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次の「陸王」を探せ!

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 次の「陸王」を探せ!社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 次の「陸王」を探せ!

冬が過ぎ去り、吹く風にも春の爽やかさが感じられる今日この頃。心地の良い気候となった。寒さで敬遠していた運動を再開しようと考えている方も多いのではないでしょうか。うららかな春の日差しを浴びながらするランニングは最高だ。3月は全国各地でマラソン大会が実施される。マラソンは冬ではなく春のスポーツのようだ。

マラソンと言えば、池井戸潤原作の大ヒットドラマ「陸王」を思い出す。埼玉県行田市を舞台に、足袋会社が経営再建をかけ異業種である「ランニングシューズ」の開発に挑む企業ドラマだ。足袋製造の技術を生かし、足袋特有の裸足感覚を取り入れたシューズを開発した。スランプに陥っていたマラソン選手が、レースでシューズを履きライバルを圧倒するシーンを見て、多くの視聴者が涙したことでしょう。「陸王」では、発想の転換とそれに伴う多くの企業努力によって、経営が傾いていた中小企業が復活を遂げた。

これはドラマの世界だけの話ではなく、モデルになった企業がある。
きねや足袋株式会社。「ランニング用足袋」を開発した行田市の足袋メーカーだ。社長は伝統産業である足袋製造を心から愛していた。しかし年々斜陽産業となり、会長である父は撤退や新規事業設立を考えていたのだ。社長は、足袋メーカーとしての技術や伝統を守るために奔走した。

そこで生まれたのが、足袋型ランニングシューズ「無敵」。足袋の新しいカタチを模索していた時に、走者のための新しいシューズを求めていた元陸上選手から声がかかった。試行錯誤を重ね、足袋の強みであるフィット感を活かしたシューズが誕生した。同社の軌跡をもとに池井戸氏が「陸王」を執筆。ドラマのヒットと共に「無敵」は大ヒット製品となった。

成功の秘訣は、自社の可能性を信じチャレンジをすること。強みを活かして成功した中小企業は他にもある。

「刃物の町」岐阜県関市。昭和45年創業の株式会社ツカダは、金型の設計や打ち抜きプレス加工などを請け負う町工場だ。同社は自術を生かした発想の転換によって、大ヒット製品を生み出した。その名も「Key-Quest(キークエスト)」。段ボールなどを開封するカートンオープナーや糸切り、マイナスドライバー、ナット回し、栓抜きなどの機能を備えた、鍵の形をした多機能ツールだ。同製品が生まれたきっかけは、社長の癖だ。段ボールを開封する際に、しばしば手元にある鍵を使っていた。カッターの代用をしている鍵を、強みであるプレス加工の高い技術を活かして製品化できないかと考えた。

「自社製品を作らないとだめだ」。先代社長である父が生前よく口にしていたこの言葉が、新製品開発への後押しをした。自社の技術を全面に活かした「Key-Quest」は、異例の5万本以上を売り上げるほどになった。高い技術力だけでなく、アイディアを柔軟に実現する姿勢も同社の強みと言える。

作戦のもとゴールに向かって走り抜ける。途中苦しい時があっても、発想を転換してその都度作戦を考える。これは、マラソンも企業も同じ。強みや技術力を活かしたチャレンジが成功の鍵となるのだ。

「日刊工業新聞社『プレス技術』19年8月号」の一部を引用

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