700人全社員フルリモート企業に聞く、リモートワーク導入のコツ
キャスター社長・中川祥太氏インタビュー
リモートワークへの注目が高まり、導入に踏み切る企業が急速に増えている流れの中で、すでに約700人全社員がフルリモートワークの会社がある。2014年9月に設立されたキャスター(宮崎県西都市)は、「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、アウトソーシング事業のオンラインアシスタントサービス「キャスタービズ」やオンライン派遣サービス「在宅派遣」など、リモートワークを基軸とした人材サービスを幅広く展開している。
キャスターでは、採用段階からリモート形態を取り入れており、面接もオンライン上で行っている。そのため、新入社員と既存社員が直接顔を合わせることがないまま入社となるケースが大半だという。「働く人の住まいにとらわれずに採用ができるので、全国各地にいる人たちに活躍してもらっています」と話す、株式会社キャスター社長・中川祥太氏に、リモートワークを中心とする働き方や導入のコツについて話を聞いた。(取材・梶田麻実)
―設立の経緯は。
「2012年に所属していた前職の会社もアウトソーシング事業がメインで、全国各地にオフィスを設けて人を雇っていましたが、人口減少によって地方の在住者も減り、なかなか人が採れなくなってきている状況を目の当たりにしました。そこで、なんとか人を集める方法はないかと考えていたとき、クラウドソーシングでリモートワークしている人たちと仕事をする中で、リモートワークという働き方を希望する人がたくさんいるということを知りました。当時、リモートワークは業務委託が中心で、自由な働き方ができる一方で、時間あたりの単価が100円を切ってしまう金額帯で働いている人がいるというよくない就業環境がありました。そこで、自分で人を雇い、リモートワークを希望する人たちが普通に働ける仕組みを作りたいという思いを持ったことから、2014年にキャスターを設立しました」
―設立当初の2014年、リモートワークの状況は。
「リモートワークという言葉自体、うちがやり始めてからどんどん使われるようになってきたように感じています。当時テレワークと呼ばれる領域では、業務委託が多く、社員として働きながらリモートワークをしている人たちの数は圧倒的に少なかったです」
―ニーズは年々高まってきていますか。
「そうですね。働き方のニーズは、人口動態や都市環境に依存するものです。結果として今、東京は住みにくくなっています。満員電車が年々キツくなってきていたり、女性はよく取り上げられますが、働きたいけれど子どもを保育園に預けることができなかったりしますよね。これらは人口が一定の地域に集中して起こる問題です。都市に人が集中していくことで地方に人がいなくなり、若い人が減ることで子どもも減っていきます。どの企業でも同じ事象が発生し始めて、何かしなければならないと問題になったときに、“仕事が都市に集中しているから”という話になります」
―700人全社員のフルリモートワークに至るまでに、難しかったことは。
「そこまで大変なことはありませんでした。よくある意見として、リモートワークではちゃんと働いているかどうか分からない、サボっているのではないかという声もありますが、それはオフィスがあったとしても分からないことだと思います。会社にいても、働いている人が真面目に業務をしているか逐一確認したり、常に横で見ているわけでもないですよね。近くにいても確認しないことを、姿が見えないからといって懸念する意味はないので、その点は関係ないという結論に至りました」
―導入を難しく感じている企業はまだまだ多いです。
「リモートワークもオフラインもそこまで変わらないと思っています。9割の人が真面目に仕事をして、1割の人が不真面目に仕事をする。そんな1割の人たちが注意された時に、リモートワークを理由にされたり、経営者側にリモートワークだから仕事をしてないという印象を持つ人がいることで目立つだけで、一部の悪意ある人の見方によってマイナスに受け取られているだけだと感じています」
―リモートワークを導入するメリットは。
「会社側からすると、通勤費・交通費・オフィス代・ファシリティ関係の費用は大幅に下がります。また、採用についても、たくさんある都心の会社の中で競争しながら人材を取り合うよりは、47都道府県から採る方が範囲が広いですし、総合的にみると採用費も下がると思います」
―移行する上で必要なことは。
「現在、新型コロナウイルスの影響で、“来週からリモートワークを考えているがどうすればよいか”という相談が増えていますが、新型コロナウイルスによってリモートワークを導入するというように、導入の必然性が生まれることは、実施に踏み切るために必要だったりします。ただ、それだけではなく、リモートワークにすることで自分たちにとってプラスになるかどうかをよく考え、事業を効率よく回す方法を考えることが重要です」
「企業によって、紙ベースのものが多いと回らない部分は多いですし、営業の比率が高ければ商談先とのコミュニケーションにおいて数字がどう前後するかが重要だったりします。企業によって問題の内容は違うので、見極める必要はあります。ただ、リモートにする方法がないわけではないので、問題を一つ一つ解消して、移行していくだけですね。キャスターのオンラインアシスタントサービスでサポートもできます」
―BCP対策の観点からみるリモートワークの実施状況は。
「今回の新型コロナウイルスの件で、増えていくでしょうね。これまではインフルエンザが流行していても、出勤を控えるアナウンスは出ませんでしたが、それが出たということで、企業側は対応しなければなりません。BCPという観点でも、災害に対して国として都市機能を適正にコントロールできると示すために、日本の企業がリモートワークの実施に協力する流れにはなっていますね」
―リモートワークの実施に戸惑う人はいると思いますが、導入のコツや、注意すべきことは。
「リモートワークでは、チャットツールなどを使用したテキストのコミュニケーションが基本になりますが、読み書きで認識の齟齬が生じることが多いので、注意が必要です。ほとんどの人が、会話の経験はあっても、実はテキストの読み書きに慣れていなかったりします。その上で、会話のようにやりとりをしなければなりません。そのためには、1to1の話や、個別チャットでのコミュニケーションを可能な限り控えることが大切だと考えています」
「まず、オフィスを想像してみてください。誰かに話しかけるときには、席まで行ってみんながいる環境の中で話しかけますよね。リモートワークにおいて、話しかける行為を個別チャットに置き換えてしまうと「○○さん、話したいことがあるので、ちょっと個室まで来て下さい」と言っている状態になります。誰かに話すたびに個室に行き、自分の席に戻るという繰り返しとなり、オフィスは会話がなく活気がない状態となります。これはおかしいですよね。実際にリアルの場に置き換えるとどうなるかを考えてみてください」
「これはSNSでも同じことです。FacebookやTwitteが、ダイレクトメッセージだけでやりとりが行われている場だとしたら何も生まれませんよね。チャットでも同じことで、デジタル上でコミュニケーションする場合でも、たくさんの人たちが働いている活気のある場を想像し、みんながいることを想定して話す意識を身につけたほうがいいですね」
―人材育成などのOJTもスムーズに行えるのでしょうか。
「分からないことは、Zoomで繋ぎながら教えています。動画もあれば、電話もチャットもあるので、リモートワークだからといって難しくなることはありません。オンライン上のコミュニケーションとして、オンラインゲームで会話しながらプレイすることがありますが、その中で人と人は仲良くなれないんでしたっけという話です。そう考えると、できますよね」
―今回、中川さんは「社団法人リモートワーカー協会」を設立するそうですね。
「テレワークをする企業のためのテレワーク協会というものはありますが、すでにリモートワークで働いているリモートワーカーと呼ばれる人たちが抱える問題や改善点も束ねたほうがいいという思いがありました。国としても欲していると思うので、ワーカー側の意見をまとめて出していく立場になれたらと思っています」
「現在、リモートワークに関して、国からの基準値のアナウンスがないんです。基準が曖昧なので、リモートワーク導入企業だといえる環境は何かというときに、ごまかしが発生しやすい状態になっています。国としても日本の働き方の現状を分かったほうがいいと思うので、実際に働いている人からみた現状を伝えていく責任はあると考えています。ワーカー側から、リモートワークが企業の利益を被ることではないという説明や、意見を出していくことで、基準を実態に合わせ、かつそれを利用することで生産性が変動したり、よくなる領域があることなどを厳密に定量化して出していく必要があると感じています。最終的に、このくらいの比率が望ましいという理想値が出せたら最高ですね。3月下旬に会員登録の開始を予定しています」
―今後の展望は。
「キャスターは、“リモートワークを当たり前にする”というミッションを掲げています。キャスタービズのようなアウトソーシングサービスによって、他の会社がリモートワークできるような支援もしていきますし、キャスターの人材もどんどん雇ってリモートワーカーを増やしていきたいと思っています。リモートワーカーの拡大、ただそれだけですね。新しい働き方に関して、リモートワークという軸は非常に大きな転換点になるので、突き詰めていきたいと思っています」
ニュースイッチオリジナル
記者の目
実はテキストに慣れていない人が多いと聞いて納得しました。友達同士のやりとりでも、グループ連絡で誤解が発生することは多々あります。SNSが流行する現代、会話と同様にテキストも大きなコミュニケーションツールの一つです。デジタル上でも公共の場であることを忘れず、気を抜かずに言葉を使う意識が必要ですね。(梶田麻実)