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検査現場で「眼」の役割を果たすCISの実力

シナジーコラム 密着イメージセンサ(CIS)×検査装置 検査現場で「眼」の役割を果たすCISの実力 ライター市原淳子×三菱電機株式会社 防衛・宇宙システム事業本部 総合センサシステム事業部 総合センサシステム営業第二部 営業第一課 佐々木 雅広 ジクス株式会社 代表取締役 高原 亮介

検査の対象物に接近し、クリアな画像を撮るために使われるのが「密着イメージセンサ(CIS)」だ。三菱電機は、従来ATMや複合機などに利用されてきたCISを、業界に先駆けて”検査用”にも用途を広げ、10年以上お客様にご愛顧いただいている。今回は、このCISにいち早く着目し、印刷物の検査装置に採用したジクス株式会社の代表取締役・高原亮介氏にインタビュー。「本来、機械による検査に向いていない」という印刷物検査の実情やCIS活用のメリットなどを伺った。
※CIS:Contact Image Sensorの頭文字

キーワードは「エビデンス」と「スキルレス」

2010年に東京都板橋区で創業したジクス株式会社は、印刷物に特化した検査装置の開発・製造・販売を手掛けている。ジクス製の検査機器が対象とする印刷物は、クレジットカード明細のような個別印刷物から飲料缶、食品や化粧品のパッケージなど多岐にわたる。同社の高原亮介社長は、クライアントから多様なニーズを引き出し、それに応えるべくオーダーメイドともいえる多くの検査装置を提案、開発してきた。

高原亮介の写真
ジクス株式会社 代表取締役
高原 亮介(たかはら りょうすけ)

高原:印刷物は本来、機械による検査には不向きなのです。例えば、クレジットカード明細のようなバリアブル印刷(データを元に個別に内容を変えながら印刷するもの)ですと、検査対象は1枚ずつ異なるので確認が難しい。また、目に見えない大きさの汚れでも、問題にならないところにつけばパス、製造番号の上につけばNGと、一律に対応できない場合もあります。そのため、これまで印刷業界は検査員による官能検査(人間の五感を使って品質を判定する検査法)に頼ってきた部分が大きいのです。

高原氏にお話を伺ったのは、三菱電機でCISの国内営業窓口を担当する佐々木雅広さんだ。

佐々木雅広さんの写真
三菱電機株式会社 防衛・宇宙システム事業本部
総合センサシステム事業部
総合センサシステム営業第二部 営業第一課
佐々木 雅広(ささき まさひろ)

佐々木:製造現場はどこも人手不足だと、私もクライアント様からよく伺います。印刷物の検査員の方も足りていないのでは?

高原:そうなんです。印刷物の検査において、チェックすべきポイントが3つあります。1つは色、2つ目はゴミや汚れ、3つ目は見当(けんとう)といって、印刷の版のズレです。この見当を見るには経験が必要なのですが、老眼になると検査が難しくなってしまう。少子高齢化の影響で若者の確保は大変ですから検査員はどんどん減っているのです。そこで、検査スキルのないスタッフでも一定以上の成果が出せる検査装置、つまりスキルレスな検査装置の開発が必要だと、常々考えていました。

もう一つ、今の印刷物検査に求められるのが「エビデンス(科学的根拠)」です。かつては高額化粧品のパッケージなどにはすべて官能検査を行なっていましたが、ほとんどの印刷物は一定レベルをクリアしていれば全数検査は不要でした。ところが最近は、どんな印刷物にも「検査済」というエビデンスが求められる傾向があります。そうしたニーズに対応するため、検査装置を導入しようと考える印刷会社やメーカーが増えています。

佐々木:なるほど、印刷物の検査装置に求められるのは「スキルレス」と「エビデンス」なのですね。

CIS搭載の検査装置の実力

CISは、光源とレンズ(ロッドレンズアレイ)、センサが一体になったイメージセンサ。検査対象物(媒体)に光を照射し、レンズを介してその反射光をセンサで受光してデジタル画像にするのがおおまかな仕組みだ。

三菱電機は1986年から複合機やスキャナ、ATMなど高度な読み取り能力を求められる機器向けのCISを手掛けてきた。その後2013年に、他のメーカーに先駆けて外観検査用のCISを発売。ジクス製検査装置に搭載されているのもこのタイプだ。

佐々木:ジクス様にご採用いただいたCISは外観検査用に開発した「KD-AXシリーズ」です。このシリーズはカラー読み取り専用で、かつ高速読み取りが可能です。また、弊社のCISは「色の再現性」が高く、人間の眼に近い色のとらえ方をするのが特長です。

三菱電機 密着イメージセンサ KD-AXシリーズ
三菱電機 密着イメージセンサ KD-AXシリーズ

高原:私が三菱電機製のCISを知ったのは10年ほど前です。大手印刷会社の研究所から開発依頼があって、相談に伺ったときに「こんなセンサがあるよ」と教えてもらったんです。CISが複合機などにも使われていると聞き、それなら印刷物検査に向いているのでは、とピンときました。それ以前から三菱電機製の機器を検査装置に導入していて信頼感がありましたから、CISについてもすぐに相談し、採用を決めました。

製造現場に見るCIS搭載の検査機器の実力

ジクス製の印刷用検査装置は、日本全国の製造現場で活躍している。その一つが、文房具や化粧品容器、プラスチック加工品などを製造する株式会社エポックケミカル(埼玉県久喜市)だ。エポックケミカルは6、7年前から自社で商品パッケージを印刷しており、それを検査するためにジクス製検査装置を20台以上導入。そのすべてに三菱電機のCISが搭載されている。

LEDライトが点灯した横長の装置(右奥)が、生産ラインに組み込まれたCIS。写真協力/エポックケミカル
LEDライトが点灯した横長の装置(右奥)が、生産ラインに組み込まれたCIS。写真協力/エポックケミカル

高原:弊社の検査装置を導入するまで、エポックケミカル様はラインスキャンカメラで印刷物検査をされていました。しかしラインスキャンカメラの場合、検査対象物が変わるたびに1日以上かけてカメラの設定変更をする必要がありました。エポックケミカル様は非常に多くの製品を手掛けられ、20以上の生産ラインがありますから、生産品目を変えるたびにすべてのカメラの設定を変えるのは大変だったそうです。そこで、CISがラインスキャンカメラよりも設置が簡単であるという点に興味を持たれ、三菱電機へ問い合わせされたと伺っています。その後、三菱電機CISと弊社検査装置の組み合わせを提案し、今回の導入にいたりました。

佐々木:過去よりCISをご採用いただいているジクス様だからこそ、エポックケミカル様に共同提案させていただく際は、非常に心強かったことを覚えています。ちなみに、御社の検査装置を導入した後は、設定変更にかかる時間はどれくらい短縮されたのですか?

高原:1台あたり5分から10分程度で済むようになりました。

佐々木:1日がかりの作業が5分から10分になるとは、かなり大きな時間短縮ですね。ちなみにラインスキャンカメラ導入以前は、人による官能検査をされていたのでしょうか。

高原:そのように伺っています。 しかし、官能検査は神経を遣う作業ですから疲れが出るし、そうするとミスも起きやすくなる。検査の自動化には大きな効果があったと考えています。また、エポックケミカル様の場合、生産ラインに組み込むかたちで検査装置を設置されています。三菱電機製CISはコンパクトですから、エポックケミカル様にご採用いただいた検査装置にぴったりでした。

接写方式CISの特長

佐々木:ユーザー様の生産性向上と検査装置の小型化に貢献できたと伺い、うれしいです。エポックケミカル様ではペンなどのパッケージ印刷を検査することが多いそうですね。そういった円筒形のものはどのように検査するのですか?

高原:検査対象物を2回転させて、その間にCISが1周分の完全な画像を読み取り、それについて検査するという仕組みです。通常のカメラの場合、検査対象物とカメラの距離が離れていますから、カメラの画角が少しでもずれると映る範囲が変わってしまい、検査ができません。しかしCISは対象物のごく近くで撮像しますから、いつも同じ画像が得られます。

印刷加工されたボールペン1本ずつを高速に回転させて撮像し、インク飛びや色ムラなどを検出。 写真協力/エポックケミカル
印刷加工されたボールペン1本ずつを高速に回転させて撮像し、インク飛びや色ムラなどを検出。 写真協力/エポックケミカル

佐々木:今回採用いただいたKD-AXシリーズでは、CISと検査対象物の距離は12mmと近接しています。それでも検査対象物がくっきり映るように、至近距離を撮るのに最適なレンズを内蔵しています。

高原:接写してもピンボケしないのは大きなメリットです。LED照明が検査対象物に近いのもいいですね。近くから照らすと明るい画像が撮れるので、欠陥を見つけやすくなるんです。また、照明に必要なエネルギーが少なくなるので、省エネにもつながります。

佐々木:CISの特長を深くご理解いただき、ありがとうございます。私たちのCISは印刷物のほかに、高機能フィルム、基板や半導体ウエハといった電子部品、住宅用の建材や自動車のパネルといった曲線のある部材など、さまざまな品目の検査にお使いいただいています。従来のラインスキャンカメラと比較して、歪みの少ない画像が取得でき、より正確な欠陥の判別が可能であるとお褒めの言葉もいただきます。

高原:みんなCISの便利さに気づき始めているんですね。ジクスでは検査装置にFA(ファクトリー・オートメーション)も加えて、生産ライン全体をご提案することもあります。その核となるのは高精度な検査ですから、CISには「縁の下の力持ち」として検査品質の向上に寄与することを期待しています。それに、三菱電機に対しては、絶対に裏切らないという強烈な安心感と信頼感があります。充実した仕様書・マニュアル、そして担当者が製品の開発に寄り添ってくれる、まさに玄人の集団です。

高原亮介さんと佐々木雅広さんの写真

佐々木:その言葉をお聞きして、CISの「眼」としての力をさらに磨かなければと背筋が伸びました。これからもお客様に「密着」して製品企画を進めますので、今後ともよろしくお願いいたします!

※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2024年10月)時点のものです。

市原淳子さんの写真
取材・文/市原 淳子
雑誌の編集者・記者を経て独立。食やヘルスケア、医療・介護から最前線のビジネスフィールドまで幅広いジャンルにわたり、Webメディア、雑誌、新聞、また単行本の企画・構成などを手がける。企業人や職人、アーティストへのインタビュー多数。発信者と読者をつなぐ、わかりやすくて面白いメディア作りの達人。
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