2022年の今、「DX」の二文字をビジネスマンならば見聞きしない日はないだろう。Digital Transformationの略称であることはもはや説明不要だろうが、「Transformation」の略字になぜ「X」があてられるのかご存じだろうか。ここに、DXの本質が隠されている。
「trans」は「横切って」を意味するが、英語圏では交差することを「X」と略記することから当てられたという見方が支配的だ。実際、「DX」が企業社会に普及し始めた頃は「全社横断的なデジタル化」の意で解釈された取り組みも散見された。
一方で、transには「越えて」、「別の状態へ」など全てが大きく変わるという意味もある。そこに同様の意味があるXを使ったともいわれている。つまり、生産現場でのIT化や事務作業の省力化など自社内の効率化にとどまらない、変革こそDXだというわけだ。2022年の今、多くの企業はDXを掲げ、デジタルによる課題解決や価値創造の実現を目指していることからもこちらの語義が近いだろう。
ただ、言うは易く行うは難し。企業の規模を問わず、本質的な課題は解決が先送りされがちだ。現状でビジネスに問題がなければ課題を自覚できない。万が一、課題を自覚していても、解決するには長い時間と大きな費用が必要なため、着手しにくい。これまでとは違うことに手を出せば、足下の生産性が落ちるのは避けられないからだ。
企業が課題を先送りし続け、変革できなかったことが、「失われた30年間」を生んだ一因ともいわれている。そうであるならば、企業の課題は社会の課題と重複している場合も多く、企業が課題を解決できれば社会も変わる。
例えば少子高齢化を見据えて、新しいサービスを開発すれば、それは顧客の新しいニーズを捉えるだけでなく、社会課題の解決にもつながる。
実用化されている身近な取り組みがヘルスケア分野のスマホのアプリだ。疾病予防の啓発や止まらない医療の膨張を抑制する期待も大きい。スマートフォンのマイクで録音した心音で心臓病のリスクを判定できるアプリもあるほどテクノロジーの進展は著しい。
人口が減少すると過疎化も進む。すると、物流の運び手も減り、医療サービスがそうした地域には行き届かなくなる懸念もある。
こうした課題解決に向けて、山間部にドローンで薬を輸送する実証実験も重ねられている。
もちろん、診断そのものも通信の高速大容量化に伴ってリアルタイムでどこにいても専門医による診断を受けられるようになるだろう。遠隔での診断だけでなく、ロボットを使った遠隔での手術も技術的にはすでに可能だそうだ。
医療の地域格差は国を問わず大きな問題である。例えば、中国では医療サービスの品質に大きな差があり、患者が特定の病院に集中する現象が社会問題になっていた。こうした課題解決に向けて、世界最大の保険会社の中国平安保険グループは医療アプリ「平安好医生」を展開。アプリには無料問診機能が搭載されていて、アプリの問診に従って症状を入力するだけで、4万人以上の提携医師が2分以内に回答。すぐに診察が必要な場合は、病院と医師を選定して、予約してくれる。日本でも同様のサービスを試みているスタートアップが現れ始めている。
「DXの本質は本質的な課題の解決」といわれても、企業は規模が大きくなれば投資家から短期パフォーマンスも求められ、抜本的な課題の解決への動きは鈍くなる。だが、それらを先送りすれば中長期の成長は望めない。コロナ禍でデジタルへの関心が高まった今、さらに一歩踏み出せるか。その一歩が、企業のみならず社会が大きく変わるかを左右する。