インターネットを利用する上で欠かせない存在がデータセンター。重要なデータを預かるこの設備には、何があっても電力供給を絶やさないために「非常用発電装置」と「無停電電源装置(UPS)」の2つの設備を用意している。UPSは、非常用発電装置が起動するまでのたったの100秒をつなぐためだけに存在する装置だった。
INDEX
- 「万が一の100秒間」のために18年以上待機!健気な装置UPSはいったいどんなときに働くのか?
- そもそもデータセンターとは?
- データセンターはグローバル化にも貢献
- 電源維持のために幾重にも保険をかける
- 稼働のない10年間は、万が一の"100秒間"のため
「万が一の100秒間」のために18年以上待機!
健気な装置UPSはいったいどんなときに働くのか?
そもそもデータセンターとは?
ネット通販やeメール、インターネットバンキング、ソーシャルゲーム、SNS――。インターネットをつなげたその先に必ずあるのが「データセンター」だ。普段の生活の中で意識することはほぼないが、インターネット上のシステムを安全かつスムーズに動かすために、データセンターは欠かせない。
データセンターとは、サーバーやルーターなどのコンピューターやデータ通信設備などを設置・運用するための施設のこと。そのような施設がなかった約30年前は、多くの企業が自社内にそうした設備を置くスペースを確保し、自社で管理していた。
その後、ICT化が急速に進むにつれて、ほとんどの業種でコンピューターが爆発的に普及。コンピューターが増えれば、そのぶんの通信回線や電力、コンピューターの冷却装置なども必要になってくる。
社屋に収まりきらなくなったコンピューターや付帯設備の受け皿となるべく、1990年頃からデータセンターをビジネスとする企業が登場した。データセンター事業者は、コンピューターの設置スペースを提供するだけでなく、その保守管理やセキュリティー対策などを一手に引き受けている。
そのデータセンターの中枢に、「働かないに越したことはない」と言われ、18年以上一度も稼働していない装置があるという。今回は、その装置の謎を探るべく、データセンター事業者である三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社(通称MIND)を訪問した。
データセンターはグローバル化にも貢献
1989年に設立されたMINDは、1996年初頭からデータセンター事業を開始。この分野では先駆者のうちの一社だ。全国5か所のデータセンターはすべて利便性の高い都市部にあり、多くの企業から委託されたコンピューターシステムの運用・管理を行っている。
謎の装置について教えてくれるのは、MINDデータセンターサービス部長の小杉聡さんとデータセンター運用部次長の久保昌司さん。
小杉:MINDでは日本企業だけでなく、中国、韓国、シンガポール、オーストラリア、ベルギー、ブラジルなど、海外のお客さまのシステムもお預かりしています。そのなかには通信事業者(=キャリア)もいらっしゃいます。
MINDのご利用者さま同士が、このデータセンター内で回線工事をすれば、大規模な工事を行わなくても他国のキャリアと通信回線を開通させることができます。そういった意味で、通信事業者が集まるうちのようなデータセンターは「キャリアホテル」と呼ばれているんですよ。
今後はますます広く、きめ細かなネットワークの重要性はますます高まっている。しかし、外国企業がMINDに注目する理由は利便性だけではない。
久保:MINDには日本語・英語・中国語の3ヶ国語に対応した統合運用管制センター(MIND ICC)があるので、外国のお客さまでも活用しやすいのです。また、24時間365日、専門のスタッフが待機しているため、時差のある国からの「サーバーの様子を確認してほしい」といった要請にもすぐに対応できるのが特徴です。
小杉:あとは何と言っても"信頼性"です。データセンターは、お客さまからお預かりしたシステムを何があっても絶対に止めない。これを保証することで対価をいただくビジネスです。それを担保するために、例の装置が関わっています。
電源維持のために幾重にも保険をかける
データセンターとは何か、ようやくわかったところでいよいよ本題。なぜ一度も稼働したことのない装置をここに置くのか。
久保:まず、データセンターの基本的な仕組みをお話しします。このデータセンターではシステムを動かすために、2万2000ボルトという高電圧を必要とします(※1)。例えば今日ご案内したこのデータセンターの場合、電力会社から3系統スポットネットワークと呼ばれる受電方式で施設内に引き込まれ、それを6,600ボルトでA系とB系の2つに分電します。これをさらに200/100ボルトに降圧して、サーバーなどの各システムに給電しています。
※1 日本の場合、一般家庭の電圧は100ボルト。比べてみるとデータセンターの電気需要の大きさがよくわかる。
スポットネットワークや系統が枝分かれしているのは、万が一どこかにトラブルが発生しても電力供給を切らさないためだと言う。しかしそこまで対策していても、事故や災害によって電力会社からの送電が途切れる可能性はゼロではない。
小杉:電力がたった数秒間絶たれるだけで、データセンターがお預かりしているシステムがダウンし、重要なデータが失われる恐れがあります。それは絶対にあってはならないこと。
そんな事態に備えて設置しているのが「無停電電源装置(UPS)」と「非常用発電装置」です。この2つを連動させることによって、万が一のときにはデータセンター内で自家発電し、システムを維持するために必要なすべての電力を確保できるのです。
例えば、銀行のシステムがダウンすれば顧客の口座情報が消えるかもしれない。ネットスーパーに注文できなければ消費者の生活に支障をきたすし、スーパーには大打撃となる。SNSへの投稿が消えればユーザーは困惑し、その運営者にはクレームの嵐が届くだろう。
データセンターが電源維持のために幾重にも保険をかけているのは、こうした非常事態を未然に防ぐためなのだ。
稼働のない10年間は、
万が一の"100秒間"のため
久保:電力会社からの電力供給が絶たれた場合に備えて、MINDには3台もの非常用発電装置、通称「ヒハツ」があります。電力供給がほんの一瞬でも途切れたらUPSが電力供給を継続します。ヒハツを起動させる100秒間を補うのがUPSです。
UPSとは「無停電電源装置(Uninterruptible Power Supply)」のこと。停電や電圧低下が起きた際は、ヒハツ稼動までサーバーに供給します。
久保:このデータセンターに必要な電力分を発電するには、ヒハツが2台必要です。2台のヒハツが動き出し、フル稼働するまでにかかるのは長くて約100秒。この100秒間のためにUPSは存在しています。ヒハツ、そしてUPSが使われるのは大規模な事故や災害のときだろうと思いきや、実はそればかりではないらしい。
実は一般家庭では、電源が一瞬だけ途切れる「瞬停(※2)」と呼ばれる現象が驚くほど頻繁に起きている。落雷などの際に電灯が一瞬だけ暗くなるのも瞬停によるものだ。
データセンターが使用する業務用の電源は「特別高圧」と呼ばれ、瞬停が起こる可能性は非常に低いが、絶対にないとは言い切れない。
久保:海外では瞬停がかなり頻繁に起こるので、外国企業の方は瞬停対策も気にされますね。
小杉:ヒハツが動き出すのは、停電が2秒以上続いた場合です。実は過去に一度だけ瞬停が発生したのですが、このときは1秒以下だったのでヒハツは動かず、UPSが何事もなかったかのように電力を供給し続けていました。それがもしあと1秒続いたら、ついにヒハツの初出動となっていたかもしれませんね。
※2 瞬停(しゅんてい):瞬間停電のこと。瞬断、瞬電とも言う。