桜の花も咲きそろい、まもなく新年度を迎える。進学や入社、人事異動などにより今春から新たな環境でスタートする人もいるだろう。なかには部下をまとめる組織のリーダーに抜擢された人もいるかもしれない。「自分はリーダーの器ではない」「部下はちゃんとついてきてくれるのだろうか」といった悩みが聞こえてきそうだ。リーダーに求められる素質とは――。
一口にリーダーと言っても、さまざまなタイプがいる。例えば、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は1997年、窮地に陥っていた古巣のアップルに復帰すると、iPodやiPhone、iPadなどの新製品を次々と世に送り出し、同社を巨大テック企業へと飛躍させた。斬新な発想力と発信力を備え、並外れた行動力で組織を力強くけん引し、一切の妥協を許さない、カリスマ性の強いリーダーだったと言える。
京セラの創業者で、日本航空(JAL)の再建を手がけた故 稲盛和夫氏はどうだろう。経営の実体験をもとに編み出した「アメーバ経営」により、社内に経営者意識を持つ人材を育て、事実上経営破たんしたJALを一気に立て直した。「集団を率いていくには、結局、人の心を頼りにする以上に確かなものはない」(稲盛氏)。彼は部下の心をつかみ、モチベーションを高め、組織を大胆に改革していった。
米スターバックスの元最高経営責任者(CEO)であるハワード・シュルツ氏は、米シアトルの1コーヒーショップからスタートして世界最大規模のコーヒーチェーンを築き、同時に「スタバ」を人々から愛されるブランドに育て上げた。社員、アルバイトなどすべての従業員を“パートナー”と呼び、社員教育や福利厚生を充実させるというパートナーを最優先にした経営手法が、結果的に顧客サービスの質を飛躍的に高めた。
3人のリーダー像の中で、あなたはどのタイプに当てはまるだろうか。リーダーシップの理論では、それぞれ「カリスマ型」、「変革型」、「サーバント型」と呼ばれる。もちろんほかにもさまざまなアプローチが提案されている。
カリスマ型は強いリーダーシップの下、部下がリーダーの影響を受けながら進む。一方の変革型は、組織が改革を迫られた時に必要なリーダーのあり方だ。そしてサーバント型はリーダーが部下を支えながらゴールに導くようなイメージである。
カリスマは元来、ギリシア語で「神より授かった賜(たまもの)」のことを指し、特別な才能を持った人のことをいう。カリスマの概念をリーダーシップに初めて適用したのが社会学者のマックス・ウェーバーだ。カリスマ型リーダーシップは、人並み外れた能力を持つ「カリスマ経営者」が組織を急成長させるエンジンとなる一方で、リーダーが強すぎることから部下が依存したり、後継者が育ちにくかったりする負の側面がある。
変革型リーダーシップにも、組織を引っ張る一種のカリスマ性が必要だ。組織が環境の変化に耐えながら勝ち抜くには、そうしたリーダーの存在が欠かせない。リーダーが進むべき新たなビジョンを示し、環境を一新させ、部下に行動を促す。カリスマ型と異なるのは、組織の体質を変革していく際の人を動かす局面で特にリーダーの手腕が発揮される点だろう。
どちらも優れたリーダーが前面に立って組織を強力に動かしていく手法だが、最近はこれらの対極にあるサーバント型リーダーシップが注目されている。リーダーが部下を支えることで最終的に目標の達成へと導く。リーダーが徹底的に裏方に徹するのだ。
「私がスターバックスで成し遂げた最も誇れることを一つ挙げるとすれば、会社で働いている人たちとの間に築いた信頼関係である」(ハワード・シュルツほか著『スターバックス成功物語』)。部下の声に耳を傾け、共感し、サポートしながら信頼を構築していくことがゴールへの近道となる。叱られ慣れていない「Z世代」の教育もサーバント型ならうまくいきそうだ。現代のリーダー像とも言えるサーバント型なら、気負わずにリーダーシップを発揮できるかもしれない。インフラもテクノロジーも人が気づかないうちに進化している。企業も同じだ。そんな“縁の下の力持ち”がいて、屋台骨を支える組織は強い。