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BtoB企業の「コト売り」、顧客とともに新しい価値を生み出せるか

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column BtoB企業の「コト売り」、顧客とともに新しい価値を生み出せるか社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column BtoB企業の「コト売り」、顧客とともに新しい価値を生み出せるか

モノは買う時代から使う時代になった。シェアリングサービスやサブスクリプションも定着、人々は消費から経験価値に重きを置くようになった。技術力と品質を武器に世界で勝負してきた日本の製造業も、顧客にこれまでにない付加価値・体験を提供して継続的に対価を得る「コト売り」へとビジネスモデル転換を急いでいる。

高性能、高品質は行き着くところまで進み、多くの電化製品などはコモディティ化してしまった。差別化は難しくなり、新興国の格安製品が台頭してきた。さらに、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が求められ、シェアや資源・製品の価値を長く維持して廃棄を減らす取り組みが当たり前になった。たとえ高い技術力があっても、大量生産・大量消費・大量廃棄時代のようなモノ売りだけではこの先の成長は見込めない。

国際競争力の強化も待ったなしだ。日系の大手製造業の海外売上比率はこの20年ほどで急増し、半分以上を海外で稼いでいる。グローバルでの売上高は拡大し、過去最高益を更新する一方、利益率は変わらず低水準、製造業でも利益率7~15%程度を確保する欧米に対して日本は半分以下のままだ。

海外企業は早くからサービタイゼーションに注力し、プラットフォーム化を推し進めてきた。モノの売り切りからサブスクリプションなどに移行し、継続した収益を確保している。割高でもまたiPhoneを買うのは、iPhone自体の性能よりiCloudやApple Musicなどのサービスに価値を見いだしているからという人も多いのではないだろうか。旧態依然のモノ売りだけでは世界で戦えず、競争力強化に向けてコト売りを始めとするビジネスモデルの転換を迫られている。

ただ、コト売りとなると、国内BtoB分野の製造業での成功事例は多いとは言えない。その背景には、デジタル変革(DX)が力を発揮しきれていない現状がある。コト売りへの変換を支える駆動力として大きいのは、DXだ。IoT(モノのインターネット)によるデータ収集や遠隔監視・制御、ビッグデータの活用、AI(人工知能)によるパーソナライゼーションの深化などはコト売りには不可欠だ。

成功事例として注目されているのが、建設機械のコマツによるIoTプラットフォーム「Komtrax」だ。Komtraxは、建設機械の情報を遠隔で確認するシステム。建設・鉱山機械に搭載されたセンサーからリアルタイムでデータを収集し、稼働状況やメンテナンス情報を提供する。コマツ機の多くに標準装備され、これにより差別化できるとともに、収集データから運用効率改善やコスト削減などを提案。適切なタイミングでの部品交換や修理のほか、一部の高度なデータ分析などはサブスクで提供し、顧客満足度の向上や長期的な関係構築につながっている。

タイヤ最大手ブリヂストンも、独自のソリューションビジネスプラットフォーム「Bridgestone T&DPaaS」を推進する。あらゆるモビリティシステムにつながり、CASE時代を支える基盤として期待度が高い。例えば、鉱山車両用タイヤ「MasterCore」は、デジタル技術を結集し、鉱山レイアウトや車両走行ルートなど顧客ごとに最適化したタイヤ開発を実現。鉱山現場でのタイヤや車両データをリアルタイムで収集・分析し、安全で効率的、環境に配慮したオペレーションを支える。

こうした取り組みは、従来のアフターサービスやメンテナンス事業とは全く異なるものだ。顧客の要望に応じるのでは価値がない。顧客の課題をともに見いだし、さらには課題が顕在化する前にいかにソリューションを提案できるかが問われている。そのためにICT技術の活用に加え、企業がモノを作り売る中で培った技術や蓄積したデータ、それに基づく確かなコンサルタント力がカギとなる。

性能、機能や価格といった従来の基準では測れない価値が求められる時代。顧客とともに新しい価値を創造できる企業が生き残る。

記事内の「iPhone、Apple Music」は、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。「iPhone」の商標は、アイホン(株)のライセンスに基づき使用されています。iCloudは、Apple Inc.のサービスマークです。

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