認可の厳しさが衝撃を与えた「専門職大学」、開始2年で浸透はいかに?
理論と実践の両立で職業に直結する人材育成を行う「専門職大学・専門職短期大学」が、社会で新たな立ち位置を獲得しようとしている。2019年度の制度開始初年度の設置認可は3校と狭き門だったが、20年度は8校が開学にこぎ着けた。企業での長期実習など産学連携の教育が大きな特徴だ。学術重視の通常の大学を刺激する存在になるか、注目されている。(取材=編集委員・山本佳世子)
専門職大学などは、特定の職業の高度専門職になるために、知識・理論と実践的スキルを身に付ける大学だ。専門学校の実践力と大学の創造力を兼ね備えた人材育成を掲げる。
既存の大学と異なる点は多い。まず授業の3分の1以上が実技・実習となる。このうち長期インターンシップ(就業体験)に相当する企業内実習が、4年制で計600時間以上。例えば1日8時間×年20日間×4年間といった具合になる。連携企業の数も関わりもかなりのものになる。
専任教員の4割以上が、産業界などの実務経験を持つ「実務家教員」だ。その半分以上は研究能力を併せ持つことが求められる。授業は40人以下の少人数制。イノベーションや新ビジネスを創出すべく、専門と関連する周辺分野の学びもいる。
卒業生は地元就職や地域活性化リーダーで期待される。そのため企業や自治体など、ともに教育課程の編成に携わる「教育課程連携協議会」の設置も義務付けられている。
専門職大学の設置者は、専門学校を経営する学校法人が大半だ。通常の大学と違うこれだけの条件を突きつけられ、文部科学省から設置の認可を受けるハードルは相当なものだ。初年度の認可の厳しさは、関係者に衝撃を与えた。2年かけて2ケタとなったが、社会に根を下ろす期待と不安が交差する。20年度の開学を率いるトップインタビューから先行きを見通していく。
インタビュー/開志専門職大学学長・北畑隆生氏
柔軟性ある“総合大学”目指す
教育関連を中心に多様な事業を手がける新潟のNSGグループ。33の専門学校と三つの大学を抱え、教育事業の中心を担う新潟総合学院が開志専門職大学を開設する。北畑隆生学長は元経済産業事務次官だ。経験を生かし、どう新たな大学を構築するのか聞いた。
―情報と起業などの事業創造で、複数学部をそろえるのは専門職大学で唯一だとか。
「さらに観光とアニメ・マンガで21年度の学部開設を計画し、専門職大学の総合大学を目指している。専門学校には『コンピューターが大好きだが、英語や数学が苦手』といった若者がいる。通常の大学では生かせない人材だが、本学への編入で学士号取得を将来は後押ししたい。学校法人ではビジネススクールの事業創造大学院大学も抱えており、さまざまな形を柔軟に考えることができる」
―大学の学長としては独特のご経歴です。
「私は中高一貫の母校、三田(さんだ)学園の理事長を6年間、務めた。校長も兼務し学校教育の経験がある。経産省の局長時代には大学生などの“社会人基礎力”も担当した。本学開設に向けて2年前から関わったが、問題意識はぴったりだった」
―ご経歴を生かした具体例は。
「大企業に声をかけてインターンシップで協力してもらったり、博士号取得の研究者に教授できてもらったり。経産省出身の大学人も副学長などに迎えた。科目では古典的内容ではなく“現代”を頭に付けた、複数のゲスト講師によるオムニバス科目が目玉の一つ。現代企業論ならコンプライアンス(法令順守)やリスクマネーなど。私が引き受ける現代産業論では、自動車や化学など各業界から講師を招く」
―設置認可に向けてはいかがでしたか。
「能力や実績を予想以上に細かく審査された教員や、科目の対象学年などいくつもの見直しがあった。カリキュラムの密度が濃く学生は遊んでいられない。まさに理想の大学となるかもしれない」
【略歴】きたばた・たかお 72年(昭47)東大法卒、同年通商産業省(現経産省)入省。02年経産省官房長、06年事務次官、08年退任。10年神戸製鋼所取締役。13年丸紅取締役、三田学園理事長。兵庫県出身、70歳。
【大学情報】▽設置者=新潟総合学院▽所在地=新潟市▽学部と入学定員=事業創造学部(80人)、情報学部(80人)
2020年2月27日付 日刊工業新聞
記者の目/既存大学と共に伸びる
NSGグループの池田弘(ひろむ)代表は日本ニュービジネス協議会連合会の会長だ。基の団体が設立された30数年前、北畑学長は経産省の担当室長として代表とつながり、友人となった。少子化の中、既存大学との受験生獲得競争を尋ねると、伸長分野での設計を踏まえ「競合でなく共に伸びる」と軽やかな答えが返ってきた。
「初年度わずか3校」は関係者にとって大きなショックで、「文科省はこの新制度に本気なのか!」との怒りの声が聞かれた。文科省の大学設置・学校法人審議会としては、「大学なのだからそれにふさわしい内容を」と厳しく臨んだのだろう。それだけに2年度目は申請の半分程度、8校が認可となって、私としてもほっとした。既存の大学を大いに揺るがす存在として、専門職大学が知られるようになってほしい。(編集委員・山本佳世子)