次世代モビリティはテクノロジー+“ホスピタリティ”
テクノロジーの進化によって大きな変化が生まれそうな自動車。AIやIoTといった技術を活用し快適性、安全性が格段に向上する可能性があり、大企業、スタートアップ問わずさまざまなサービスを生み出そうとしている。
自動車関連モジュールも事業ドメインに据え、次世代ドライバーモニタリングシステム(DMS)の開発に今力を入れる三菱電機。そしてビッグデータをもとにさまざまなモビリティサービスを展開するスマートドライブが対談。次世代モビリティの姿を語り合った。
INDEX
- コラボが加速するモビリティ業界
- 乗客を見守ることの価値
- 激変を予想し学生起業
- モノ作りの強みを生かしたコト作りへの挑戦
コラボが加速するモビリティ業界
田中(三菱電機):北川さんは現在のモビリティのトレンドについてどう感じていますか。
北川(スマートドライブ):業界全体として盛り上がっていると思いますし、コラボレーションが加速している分野だとも感じています。
トヨタとソフトバンクがMONET technologiesを立ち上げるなど、モビリティ業界のプレーヤー以外の企業と手を組むケースも出始め、新たな価値を創造しようとしており、非常に良い流れと言いますか、活気があります。
田中:私も感じています。三菱電機のモビリティ関連事業のメインは、モジュール関連の設計・製造ですが、納入先のカーメーカーはオープンな体制でのイノベーション創出に力を入れています。
とくに安全・安心には注力している印象を受けます。安全・安心はモビリティにおける永遠のテーマですが、最近の世界の動きも関係しているでしょう。
2020年以降、欧州の自動車安全テスト「Euro NCAP」では、疲労検知や不注意状態検知、乳幼児の置き去り検知といった機能を持つ機器の導入が義務化されます。こうした規制の流れも安全・安心により気を配る動機付けになっている。
「交通事故のない社会へ貢献する」というビジョンを掲げている三菱電機の自動車機器事業部としても安全・安心に関するプロダクト・サービスの開発に力を入れているところです。
乗客を見守ることの価値
北川:「ドライバー起因の事故を減らす」のために、三菱電機として何が必要だと考えているんですか。
田中:「乗員の理解」「周辺の理解」「伝達のわかりやすさ」だと考えています。その中で私たちは今、「乗員の理解」に焦点を当て、「次世代ドライバーモニタリングシステム(DMS)」に力を注いでいます。
DMSは、車内を撮影できるカメラで乗員の表情や動きを高精細なかたちで撮影することで、乗員が原因となるリスクを最大限回避させることができるモニタリングシステム。具体的には、脇見や居眠り、眠気を検知して、警報を鳴らすことなどが可能です。
北川:技術的な優位性はどこにあるんですか。
田中:まず車内搭載カメラでドライバーだけでなく助手席までも網羅できるプロダクトは私たちが初めてです。
それに加えて、カメラの精度と顔認証のテクノロジー。顔認証の技術では、乗客の様子をしっかりと把握するため、まばたきや瞳孔の開き具合、表情といったものを正確に検知することができます。まだ、具体的な機能として実装はしていませんが、乗客が笑っているのか、それとも怒っているのかも把握可能なんです。
北川:セーフティ分野だけでなく、応用範囲が広そうですね。
田中:おっしゃるとおりで、たとえば助手席までを網羅していることを生かし、「快適性」の追求も図ることができると思っています。カーナビは、運転中にドライバーが操作できないようになっていますが、DMSと連携すれば助手席の乗員であれば操作可能にするということもできるでしょう。
また、顔認証技術を生かして、ドライバーを識別し、Aという人が乗れば自動でAという人の好みに応じた音楽を流すとか、Bという人がドライバーシートに乗車した時は、その人に適した座席位置に自動的に変更するとか。
ドライバーシートの自動移動は、すでに市販されている量産車に実装されている機能です。DMSの開発計画では、今後、こうした「快適」「便利」といった分野でどう生かすかも考えていきます。
北川:ユニークですね。個人的にこのDMSの素晴らしいところは、その精度の高さももちろんなのですが、乗っていて「違和感がない体験」だと思います。車に溶け込んでいる。
ドライバーをモニタリングする機器は他にもあって、海外ベンダーのプロダクトをいくつか拝見したことがあるんですが、精度はいいけどカメラは目立った位置にあって、“撮影されている感”が少々気持ち悪かったり、不快な警告音でイライラしたり。安全・安心レベルは上がるのかもしれませんが、「運転」という行為自体がイヤに感じてしまうものも多いですよね……。そうした不快感が三菱電機のDMSにはないですね。
激変を予想し学生起業
田中:北川さんは6年前、大学院生の時にスマートドライブを設立しており、モビリティ分野にかなり早い段階で着眼されていますよね。どんな思いからだったんですか。
北川:移動って人間の根源的な行動であり、誰もが行うことですよね。技術革新に合わせて移動手段は進化・多様化してきましたが、中でも自動車は多くの人々の生活に欠かせない存在であり続けています。
そこに、デジタル化や自動運転技術の登場で過去にはない大きな変化が生まれると思ったんです。
自動車で移動することによって、運転データや外部の環境データなどさまざまなデータを収集でき、それをつなぎ合わせることで「安全・安心」「快適」「便利」といったあらゆる側面で新たな価値が生まれる可能性がある。
それをプラットフォーマーとしてモビリティ関連企業に提供したいと思ったんです。ビジネスとしてのポテンシャルが高いだけでなく、今後のテクノロジー社会において意義が深いと思ったので、この分野に着眼しました。
田中:具体的にはどのようなサービスモデルを提供しているのですか。
北川:大きく分けて4つです。
- ① モビリティデータの収集・解析基盤「SmartData Platform」
- ② 法人向けのクラウド車両管理サービス「SmartDrive Fleet」
- ③ ドライバーエンゲージメントサービス「SmartDrive Cars」
- ④ 個人向けの家族の運転見守りサービス「SmartDrive Families」
SmartData Platformというプラットフォームをもとに、3つのSaaS(Software as a Service)サービスを自社開発・提供しながら、SmartData Platform自体を外部のパートナーに提供しパートナーが新たなサービスを創出することにも役立ててもらっています。
ですので、当社のビジネスモデルは弊社単独というよりもさまざまな企業とのコラボレーションが非常に多いんです。
また、提供するだけでなく、ユーザーの許可のもと、保険会社から事故データをもらったり、自動車メーカーから故障データをもらったり、手元のデータと外部データを組み合わせることで、SmartData Platformの価値を向上させることにも力を注いでいます。
当社とパートナーが協力して強力なモビリティデータプラットフォームを作り上げ、それをもとにパートナーおよび当社がさまざまなサービスを生み出す。そんなエコシステムを作っています。
モノ作りの強みを生かしたコト作りへの挑戦
田中:他社との協業によるエコシステムをすでに構築し、それを広げているのはすごいですね。プラットフォーマーとしての地位を確立している。
私たちは純然たる製造業で、私の所属する自動車機器事業部では、完成品を作るための各種モジュールをつくり、それを納めるビジネスモデルです。
ただ、カーメーカーが完成品を売るモデルから完成品を活用したサービスモデルにも力を入れていることから、私たちもモノ作りの強みを活かしたコト作りや、新たなサービスモデルにも挑戦していかなければならないと思っています。今後10年先、20年先を見越した時に、これまでのビジネスモデルでは生き残っていけないという危機感があります。
ですので、今年度から私たちも新たなチャレンジとして、部門内に「モビリティ未来イノベーションプロジェクトグループ」というチームを発足させ、既存の事業の枠組みにとらわれない発想と実行を開始しています。
DMSだけでなく、当社にはセンサーモジュールなどモビリティデータを収集するデバイスもあり、データの解析技術にも長年取り組んでいます。こうした私たちが提供できるバリューを生かしながら、当社もオープンなかたちで協業体制を築いていこうと思っています。
移動をいかに快適で安全にするかという北川さんのビジョン、私たちも目指す方向性は同じなので、ゆっくり話をさせてもらいたいです(笑)。
北川:ぜひお願いします。DMSはドライブレコーダーとは違ったアプローチで安全・安心、快適、便利、そしてホスピタリティを兼ね備えているユニークなプロダクトだと思いますので、今後の動きを楽しみにしています。
(取材・編集・構成:木村剛士 撮影:森カズシゲ デザイン:小鈴キリカ 作図:大橋智子)
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2019年4月)時点のものです。