路上や店舗、駐車場など、私たちの身近なところに設置されているネットワークカメラ(一般に「監視カメラ」ともいう)。24時間365日、撮り続けられている映像は、AIによる映像解析技術が加わったことで、事故防止や省人化、マーケティングなど、防犯以外にも幅広い用途で活用されつつある。
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ネットワークカメラの用途は防犯以外にも
ネットワークカメラは主に、交通違反や窃盗などの犯罪を抑止するために設置されている。また万が一、事件や事故が起きた場合にはその検証にも用いられる。三菱電機では河川の水位監視や工場の生産ライン監視など、さまざまな用途に対応するネットワークカメラを取り揃えてきた。そうした用途に加えて、これからのネットワークカメラはもっと多様な形で社会に貢献できると、社会システム事業本部の鈴木留依さんは考えている。
鈴木:画像処理技術の向上によって、最近のネットワークカメラは高画質化しています。また、電源がオンになっている限り、ネットワークカメラはずっと映像を撮り続けています。24時間365日撮りためた映像に対して自動的に映像を解析し、目的の情報が抽出できれば、ネットワークカメラにできることは格段に増えるはずです。
三菱電機は、2023年6月に初のAI搭載ネットワークカメラ「MELOOK AI(メルック エーアイ)」をリリースした。開発を担当したのは、コミュニケーション・ネットワーク製作所の佐々木啓友さんだ。
佐々木:「MELOOK AI」の最大の特長は、AIプロセッサーがカメラ本体に内蔵されていることです。AIがカメラ内部で映像を解析するため、人や車両などのターゲットを即座に検知してアラーム発報などの動作につなげることができます。
「AI内蔵」によって大幅なコストダウン
ネットワークカメラの映像をAIで解析するには、2つの方法がある。1つはサーバで映像解析をするタイプ。この場合、カメラが撮った映像を圧縮してサーバに転送し、再び通常の映像に戻した上でAIが映像を解析する。もう1つは「MELOOK AI」のようにカメラ内部で映像解析をするタイプだ。
佐々木:カメラ内部で映像解析するほうが画質劣化のない非圧縮映像に対して解析するので、精度の高い結果が得られます。また、映像解析用のサーバなしでお使いいただけるということもメリットです。詳細な情報を得るためのサーバの場合、数百万円というコストがかかる場合もありますし、運用には多量の電力を消費します。また、設置スペースも必要です。しかし、「MELOOK AI」はサーバ不要で運用できるため、サーバ用の初期費用と電力、設置スペースを削減できます。
「MELOOK AI」に内蔵されたAIは、あらかじめ「人」「車両」「二輪車(自転車やバイク)」を学習している。そのため、本体に2種類の機能拡張ソフトウェアのうち、いずれかをインストールすれば、すぐに映像解析を利用でき、業務に組み込める。
鈴木:一方で、サーバで解析するタイプのシステムは、詳細な映像解析ができるのが利点です。例えば、AIに「人」という情報に加えて「ふらついている人」「杖を持った人」などを覚えさせることで、人をより細かく検知できるようになるのです。ただし、AIに個別の学習をさせるにはサンプル画像の収集、教師データの作成、学習といった工程が必要であり、サンプル画像の質も重要になります。この工程には一般的に時間と費用がかかります。ですから、特定の対象物(人・車両・二輪車)を検知してすぐに業務に組み込むなら「MELOOK AI」、個別の状況に応じてより細かい情報を得たいならサーバ型と、使い分けていただけばよいと思います。
【MELOOK AIの守り方1】侵入者から守る
AIが人・車両・二輪車を検知する「MELOOK AI」は、主に3つのリスクからユーザーを守るのに貢献する。
- (1)侵入者から守る
- (2)事故から守る
- (3)負担から守る
まず「侵入者から守る」について。「侵入検知」機能を使うには、「MELOOK AI」設置後、パソコンの画面上で柵の部分をマークして「侵入禁止エリア」を設定。次に、監視対象を「人」とし、侵入からアラーム発報までの時間を設定する。すると、人が柵を越えようとエリア内に入り、一定時間を超えればリアルタイムでアラームが発報される。同時に、侵入者の画像は時間情報とともにレコーダーに記録される。
佐々木:レコーダーには、アラームが発報した時間が記録されるので、後日、侵入者が映っているところだけをピックアップして確認できます。この機能には、マンションの管理会社様などが興味を示されて、「トラブルが起きたとき、そのシーンを探すために記録映像を延々と見返さずに済む」というコメントをいただきました。用途としては、「自転車の盗難防止につながる」「決まった日以外にゴミ捨てをした人を見つけられるので、住人同士のトラブルを防げる」などを考えていらっしゃるようでした。
【MELOOK AIの守り方2】事故から守る
「MELOOK AI」を活用した事故防止の方法はいくつか考えられる。まず、「方向検知」機能を使う場合。規定のエリア内で、車両などが設定した方向に移動していたらアラームが発報される。この機能は逆走事故の防止に活用できる。
「ラインクロス検知」機能や「侵入検知」機能(前出)を使えば、工場や倉庫などで危険なエリアに人が入った場合にアラームを発報できる。
【MELOOK AIの守り方3】負担から守る
「MELOOK AI」の革新的な点は、省人化やマーケティング、顧客サービスにも活用できることだ。
鈴木:「MELOOK AI」の「混雑検知」機能を使えば、待合室などで指定エリアに一定以上の人が入ったら、自動的にアラームを発報します。そのため、混雑状況を整理するための警備員を配置しなくてすみますし、受付担当者が目視し続ける労力も省けます。将来的には、「混雑しています」などの自動アナウンスを流したり、サイネージやランプでお知らせしたりといったシステムを構築することも考えています。
マーケティングへの活用が期待されている機能の一つが「エリア内人数カウント」機能だ。この機能では、一定の面積を最大4つに分割し、エリア全体とエリア別に人数をCSVデータとして集計。グラフにすれば顧客の動きや商品の注目度を把握できる。
佐々木:小売業のお客様からは、「『MELOOK AI』で入店者の総数がわかれば、POSデータとクロス集計をしてコンバージョン率を算出し、店舗の問題点を探ることができる」といった期待の声をいただきました。また、映像と数値データの両面から分析すれば、「目玉商品にどれだけ集客力があったか」「この売り場に意外に人が集まった要因は何か」などがわかり、売り場作りに反映できます。
鈴木:コンビニやスーパーには必ず監視カメラや、ネットワークカメラがありますから、そのうちの数台を「MELOOK AI」に置き換えていただくだけで、マーケティングに役立つデータを収集することができます。お客様から、「マーケティングは費用対効果が見えにくいので、設備やシステムに投資したくても社内承認が下りない」といった声をお聞きしますが、必ず設置するネットワークカメラをマーケティングにも活用することができたら、投資判断のハードルが下がり、導入しやすくなるでしょう。
また、顧客サービスにも役立てられる。例えばスーパーなどで「滞留検知」機能を使い、セルフレジの混雑を検知したら有人レジを稼働させるといった使い道だ。設置の仕方やソフトウェアの設定しだいで、「MELOOK AI」はこれまでのネットワークカメラとは違った用途にも活用できるに違いない。
MELOOK AIのその他機能
アプリを追加して、さらに用途を広げたい
「MELOOK AI」には、機能拡張ソフトウェアとして「人物・車両検知AIアプリケーション」「混雑検知AIアプリケーション」の2種類が用意されている。「MELOOK AI」を使う際には、目的に合わせていずれかを選び、インストールする必要がある。
佐々木:今後は、なるべく早い段階で新しいソフトウェアを開発し、市場に投入する予定です。今は「ネットワークカメラをどんな用途に使いたいか」「どんなものを検知したいか」といったご要望をお客様にヒアリングしている段階です。また、「MELOOK AI」は屋内用ですが、天井に取り付けるドーム型カメラや屋外用のカメラも開発したいと考えています。
鈴木:「MELOOK AI」のお話をすると、お客様のほうから「こんな使い方はできないか」など、私たちが想定していなかったような使い道をご提案くださいます。そうした期待にお応えして、社会課題の解決に貢献できるよう、私たちからも新しい用途をどんどん提案していきたいです。
私たちの暮らしや業務に欠かせないものになりつつあるAI。そのAIを搭載したネットワークカメラは、これまでのカメラでは不可能だった領域で力を発揮し、さまざまなリスクから私たちを守ってくれるだろう。AIと共存する社会が、このカメラによってまた一歩進みそうだ。
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2023年7月)時点のものです。