気 気流のプロが教える大空間換気 3つのポイント

気流のプロが教える工場・倉庫・体育館など広大な空間の換気 3つのポイント?大空間×換気 工場や倉庫、体育館などの広い空間では、ただ窓を開けるだけで全体の空気を入れ替えることはできません。では、そうした大空間を効率よく換気するには?気流のプロに換気のテクニックについて取材しました。

続きを読む
ページトップへ戻る