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リゾート施設の課題解決を次世代の自動運転が実現

シナジーコラム リゾート体験×次世代自動運転モビリティサービス リゾート施設の課題解決を次世代の自動運転が実現 ライター川上 和義×三菱電機株式会社 インフラBA モビリティソリューション事業推進部 モビリティソリューションマーケティングG サブグループマネージャー 坂野 佑樹 三宅 健太

三菱電機は、病院内の医療従事者の搬送業務をサポートするMELDY、フードデリバリーサービスにも活用されている屋内外走行可能な自動搬送ロボットCartkenなど、さまざまなモビリティサービスの開発に取り組んでいる。また、鉄道の運行管理システム、航空機の管制システム、道路の遠隔監視システムなど、安心・安全な運用にも貢献してきた。そのノウハウと最先端のテクノロジーを融合した“次世代自動運転モビリティサービス”開発プロジェクトが、2025年内の社会実装に向けて加速している。開発を担うのは、2024年4月に発足した新進気鋭の部門、モビリティソリューション事業推進部。北米での物流ヤード内自動運転サービス、欧州でのEVトラック向けエネルギーマネージメントサービスなど、世界を舞台に事業開発を進めており、主要プロジェクトのひとつとしてリゾート施設を対象とした次世代自動運転モビリティサービスに取り組んでいる。新たなサービスのベクトルを、なぜそこに定めたのか。それは、未来をどう変えていくのか。プロジェクトを牽引する2人の熱い想いを聞いた。

リゾート施設でのスタッフの負担と
ホスピタリティ品質の低下が喫緊の課題

日本の観光産業は少子高齢化と労働人口の減少、コロナ禍による働き手の流出により人手不足という課題に直面している。国内旅行客や訪日外国人が増加するにつれてホテルなどでは深刻な問題になっており、需要の取りこぼしやサービス品質の低下が懸念されている。自然あふれる環境で広大なリゾートを展開するVILLA(ヴィラ)も例外ではない。カートに宿泊者を乗せた敷地内の移動はヴィラにとって重要なサービスであるものの、人手が足りずカートの手配、運転手の割り当て、さらにはカートの運転をもフロントスタッフが兼務しているケースが多い。結果、本来のフロント業務が疎かになり、宿泊者からのクレームにつながるケースもあるという。この課題を解決するため、自動運転によるカートの無人化を実現し、リゾート施設における業務負担の低減、サービス品質向上につなげようという取り組みが本プロジェクトの骨子である。

坂野佑樹の写真
三菱電機株式会社
インフラBA モビリティソリューション事業推進部
モビリティソリューションマーケティングG
サブグループマネージャー
坂野 佑樹(さかの ゆうき)

坂野:プロジェクトが立ち上がったのは2019年ごろです。日本国内においても自動運転は必ずやメガトレンドになることから、10名ほどのメンバーでコア技術開発を進めてきました。当時からリゾート施設では人手不足が課題になっていましたので、その課題解決にこの技術がマッチするに違いないと。図らずも、コロナ禍により人手不足の課題はより顕著になりました。実際にお話をさせていただいたお客様からも「今すぐにでも導入したい」というご要望をいただき、2022年の秋ごろに現場での実証実験を開始しました。

これまで、カートを利用する宿泊者はフロントに電話をかけ「10分後にレストランまで迎えにきてほしい」というように依頼をしていた。そこでフロントスタッフはカートでお客様のもとへ向かえるスタッフを探し、誰も手配できないときは自らがカートを運転することも。チェックイン・チェックアウトの際にお客様をお待たせしてしまうなど、スタッフの過大な負担に加えてホスピタリティ品質の低下も懸念されていた。カートの自動運転は日々の業務負担を軽減できるばかりか、ホテルとしてのサービス向上にも貢献する。そんなリゾート施設における実際の利用イメージを、現場の最前線で開発に取り組んでいる坂野さんに伺った。

坂野:宿泊者がカートを利用する際は、自分のスマホやタブレットでホテルの部屋やフロントに用意されたQRコードを読み取っていただき、カートの予約システムにアクセスします。すると、希望の時間・場所に、宿泊者の部屋番号を表示したカートが自動で迎えにきてくれるという仕組みです。このように、カートの予約・運転に人手を要さないため、各スタッフが本来の業務に集中することができます。また、実証実験を行ったリゾート施設では5台のカートを用意しているものの、人手不足により同時に全台を稼働させることが困難な状況もありました。無人化によりすべてのカートをフル稼働させることができるため、お客様をお待たせするリスクも軽減することができます。総支配人からは「1台につき1人分の労働力をカバーできるのでは」というご評価をいただいています。

徹底した安全性とお客様へのおもてなしを両立

カートは大手メーカーのランドカーを改良した自動運転車両を採用。協力会社との協業によりLiDAR(ライダー)と呼ばれるレーザー光を用いて周囲の物体を高精度に計測するセンサーや、障害物検知用ミリ波センサー、車内外の撮影用カメラ、GPSなどの搭載によりスムーズで安全な運行を実現している。そして、そうしたテクノロジーの恩恵を余すところなく提供するには、何より“リゾート施設への理解”が求められた。現地でスタッフと多くの時間をともにした三宅さんは、その泥臭いまでの取り組みをこのように振り返る。

三宅健太の写真
三菱電機株式会社
インフラBA モビリティソリューション事業推進部
モビリティソリューションマーケティングG
三宅 健太(みやけ けんた)

三宅:カートの無人運行を検討する上で最も心がけたのは、リゾート施設の業務内容や日々のオペレーションを深く理解することです。実証実験の開始にともない丸2日間にわたって現場に駐在し、スタッフの動きを後ろからずっとついて回ったり、インカムでやり取りしている声を聞かせてもらったりしながら“現場が求める自動運転とは”について考えました。現場の実態を知ることで当初は想定していなかった機能の必要性に気づくことも多く、現在もさまざまな課題と向き合っているところです。

さまざまな「課題」とは、リゾート施設ならではの豊かな自然環境にあるという。

三宅:自動運転ではLiDAR(ライダー)で自分の位置を認識しつつ、障害物を検知しながら走ります。リゾート施設は高地にあることが多いので、雨や霧に見舞われたりすることも少なくありません。そうした雨や霧を障害物と認識してしまい、運転に支障がでてしまうことがありました。そんな自然との戦いにも、早急に終止符を打ちたいと考えています。

自動運転モビリティを運用するうえで最も重視すべきは、いうまでもなく安全性である。リゾート施設の多くは山などの自然環境にあるため、カートが通る道は狭く起伏に富んでいる場合が多い。最先端のセンサーはそうした地形を安全に走るためになくてはならないものなのだ。機械的なトラブルが起きた際は手動運転に切り替えられるといった“奥の手”は用意されているものの、それが発動されることのないソリューションに期待したい。

そうした安全性とともに、宿泊者への“おもてなし”にもこだわった。

坂野:リゾート施設では、宿泊者を乗せたカートが走行中にバックすることは安全性の面からもマナーの面からもNGとされています。ですから、バックして切り返さないと発進できないような場所では、あらかじめ後ろ向きで乗り場につけ、常に前向きで発進できるような制御を行っています。また、位置情報表示によりカートが走行している場所をリアルタイムで把握できるため、お客様が到着される場所へ先回りしてお迎えすることが可能になります。

自動運転がもたらすホスピタリティ品質の向上は、意外なところにも現れようとしている。

坂野:自動運転のカートに乗ること自体が、すでに非日常体験の提供につながります。あえてフロントから遠い場所にホテルやレストランを置き、そこへ行くまでの時間もひとつのアミューズメントにする。そんなコンセプトのリゾート施設ができる日も、そう遠い未来ではないかもしれません。実証実験を行なっているお客様からも「誕生日のお祝いメッセージを表示してはどうか」「夕食のメニューを紹介しても面白いのでは」といった顧客満足度向上につながるアイデアが寄せられており、今後の展開がますます楽しみです。

自動運転を起点にサステナブルなホテルのあり方を提案

10名ほどのコアメンバーで発足した本プロジェクト。日を追うごとに社内の協力者が増え、30名ほどのスタッフが関わるプロジェクトに。「社内からの大きな期待を感じます」と坂野さんは目を輝かせる。

坂野:前線で取り組んでいるのは我々モビリティソリューション事業推進部ですが、研究開発部門は非常に高い熱量でシステム開発やコア技術の研究に取り組んでくれています。また、自動運転のシステムや車両改造に取り組んでくれたパートナー企業の存在も欠かせません。そうした“プロジェクトを取り巻く総合力”を追い風とし、運用開始に向けて邁進したいですね。

坂野さんの熱い言葉に頷きながら、三宅さんがこのように続ける。

三宅:三菱電機の社員が「三菱電機ってすごい!」と、自分の会社をあらためて誇りに思えるようなプロジェクトにしたいと考えています。そうしたプライドやマインドが社内にあふれ、世代を超えて受け継がれるきっかけになってくれたらうれしいですね。

最後に、今後へのビジョンと夢についてお二人に伺った。

三宅:実証実験に協力してくださっているお客様からの期待も非常に大きいので、まずはスタッフの方々が使いやすいものをしっかり納めるのが目標です。また、自動運転は基本的にEV化された車両が使われますので、ガソリン車から置き換えることで環境負荷の低減につながり、さらに、人手不足を解消することでリゾート施設がビジネスを継続していくことにも貢献します。自動運転を起点にサステナブルなホテルのあり方を提案するとともに、宿泊される方々の非日常体験をより一層素晴らしいものにできたらうれしく思います。将来的にはホテル業全体で自動運転が当たり前のものになり、宿泊者が当たり前のように利用している──そんな世界を実現させたいですね。

坂野:まずは国内でカートの自動運転を成功させ、次のステップとしてグローバルに展開していきたいと考えています。北米、欧州、アジアなど、リゾート産業のあるところにはもれなくチャンスがあるはずです。全世界の旅行者に対して自動運転による非日常体験を提供できたら、こんなに素敵なことはありません。そのためにも、今回のプロジェクトで得た経験と知見をさらに拡大し、三菱電機の次世代自動運転モビリティサービスというものを会社全体のコア事業として成長させていきたいと考えています。さらには、リゾート施設で培った技術をもとに、公共交通を含めた社会課題解決にも寄与していけたら幸いです。

※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は2025年4月時点のものです。

川上和義さんの写真
取材・文/川上 和義
出版社、広告プロダクションなどを経てフリーランスのライターに。ビジネスパーソン向けの媒体における取材・執筆を中心に、幅広い業界・業種のセールスプロモーションプランニングおよびライティングを手がける。これまでに取材で数多くの土地を訪ね、すでに47都道府県を制覇。今日もICレコーダーとカメラを手に、日本のどこかを駆け回っている。