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生成系AIの性能が向上。
知られざる「通信用半導体デバイス」の実力

AIブームを支えるイネーブラー

生成系AIの性能が向上。
知られざる「通信用半導体デバイス」の実力
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私たちの仕事や日常生活に着実に浸透してきている生成系AI。その普及と発展を支える通信用半導体デバイスの存在をご存じだろうか。

化合物を用いた通信用半導体デバイスを製造する三菱電機。同社のもとには近年、ハイパースケーラー*から問い合わせが相次いでいる。

AIのパフォーマンスに直結するデータセンターの通信インフラを整えるため、同社の光デバイス製品などを求めているのだという。

この先さらなる活用が見込まれる生成系AI。その普及を支える鍵は何なのか。

生成系AIのビジネス利用を指南する梶谷健人氏と三菱電機 高周波光デバイス製作所 所長の増田健之氏が議論した。

*数千台規模のサーバーまで拡張可能なハイパースケールデータセンターを運営するクラウド企業のこと。代表例はAmazon Web Services、Google Cloud、 Microsoft Azure、IBM Cloud、Alibaba Cloud、Metaなど。

梶谷健人氏(左)と三菱電機の増田健之氏の写真

梶谷健人氏(左)と三菱電機の増田健之氏

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  • 「人がAIに負けた」先の社会をどう描く?
  • 生成系AIの普及の鍵は「通信インフラ」の増強

「人がAIに負けた」先の社会をどう描く?

増田 生成系AIの急速的な普及には驚かされます。

当社でも若い世代が活用を始め、私も追いつくのが大変なほど。この1年でだいぶ状況が変わりましたね。

増田健之氏の写真

1990年三菱電機入社。鎌倉製作所に配属され、光通信用レーザダイオードモジュールの開発・設計に従事。事業再編により、現在の高周波光デバイス製作所(当時は高周波光素子事業統括部)に異動。中国の販売会社のフィールドアプリケーションエンジニアとして中国・深圳に駐在、本社の販売・マーケティング部門の部門長などの経歴を重ね、2022年より現職。

梶谷 2023年はまさに“生成系AIの大衆化元年”。それと同時に競争が激化した1年でもありました。

LLM*はパラメータ数、学習データ量、計算量を増やせば性能が向上しやすい。

これらはある程度の資金を投下すれば性能向上を狙いやすいため、OpenAIだけでなくGAFAMなどのビッグテックや、巨額の資金調達を行うスタートアップも多く参入してきました。

その結果、LLMは「一部の業務を置き換えられる存在」へと進化しましたよね。

*LLM(Large language Models):大規模言語モデル

梶谷健人氏の写真

生成AIなどの先端テクノロジーやプロダクト戦略を軸にしたアドバイザーとして10社以上の顧問に従事。株式会社VASILYでのグロース担当や、新規事業立ち上げとグロースを支援するフリーランスを経て、2022年8月まで株式会社MESONの代表としてXR/メタバース領域で事業を展開。著書「生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方」「いちばんやさしいグロースハックの教本」。

増田 梶谷さんは実際にどんなサービスを利用されていますか。

梶谷 文章生成はAnthropicの「Claude 3」、プレゼンテーションのイラスト素材やブログのカバー画像は「MidJourney」を使っています。

情報収集で言えば、検索結果をサマリーしてくれる「Gemini」を日常的に利用し、情報の正確さが求められるリサーチでは「Perplexity.AI」を使っています。

こういった生成系AIの活用が、一般層にも広がったのが大きな変化ですよね。

増田 その大きな要因は性能の飛躍的な向上にあると思いますが、他にもきっかけがあったのでしょうか。

梶谷 文章だけでなく画像や音声、映像といった複数のメディアを同時に扱える「マルチモーダル化」が進んだことは大きいでしょうね。

文章を入力すれば画像を出力したり、映像をインプットしたら内容をサマリーしてくれたりと、次々とできることが増えてきています。

また、LLMの性能が向上し、文章での指示によってプログラミングコードはもちろん、アプリやウェブサービスも生成できる段階まで進みつつあります。

近い将来、ブログを書くような感覚で、誰もが気軽にアプリを作れるようになるかもしれません。そうなれば、アプリやウェブサービスの競争環境もだいぶ変わるでしょう。

マルチモーダルとはの図

増田 AIの想像を超える進化への期待もある一方、私を含む一部の生活者は、AIが支配的になる社会への不安を多少なりとも持ち続けるのではないかと思います。

AIが飛躍的な発展を遂げた先に訪れる社会はこうあってほしいと願う理想の姿はありますか?

梶谷 やや抽象的ですが、「AIと人を分けずに考える社会」が訪れてほしいなと思っています。

僕は今、僕自身の能力を振り絞って話していますが、いずれはAIの知識と知能を借りながら話すようになるはずです。

梶谷健人氏の写真

既にウェアラブルデバイスで視覚や聴覚の情報をAIに共有する技術は確立されていますが、中長期的にはイーロン・マスク氏が創業したニューラリンクが研究している脳に直接埋め込むインプラントや、ナノボットによるブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)など、今より自然な形でAIの力を借りられるサービスが普及するでしょう。

その結果、社会に根付く能力至上主義が緩和されることも考えられます。

誰もがAIの知能を実装できるようになれば、IQ100とIQ180の違いは誤差のようなもの。能力に差がつかない分、より人間性に価値が置かれる社会に変わっていくかもしれません。

増田 AIがそこまで社会に溶け込むには、さまざまなボトルネックを解消しないとならないと思います。梶谷さんはAIの爆発的な普及が実現する条件をどのように考えますか。

増田健之氏の写真

梶谷 主に二つあります。一つは使い手のリテラシーの向上です。

日本ではセキュリティを理由に生成系AIを採用しない企業が多い。他方米国では、エンタープライズ企業の9割近くが一つのLLMサービスに依存することを恐れ、三つ以上のLLMを使っているという調査もあります。要はAI活用の姿勢が全く異なるのです。

それだけ選択肢があるのは、米国に生成系AIのスタートアップがたくさん存在することの裏返しです。

生成系AIの核となる技術は海外に依存しているため、国内のスタートアップは生成系AI領域でmoat(モート*)と呼ばれる中長期での優位性が描きづらい。日本のベンチャーキャピタル(VC)としても投資リスクが高く感じられる現状があります。

*競合他社から自社を守る優位性や参入障壁

日本でもVCのAI領域への投資に優遇措置を取るなど、投資を活発化させる政策がもっと必要と考えます。

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生成系AIの普及の鍵は「通信インフラ」の増強

梶谷 生成系AIの飛躍的な普及のもう一つの条件は通信インフラにあると考えます。

生成系AIがマルチモーダル化すると、例えばスポーツの試合をリアルタイムに解析して、自動的に解説することなどが原理上可能になります。

しかし、現状では処理と通信のために待ち時間が発生してしまう。生成系AIの処理時間がリアルタイムに近づく上で、通信がボトルネックになっています。

増田 AIの普及に通信インフラの増強が必要というのは、当社も同じ見解です。

三菱電機は長年にわたり、通信インフラの進化に欠かせないキーデバイスを開発・製品化してきました。

光ファイバー通信では光デバイス、スマートフォンや衛星通信などの無線通信では高周波デバイスなどが該当します。

増田健之氏の写真

従来、それらの製品のお客様はネットワークを構築する通信キャリアがメインでしたが、生成系AIの登場前後で状況が激変しました。

特に光デバイスについては、いわゆるハイパースケーラーと呼ばれるクラウド企業からのニーズが爆発的に増えています。

現在、クラウド各社が世界中にデータセンターの建設を進めていますが、データセンター内での生成系AIの作業効率を高めるために高性能な光デバイスが必要なためです。

三菱電機の通信用半導体デバイスの図

梶谷 ChatGPTも一時期、計算リソースの増強が需要に追いつかないため、利用者数を制限していました。

今では多くのデータセンターを持っているハイパースケーラーでも追いつけないほど、生成系AIの普及によるデータセンター向けの需要が増加しているわけですね。

増田 おっしゃる通りです。

データセンターの高い処理能力は、高性能なCPU(Central Processing Unit)/DPU(Data processing unit)を搭載したサーバー同士を高速な光ファイバー通信で接続することで実現する。

つまり光デバイスが高性能であるほど生成系AIの性能が向上するわけです。

センター内での光通信で使用されている光デバイスにおいて、三菱電機は世界でトップシェアを誇っています。

梶谷 当然競合もいるわけですよね。なぜ三菱電機の光デバイスがクラウド企業に選ばれるのでしょうか。

梶谷健人氏の写真

増田 大きな要因は当社が長年培った化合物半導体のノウハウにあると思います。

化合物半導体は、電子の移動速度の速さをはじめ、さまざまな特性により高速通信や大容量通信に適しているのです。

各デバイスの役割と化合物を材料に用いるメリットの図

ただし、化合物半導体は作るのが非常に難しい。

農作物に近いといいますか、とにかく製造過程におけるコントロールが大変で、同じプロセスなのに条件が少し変わるだけで品質が大きく異なってしまう。

私どもは、1960年代から化合物半導体に取り組み、製品の不良率を抑え、性能が比較的均一なデバイスを安定して供給できるノウハウを培ってきました。

この点はまさに梶谷さんがおっしゃっていた「モート」。その模倣困難性の高いノウハウがクラウド企業からの高い評価に繋がっていると考えます。

具体的な成果として、当社独自の構造を採用した、発光部分と変調器をハイブリッドに集積したEML*で優れた性能を高い生産性で実現し、先にお話しした通り高い市場シェアを確保することができました。

*Electro-absorption Modulator integrated Laser diode:電界吸収型光変調器を集積した半導体レーザーダイオード

梶谷 デジタルのコアとなる部品の製造に、アナログ的な要素があるところが面白いですね。

ちなみに半導体の性能は年々かなりの速度で高まっていますが、通信用半導体デバイスも同じような状況なのでしょうか。

増田 演算処理が主となるシリコン系半導体と、通信用の化合物半導体とでは事情が異なりますが、光デバイスにおいては、クラウド企業からの性能向上に対する要求度が以前よりも高くなっています。

増田健之氏の写真

通信キャリアがお客様の中心だった時代は、5年ごとに4から10倍の速度向上だったのが、クラウド企業が中心となった今では、3年で同じくらいの性能の向上が求められています。

光通信の速度は、家庭向けであれば現在は1Gbps*や10Gbpsですが、データセンター向けではその数十から数百倍の速度が求められるためです。

*Gbps(Giga-bits per second):1 秒間に 10 億個のデジタル符号を伝送する通信速度

その需要に応えるべく、今ではクラウド企業と直接コミュニケーションを取り、彼らのニーズに基づき次世代の光デバイスの研究開発に取り組んでいます。

また、生成系AIを支える通信インフラに対して、5G(第5世代移動通信システム)基地局向けに高周波デバイスのパワーアンプ・モジュールが大手基地局メーカーに採用され、通信容量の増強に貢献しています。

さらに、次世代のBeyond 5G/6Gに向けて要素技術開発も始めています。

梶谷 半導体の研究開発は世界的に競争が激しく、莫大な投資が必要となりますが、そこで日本企業として実際に勝ち抜いているのがすごいですね。

増田 化合物半導体は日本の製造業の強みを活かせる分野であり、生き残れる分野だと思います。

ちなみに当社が手がける化合物半導体製品の中には赤外線センサもあります。

私どもは、このセンシングと通信の掛け合わせに将来性を感じています。

生成系AIがさらに普及することで、センシング技術を活用してあらゆる環境から情報を引き出すニーズが格段に高まり、社会課題の解決や新たな価値の創出が実現するかもしれません。

梶谷 LLMの進化がまさに今その方向に進んでいますよね。

LLMのマルチモーダル化が進む中で、赤外線センサのデータを処理するユースケースも登場しそうです。

パッと思いつくところでは、駅の人流の解析や店舗における利用動向の解析など。

分析対象のデータが動画だと重すぎる上、プライバシー侵害のおそれもありますが、赤外線センサのデータであれば、容量的にも十分かつプライバシーも保護されるので、その特性が活きそうです。

梶谷健人氏と増田健之氏の写真

増田 ありがとうございます。今まさにそういったアイデアがどんどん集まっていて、実際に社会で活かせないか検討しているところです。

この先、梶谷さんがおっしゃるような、人間そのものに組み込まれるほど、生成系AIが浸透する時代が訪れるかもしれません。

そうなった時、我々の通信用半導体デバイスやセンサは今以上に社会に不可欠な基盤的製品となっているはずです。

そんな世界の実現に向けても、より良い製品を提供し、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。

(執筆:青山祐輔 撮影:黒羽政士 デザイン:吉山理沙 編集:下元陽)

※本記事内の製品やサービスの情報は取材時(2024年4月)時点のものです。

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