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設備を守る低圧遮断器と低圧開閉器で進む「扱いやすさ」の追求

シナジーコラム 低圧配電制御機器×省施工 設備を守る低圧遮断器と低圧開閉器で進む「扱いやすさ」の追求 ライター 松尾 康徳 × 三菱電機株式会社 福山製作所 営業部 遮断器営業課 西田 一雄(にしだ かずお)営業部 電磁開閉器課 松村 俊希(まつむら としき)シナジーコラム 低圧配電制御機器×省施工 設備を守る低圧遮断器と低圧開閉器で進む「扱いやすさ」の追求 ライター 松尾 康徳 × 三菱電機株式会社 福山製作所 営業部 遮断器営業課 西田 一雄(にしだ かずお)営業部 電磁開閉器課 松村 俊希(まつむら としき)

「電気」は人間社会に不可欠なエネルギーだ。動力や光、熱などに形を変えて、社会に利便性をもたらしてくれる。半面、使い方を間違えると、大きな事故につながりかねない点で扱いの難しい存在でもある。そうした事故を防ぐためにさまざまな制御機器が用意されているが、特にそのうち低圧の領域で使われる低圧配電制御機器の分野で90年以上の歴史を持つのが三菱電機 福山製作所だ。低圧配電制御機器に求められる安全性確保を第一義としながらも、新機軸を取り入れながら発展を続けているという。

そもそも低圧配電制御機器とは

どんなエネルギーにも事故や火災、漏電などの危険性がある。石油やガスに限らず電気も同様だ。そこで電気の安全性を確保するために各種の制御機器が現場では使われており、その一つが電気の流れを適切に入り切りする配電制御機器である。配電制御機器には、電力会社から電力供給を受けるポイントの受電設備のキュービクルで使われる高圧対応の機器と、その受電設備の配下で電力の分配や制御を行う分電盤や制御盤などで使われる低圧対応の機器がある。低圧配電制御機器は後者の部類だ。

三菱電機の低圧配電制御機器

低圧配電制御機器は、保護の目的により「低圧遮断器」と「低圧開閉器」に大別される。低圧遮断器は過負荷や短絡、漏電からの被害を防止する機器なのに対し、電磁開閉器は回路のON/OFF制御と過電流の際にモータの損傷を未然に防ぐ機器である。遮断器が「保護する」こと、電磁開閉器が「制御する」ことを主眼としている点に違いがあるが、適切な電流制御により大電流から顧客を守るという大きな目的では変わらない。

この低圧配電制御機器の分野で業界の大きなシェアを握っているのが三菱電機だ。1933年に国内初の配線用遮断器(ノーヒューズ遮断器)を発売後、高遮断容量化、小型化などを進めてきた。同時に製造業の海外進出に対応するために国際規格適合にも力を注いできたことが、現在のシェアの背景にある。

労働力不足の時代に向けて手を打つ

日本では新たな社会課題として「労働力不足」が取り沙汰されている。2040年に1100万人の労働力が不足するという試算もあり、熟練技術者の確保は将来にわたって難しくなるのは確実だ。労働力が減り続ける局面では、同じ作業に従来と同じ工数は掛けられない。もちろんそれは配電制御機器を使う電気工事の現場でも同じだ。

しかし三菱電機は既に、労働力不足という社会課題に対しても手を打っているようだ。それが「省施工」性の追求だ。その取り組みの一つとして2019年から遮断器や電磁開閉器で提供している「スプリングクランプ端子」について、福山製作所の松村俊希さんが説明してくれた。

松村 俊希さんの写真
三菱電機株式会社 福山製作所
営業部 電磁開閉器課
松村 俊希(まつむら としき)

松村:スプリングクランプ端子は、機器の端子部に電線を挿し込むだけで配線作業が完結する端子台です。従来の端子部は接続部のねじをドライバーで緩めてからケーブルを挿し、再びねじを締めなくてはなりませんが、その作業が不要になるメリットがあります。

低圧配電制御機器にまつわる作業で最も工数が掛かるのは、やはり設置時の施工作業だ。両手に電線とドライバーを持って行う作業は煩わしい。しかもねじは感電防止のために奥まったところにあることが多く、ドライバーが入りにくいこともある。しかしスプリングクランプ端子はねじを使わず、ばねと導体の間に電線を挟み接続する。ドライバーによる締結作業が不要になる点で、工数削減の効果が大きい。さらに松村さんは安全性にも大きな効果があるという。

松村:ねじは振動による緩みが起こり得ます。定期的な増し締めを行わないと、火災などの原因になりかねません。増し締めが不要なスプリングクランプ端子は、そうした事故防止にも効果的と言えます。

スプリングクランプ端子仕様の遮断器と電磁開閉器
スプリングクランプ端子仕様の遮断器と電磁開閉器

本来、スプリングクランプ端子は電線を押し込んで配線するため、端子先端部を固着させているフェルール端子や単線は使えても、より線は押し込む際に線がめくれてしまうため使えない。実際、スプリングクランプ端子は他社も提供しているが、いずれも対応はフェルール端子に限定されている。しかし三菱電機は省施工性を追求するためにより線、単線にも対応させているのが大きな特長だ。内部のばねを工具で開き、より線を挿した状態で工具を抜くことで結線できる。素線接続が可能となり、フェルールの圧着作業が不要で作業時間の短縮が見込める。また、低圧遮断器のスプリングクランプ端子仕様は国内初となる50A定格をラインアップしている。

スプリングクランプ端子での線の形状ごとの配線方法
スプリングクランプ端子での線の形状ごとの配線方法

省施工と電力の見える化で付加価値創出した「MDUブレーカ」

もともと低圧配電制御機器は差別化の難しい機器とされる。それでも三菱電機が確実にシェアを確保してきたのは、新しい機能の提供で付加価値向上に継続的に取り組んできたためだ。その代表的なトピックの一つが、1997年に発売した「MDUブレーカ※1」である。
※1 MDU:Measuring Display Unit(計測表示ユニット)

MDUブレーカは、低圧遮断器に電路の計測・監視機能と通信の機能を持たせたものだ。「もともとは大手自動車メーカー様からの要望で作られた機器です」と福山製作所の西田一雄さんは話す。

西田 一雄さんの写真
三菱電機株式会社 福山製作所
営業部 遮断器営業課
西田 一雄(にしだ かずお)

西田:主に配電盤のところで消費電力を測ろうとすると、計測器や変成器を組み合わせなければなりません。その煩雑な設置作業にかかる工数を削減したいというのが最初のニーズでした。計測機能や表示ユニットまで内蔵したMDUブレーカは、省エネのためにまず見える化から始めたい企業に受け入れられました。

当時は地球温暖化防止を掲げた「京都議定書」が1997年に採択されるなど、環境への意識が産業界で高まり始めていた時期。その時代的な背景を受け、低圧遮断器を「保護する」だけの機器から、「測る」まで可能な機器に発展させる流れを作ったのである。

MDUブレーカで更なる「省施工」を追求

省施工と電力の見える化を実現するMDUブレーカは、拡張性や操作性の向上により更なる省施工を見据えている。前者の拡張性の向上は、具体的には従来の遮断器に見える化の機能を後付けできる仕組みの提供である。

西田:これまでのMDUブレーカは計測器と一体型の専用品でした。また、見える化できても、分電盤に設置されているような小形遮断器単位の見える化までは対応できていませんでした。そこで小形遮断器にユニットをワンタッチで取り付けできるような構成が必要と考えています。

もしすべての遮断器をMDUブレーカに置き換えようとすると、コストの問題はもちろん、施工の負担は相当なものになるはずだ。しかしユニットをはめ込むだけで済み、ケーブルの新たな敷設も不要ならばそうした負担は生じ得ない。

後者の「操作性の向上」は、設定作業をスマートフォンで行えるようにする機能だ。遮断器にはめ込んだユニットごとに計測や電路監視に関する初期設定作業は、遮断器に付いた小さなボタンで行うのが一般的だが、それをスマートフォン上で行い、その設定情報を無線で転送する。小さくて扱いにくいボタンをいくつも使う必要がなくなるわけだ。

西田:今回ご紹介したMDUブレーカやスプリングクランプ端子製品のように、これからもお客様の声を反映した製品を作り、市場の変化に合わせた製品をラインアップしていきます。

低圧配電制御機器はこれまで、制御盤開発で長年の経験を積んだ専門技術者が使えればそれで十分だった。専門家以外が使うことは基本的にない機器だからだ。しかし労働力人口の減少の中、今後は高齢者や外国人など多様なバックグラウンドを持った人材が、この分野でも増えてくるに違いない。その時、従来のような専門家前提の機器では、いくら性能に優れていてもやがて使われなくなるだろう。省施工の追求は制御盤開発の現場の人材多様化に必要であり、三菱電機はそこに低圧配電制御機器の次のテーマを見いだしているようだ。

※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2024年2月)時点のものです。

製品のご紹介

三菱電機配電制御機器

スプリングクランプ端子仕様シリーズ

ノーヒューズ遮断器・漏電遮断器/サーキットプロテクタ/電磁開閉器

松尾康徳さんの写真
取材・文/松尾康徳(マツオ ヤスノリ)
技術分野の出版社、携帯キャリア法人営業部門常駐経て独立。ものづくりやIT、ネットワークなどの産業分野を得意とするライター。雑誌やWebの記事や映像台本のほか、ホワイトペーパーなど技術文書の制作も手掛ける。IoTでものづくりとネットワークが結びついたことで「ようやく自分の時代が来た」と意気込んでいる。