このページの本文へ

ここから本文

「話す力」は「話術スキル」だけじゃない!最も大切なことは?

着眼点・発想をスイッチ!NEWSWITCH COLUMN  Powered by NEWSWITCH #48着眼点・発想をスイッチ!NEWSWITCH COLUMN  Powered by NEWSWITCH #48

 「話がうまい人」と聞くと、どのようなイメージを持つだろうか。話術で相手をけむに巻いたり、圧倒したりすることで自分の意志を通す様子を思い浮かべる人も多いはずだ。しかし、音声配信プラットフォーム「Voicy(ボイシー)」を運営するVoicyの緒方憲太郎代表取締役最高経営責任者(CEO)は、「相手からまた会いたいと思われる人」だという。
 緒方CEOが執筆した著書「新時代の話す力」を中心に、「話す力」とは何か、また対になる「聞く力」や音声配信の特性について聞いた。

話す力とは求められる力

―「話す力」というと自分の意図を通す術と捉えられそうですが、相手を慮って伝えることだと本書では強調しています。

 本の冒頭に思い切って書いたのが「話す力とは、人から求められる力である」。一度話した相手から、次の機会を求められる人は結果的に得をすると思うんです。
 ただ、基本的にほとんどの人がプロダクトアウトというか、自分が何をするかばかりを考えがちです。「どういう話し方が効果的」ということではなく、相手が何を求めているかを考えた方がいいのかなと思うんです。コミュニケーションにおける顧客体験(UX)とも言えますよね。

―伝わる話し方のポイントを教えてください。

 まず、聞き手に合わせて伝えること。聞き手の興味、知識、理解のスピードを把握することで、話の刺さり方が変わります。 また、経験や感情を織り交ぜて自分らしく伝えることも重要性が増していきます。スマートスピーカーや対話型人工知能(AI)などが登場する中で、人間が定量的な情報を伝えるという価値はどんどん低くなっています。 例えば、「明日は雨です」というときに、嬉しそうに言うのか、悲しそうに言うか。そこの方が大事になってくる。人間が唯一出せる定性的な情報が、唯一残された人間が発するべきコンテンツになってくるんだろうなというふうに思っています。 この2つが合わさると、「この人と話したい」と求められるようになってくるのではと考えています。

―オンライン会議も増え、相手の様子や反応がわかりにくい時もありますよね。また、不特定多数に話す際も難しいなと感じます。

 そうですね。そこは想像力がポイントになります。
 例えば、イベントで登壇したときに登壇した人全員に合わせて何かするとかそれは無理な話ですよね。その人たちが一番喜ぶのって、多分自分なりに自由に話すことだと思うんです。間違えずに話そうと思ってガチガチに緊張して喋ってくる人って誰も得しないんですよね。相手が求めるのは大体この辺だろうとあたりをつけ、それと自分が今出せるものとミックスして、「今この場だったら、この話し方が一番いいかな」と自分なりに想像できるのが、話がうまい人かなと思っていて。そこが話す力の差になってくるんだろうなと思います。

―コロナ禍以降、直接会話する機会が減少している状況下で、話す力が一層求められています。

 以前は「話がうまい人」というと良い印象を持たれなかったことが多いと思います。しかしそれは、村社会のように閉鎖的な環境下で「阿吽やツーカーが一番良い」とされ、「言わなくても伝わる」が成立していた時代の話です。 インターネットの登場で世界中の人と簡単に繋がることができ、多様な価値観や世代が共存する現在では、考えを伝えることが不可欠になっています。今、インターネット上で炎上したり叩かれたりしている事象は、「意図を汲みとらず発言する」といったような伝え方の問題がほとんどだと思うんです。

―ビジネスシーンにおいて気を付けるべきことは。

 コロナ禍でコミュニケーションが希薄になっている今、伝え方次第ではパワハラなどにつながったり、トラブルが発生したりする要因にもなります。
 例えば、上司が部下に仕事の進捗を聞く際、「まだ仕事終わってないの」と聞いてしまう人もいるわけですよね。上司は確認の意図しかなかったとしても、この話し方では部下が「仕事が遅い」という指摘をされたと捉えかねません。話した内容がどう取られるかまで理解せず、自分しか考えていないことが原因です。
 この場合、話した相手がやる気になり納期までに終わることが目的。それに向けて、どう話せばいいかと考えてコミュニケーションを作ればよいと思います。例えば、「デッドラインはまだ来てないけど、どれぐらい進捗したか教えてほしい」と聞くだけでも違うかもしれないですね。早くしてほしい旨を伝えたいのであれば、「本当はこれぐらいで終わってほしいと思っている」と付け加えるなども考えられます。

―話す力を鍛えるためには。

 自分の話し方を録音して聞くこと。私自身、英語が不得意な状態で米国企業に就職した際、会話が聞き取れず一日中録音していた時期があったんです。自分の会話を繰り返し聞くことでブラッシュアップしていきました。 毎朝鏡で身だしなみを確認する感覚で、話し方をチェックするとよいと思います。意識するようになると、自分だけでなく他人にも気が配れるようになります。

―本書では「聞き方」についても詳しく説明されていますね。

 むしろ結構大事なのは人が話してるときの自分の聞き方だと思います。話が伝わらない原因は聞き方に問題がある場合もあります。
 例えば、相手が最も聞いてほしい話の主題部分を考えて掘り下げるなど、話しやすい土壌を作ってあげることが重要です。

音声コンテンツの特性を生かす

―音声コンテンツ配信をうまく活用する企業も増えています。

 社外向けでは、地域や業界に特化した番組を配信しコミュニティが形成されている例があります。社内向けには『声の社内報』が活用されています。支店などが多い企業では社内の情報共有が難しい場合もあるため、事業の世界観や社長の声などを届けているそうです。ホームセンターを展開するカインズ(埼玉県本庄市)では、社員がMCとなってラジオ番組形式で配信するなど上手く活用してくれています。

―音声によるコンテンツ配信のメリットは。

 メリットでもデメリットでもあるのですが、文章はぱっと見た瞬間に全部読めた気になってしまい、誤読によるコミュニケーショントラブルも発生しやすい。
 一方、音声は最後まで聞かないと分からないことも多く、誤解されにくい。ちゃんと理解してもらいたい情報を伝える際には強みが発揮されます。例えば声でリリースを配信するなどは今後行われていくのではと思っています。

― 一方、音声配信は文章による配信に比べユーザーが増えにくい印象があります。

 1PVと1再生を同等に考えると、確かにテキストの方が多くのユーザーを獲得しやすい。ただPVの内訳としては、流し見しただけとか、実際そんな共感を持ったわけじゃないけど確認しに来ただけみたいな人も混ざっています。一方で1再生のリスナーは、話し手と会って話を聞いた感覚に近く、親和性が高い。イメージとしては、チラシをまいた数と、握手をした数との差ぐらいはあるんじゃないかと思っています。
 強みを理解してくれている人からすると、ここまでちゃんと話を最後まで聞いてくれててわかってる人がいるんだったらむちゃくちゃ多いねっていう感覚なんですよね。
 広告やスポンサーに関しても、誤解されにくいことや、理解してくれている人をちゃんと保有することが大事だと考える企業が増えています。情報過多であり、多様性が叫ばれる時代において、不特定多数に向けて広く浅く発信するよりも、深く理解し長く付き合ってくれるファンを大切にし、積み上げていけるかが重要になっていくのではないかと思います。

◇緒方憲太郎(おがた・けんたろう)氏 Voicy代表取締役最高経営責任者(CEO)
 大阪大基礎工学、同大経済卒。06年公認会計士合格。新日本監査法人、 Ernst&Young NewYork、トーマツベンチャーサポートを経て、16年音声配信プラットフォームVoicyを創業。会員数は165万人を超える。兵庫県出身、42歳。
『新時代の話す力』(ダイヤモンド社)

2023年4月13日 日刊工業新聞に加筆

記者の目

 ニュースイッチでも「ニュースイッチラジオ」を日々配信していて、リスナーになってくださる人たちが見守ってくれているような感覚があります。発信側としても、文字コンテンツよりも距離が近い印象です。今後も深く理解してくれるファンをじわじわと増やしていけたらと思いました。(昆梓紗)

ページトップへ戻る