循環型デジタルエンジニアリング企業への変革を掲げる三菱電機は多くの製品やサービスに「ライフサイクルソリューション」の要素を取り入れ、製品開発やお客様との関わり方を変化させている。その具体例について、空調・冷熱機器を担当する二人に聞いた。
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サステナブルなビジネスを目指して
三菱電機のライフサイクルソリューション(以下、LCS)とは、お客様に製品を提案するときに始まり、製品を使用している間、そして更新のタイミングまで、製品のライフサイクルを通じてお客様をサポートし続けるというコンセプトだ。三菱電機ではすでに多くの事業でLCSの視点を取り入れてビジネス展開しているが、空調・冷熱システム事業部もその一つ。まず、同事業部に所属する若林京平さんにLCSという要素がビジネスに何をもたらすかを聞いた。
空調冷熱計画部
企画グループ 兼 業務グループ 専任
若林 京平(わかばやし きょうへい)
若林:ポイントは「つながり続ける」という点です。当社はサステナビリティの実現を経営の根幹に据えており、空調・冷熱事業においてもその発展のために、この要素が不可欠です。そこで、これまでのように主に製品の販売に軸足を置くのではなく、販売後もさまざまな形でお客様に安心感・満足感を感じ続けていただくことにより、次の更新時期に再び三菱電機の製品を選んでいただけるようにする。これが私たちの考えるLCS、サステナブルな循環型ビジネスモデルです。

三菱電機の業務用空調機として初の月額制クラウドサービス
空調冷熱部門において、LCSを具現化したともいえるサービスが「MELく~るLINK(めるくーるりんく)」だ。これは業務用空調機を対象とした月額制のクラウドサービスで、2022年8月にサービスを開始している。
まず、「MELく~るLINK」の概要について、開発企画から販促・営業に携わった伊藤彰広さんに聞いた。
伊藤:オフィスビルや病院、工場、学校などほとんどの施設には、ビル用マルチエアコンや設備用パッケージエアコンなど、いわゆる業務用空調機が設置されています。その業務用空調機器をまとめてクラウド上で管理し、保守をサポートする月額制のクラウドサービスが「MELく~るLINK」です。
「MELく~るLINK」がサービス対象としているのは、三菱電機の業務用空調機だ。専用の遠隔監視デバイスを設置することで各ユニットからデータが自動的に送信され、それを活用することで「異常発報」「運転データ閲覧」「冷媒漏えい診断」の3つの機能を利用できる(一部はオプション機能)。ちなみに三菱電機が業務用空調機分野でクラウドを使った月額制サービスをリリースしたのはこれが初めてで、デバイス1台につき最大(室内機)50台までの空調機を月額5,500円で管理できる。
お客様と保守サービス担当者に継続的な価値を提供
「MELく~るLINK」の基本機能は「異常発報」だ。これは、空調機に何らかの異常が発生した場合、あらかじめ設定した管理担当者などにメールで連絡が入り、Webブラウザ上でも確認できるというもの。

通常の場合、空調機に何らかの異常が発生するとリモコンに数字4桁のエラーコードが表示される。エラーコードの種類は、フィルターの目詰まりから通信異常、電流値異常など100を優に超える。もし、空調機のユーザーがエラーコードを理解できれば、軽微なエラーは自分たちで対応し、必要な場合だけ施工・メンテナンス業者(以下、業者)にサポートを要請すればよい。しかし現実的には、エラーコードの意味や対策を調べるのは手間も時間もかかる。そこで空調機ユーザーはエラーの内容にかかわらず、業者に連絡して対応を求めることが多い。
伊藤:サービスをされる業者様の人的資源には限りがあるので、呼ばれるたびにお客様のところに出動するのは大変です。修理が必要になった場合も、現場で状況を確認してから部品を手配し、修理をするとなると二度、三度の手間がかかってしまいます。しかし、「MELく~るLINK」を使えば、現地に行かずともメールなどで異常の内容を把握できるので、必要な部品を準備してお客様のもとに向かえます。場合によってはお客様に「ボタンを一度、ON/OFFしてみてください」などと連絡するだけで、すぐに問題解決できることもあるでしょう。業者様にとっては労力や稼働時間の削減になりますし、空調機ユーザーの方も快適な環境を早く回復できる。両者にメリットがあるのです。
冷媒の点検を合理化してカーボンニュートラルに貢献
「MELく~るLINK」には他に2つのオプション機能がある。この2つはいずれも空調機の「冷媒」に関わるものだ。冷媒とは、室外機と室内機をつなぐ配管の間を巡り、空気の熱を運ぶ物質のこと。冷媒として使われるのはフロンなど、地球温暖化につながる温室効果が高いものが多い。そこで政府は令和2年4月に冷媒の漏れや、みだりな放出を防ぐため「フロン排出抑制法」を改正。業務用空調機などの管理者に対しては、フロン類の漏えい防止のために簡易点検・定期点検などを義務付けている。
伊藤:「MELく~るLINK」には、空調機の運転データをWebブラウザ上で確認し、冷媒の温度や圧力などをチェックできる「運転データ閲覧」機能があります。業者様など、冷媒に関するノウハウをお持ちの方がこのデータを見れば、空調期の不調に気づけるだけではなく、どこに問題があるか目星をつけやすいので、いち早くご対応いただけるのです。

もう1つのオプション機能は「冷媒漏えい診断」だ。空調機の状況を毎日チェックし、漏えいの可能性がある場合はメールで連絡が入り、Webブラウザでも確認できる。また、この診断記録は、フロン排出抑制法で義務付けられた「簡易点検」の代替として利用できる。簡易点検は、空調機の室外機について油のにじみがないか、熱交換器に錆はないかなどをチェックするというもので難しくないが、3ヶ月に一度、室外機1台1台をチェックして記録を残す必要があり、自分で行うのはかなり面倒だ。実際、ビルオーナーの多くは別の業者に依頼している。
伊藤:昨今の人手不足で、業者様のなかには簡易点検を引き受けられないケースが多く発生しているようです。また、小規模のビルオーナー様からは簡易点検に費用をかけたくないというお話をよくお聞きします。しかし、「MELく~るLINK」の「冷媒漏えい診断」をお使いいただけば、自動的に診断記録を残すことができ、簡易点検の代わりになります。また、万が一冷媒が漏れると空調機がうまく働かなくなりますが、適切に「冷媒漏えい診断」をすれば、空調機を安全に使い、いつでも快適な室温を保つことができます。

若林:政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。それに伴って業務用空調・冷熱機器の管理者に求められるフロン排出抑制法対応の重要性が増しています。私たちメーカーとしては、お客様が適切なフロン管理を効率的に実施されるための支援をさせていただきたいと考えており、製品のライフサイクルを通じて、そのような価値をご提供し続けるツールが「MELく~るLINK」なのです。
2024年1月30日から2月2日に東京ビックサイトで開催されるHVAC&R(ヒーバック&アール)JAPAN2024で、三菱電機はライフサイクルソリューションをコンセプトにブースを展開する。「MELく~るLINK」は、そのコンセプトを具現化したアイテムの一つとして紹介される予定だ。サービス事業者には省力化という価値を、ビルオーナーにはフロン排出抑制法の順守という価値を、そして空調機ユーザーには快適に安心して空調機を利用するという価値を提供し続ける「MELく~るLINK」。カーボンニュートラルに貢献できるという面を見れば、地球温暖化に悩まされる私たち全員に価値あるサービスともいえるだろう。
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2023年11月)時点のものです。