半導体に関する話題があれこれとかまびすしい。新聞誌面では連日取り上げられ、ワイドショーの話題になることさえある。また、日本政府も半導体業界に多額の投資を行っており、例えば半導体受託生産(ファウンドリ―)の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)は、日本政府の支援を受けて工場を熊本に建設したが、熊本ではTSMCを中核として製造網が生まれるなど、「半導体バブル」といわれるほどに活況をみせている。
半導体敗戦国――かつて世界市場で5割以上のシェアを誇っていた日本産業は、その後一気に凋落し、このようなレッテルを貼られていた。なぜ今、国を挙げて半導体産業復権に挑むのか? そして勝算はあるのか? 長く半導体産業に従事し、TSMCを日本に誘致する際のパイプ役ともなった、熊本県立大学理事長、東京大学特別教授の黒田忠広氏に聞いた。

熊本県立大学理事長、東京大学特別教授
黒田 忠広(くろだ ただひろ)
1959年三重県生まれ。東京大学卒業。東芝研究員、慶應義塾大学教授、カリフォルニア大学バークレー校MacKayProfessor、東京大学教授を歴任。研究センターd.labと技術研究組合RaaSを設立。技術研究組合LSTCの設計技術開発部門長。福岡半導体リスキリングセンター長。2024年より東京大学特別教授、および熊本県立大学理事長。米国電気電子学会と電子情報通信学会のフェロー。半導体のオリンピックと称される国際会議ISSCCで60年間に最も多くの論文を発表した世界の研究者10人に選ばれる。著書の『半導体超進化論 世界を制する技術の未来』は、英語、中国語(簡体字と繁体字)、韓国語に翻訳されている。
INDEX
21世紀は“半導体の世紀”
――半導体はワードショーにも取り上げられるほど一般にも話題となっています。なぜ今半導体なのでしょう?
近代以降、国力を決めるのは鉄であり石油だといわれてきました。19世紀、ドイツを武力統一したプロイセン王国の宰相ビスマルクは、「鉄は国家なり」と唱えました。街作りから鉄道、大砲まで、鉄をどれだけ利用するかで国造りができ、安全保障も決まるというわけです。その後最近まで、鉄に代わって国力を決めてきたのが石油です。エネルギー源の石油をどれだけ確保するかで、社会がどれだけ発展するかが決まり、経済が決まり、安全保障も決まりました。石油をめぐって世界中を巻き込む紛争も起こりました。そして21世紀。鉄と石油に変わって国力の源泉になるのが半導体だといわれています。
少し前まで、半導体というものに対して皆さんあまり馴染みがなかったかもしれません。ところが、コロナ禍に半導体が1つないだけで、国民生活に大きな影響が出ました。日本の主力産業である自動車が1台も出荷できない、寒い冬に給湯器が壊れても買えない、SuicaやPASMOも作れない――半導体は社会の隅々に使われていて、供給が途絶えると社会が麻痺してしまうということを実感した。すなわち、国の経済安全保障を左右するほどの重要物資だということが分かったのです。
また、実際に戦争が起きた場合でも、鉄の時代であれば、大砲や戦車、空母をどれだけ保有しているかで国を守る力を測れました。それが、ロシアとウクライナの戦争では、ドローンの中に日本の家電製品に使われていた半導体が流用されていたなどということが起こっている。国防という観点でも、半導体が極めて重要な戦略物資だということを象徴する出来事です。『半導体戦争』(クリス・ミラー、ダイヤモンド社、原題『CHIP WAR』)という本が世界的ベストセラーになったことを見ても、この認識が世界に広がっていることが分かりますし、各国が国を挙げて半導体に公共投資をしています。
一方で、民間投資もかなり増えています。なぜか。極めて高度な成長が約束されている、まれに見る産業だからです。波はありますが、平均すると年率10%程度の高い成長が40年続いていて、しかもこの先20年、さらに高度化するだろうといわれています。これまで半導体は主に家電製品、パソコン、スマートフォンに使われてきました。これからは、車の自動運転やロボットによる工場の完全自動化、街のさまざまな機能のスマート化など、社会の隅々に半導体が使われるので、産業として極めて大きくなる。市場規模は世界で150兆円になるといわれており、民間、公共とも世界が競うように投資している。こうした中、投資規模が世界的に見ても大きい日本は、世界に対して非常に大きな役割を果たすだろうと期待されています。
荒っぽい“半導体ビジネス”に負けた日本
――1980年代に世界一といわれた日本の半導体産業ですが、過去30年の間に凋落しました。その主因はどこにあるのでしょう。
1980年代半ば、日本の半導体は世界で50%以上のシェアを獲得していました。特に、コンピューティングをする上で様々なところに使われるDRAMというメモリーチップはほとんどが日本製でした。ただ、米国で誕生した半導体で日本がシェアを取ってしまったことに米国がいら立ちを覚え、日米の間に半導体摩擦が起こりました。これを解決する1つの方法として制定された日米半導体協定の中で課せられた制約で、日本はその後じわじわとシェアを落とし、直近では10%を割り込んでいます。
しかし、半導体協定の制約は、日本の半導体が凋落するきっかけではあったが、唯一の理由ではありません。その原因を一言でいうなら、投資を継続できなかったことにつきます。半導体市場は、微細化すると性能が高くなって機能が増え、それに伴って用途が拡大して価格が安くなる、これを繰り返すという構造です。年率10%で市場が拡大してきたので利益も大きくなるわけですが、その利益のかなりの部分を次の設備投資に回したり、将来の技術を開発するための研究開発に投資したりする。その投資が生きてさらに微細化が進む。このサイクルが約3年で、これを継続的につなげることにより、指数関数的に成長できるのです。
では日本といえば、投資額が10億円、100億円の程度だったころまでは、企業が主体でもそのサイクルについていけました。ところが1,000億円とケタが上がったあたりで、一つの企業が社内の決算で通すことができなくなってきた。日本の会社は総合電機メーカーですから、半導体以外のビジネスもやっています。社内の他の事業は、10年以上など長期的な計画を立案して利益を出すことを目指していく。それに対して半導体は、滅茶苦茶な赤字を出した時でも大きな投資を続ける企業だけが、景気が好転した時に大きな利益を取れるという荒っぽいビジネス。この事業構造に日本のメーカーはついて行けなくなり脱落しました。
一方で、それを実現できたのが、台湾であり韓国であり中国です。台湾は「国」を挙げて半導体産業を育成しました。韓国は財閥のオーナー社長が決断できた。中国に至っては国イコール会社です。こうして、大きくなりすぎた産業の中で、1社で挑む日本のスタイルでは戦えなくなったというのが、日本凋落の1番の理由です。
“半導体土壌”が肥えている日本に期待
――一度は競争から脱落した日本の半導体に再度期待が集まっているのはなぜですか。
日米貿易摩擦や70円台の厳しい円高等、日本のビジネスを取り巻く環境は長く極めて厳しい状況にありました。ところが気がついてみると、米国の敵は中国になり、日本とは手を組んで一緒に協力しようよといってくれるようになった。しかも歴史的な円安だから、輸出産業は利益を生むことができる。こうして、ビジネスの環境が向かい風から追い風へと大きく変わったことが、日本に対する期待が高まっている理由の1つです。
さらに、半導体が現在、台湾と韓国という、米中の覇権争いで地政学的リスクが高い地域でしか作られていないということも大きい。ロシアとウクライナの間で起こったことが、台湾海峡や朝鮮半島でも起こりうるという危機感が高まる中、半導体の供給網を強靭化するために、日本から再び半導体を供給してほしいという期待が、世界中で高まっています。
――凋落したとはいえ、日本には半導体を作ってきた歴史があり、裾野の産業が構築されていることも、世界から評価されている要因でしょうか。
その通りです。非常に先進的な技術であると同時に、非常に裾野の広い多才な技術の集積体でもある、それが半導体という産業です。巨大な資本は必要ですが、だからといって、大きな資本力のある1社だけで完結するわけではない。日本には、半導体が強かった時に育てられ鍛えられた2次産業、3次産業が集積しました。従業員が10人程度といった家族経営をしているような企業もあるので、大企業が倒産したからといって、海外に活路を求めようとはいかないわけで、日本に残って頑張ってきた。これらがいま、極めて大きな産業エコシステムを作り上げ、非常に肥沃なブラウンフィールドを形成しています。
TSMCが熊本に工場を造ることを決めたのも、日本に半導体産業のブラウンフィールドがある、言い換えるとエコシステムが健在だからだと思います。
TSMCやラピダスが重要なワケ
――いまお話しの出たTSMCや、先端半導体の国産化を目指すというラピダス(Rapidus)が話題です。この2社は半導体産業の中でどのような役割をしていて、なぜ重要視されているのでしょうか。
かつて半導体の50%超は日本製だったとお話ししましたが、それらはすべてメモリーでした。記憶用半導体メモリーのDRAMチップや、その後出てきたNAND型フラッシュメモリー(NANDフラッシュ)です。メモリー製造の担い手は、かつては日本でしたが、今では韓国のサムスン電子とSKハイニックス、そして破産した日本のエルピーダメモリを買収した米国のマイクロン・テクノロジーの3社が大手となりました。そして、このメモリーに加えてプロセッサーさえあれば、あらゆることができるというのがコンピューターの基本構造です。プロセッサーで有名なのは、インテルとAMDという米国の2社です。
これらDRAMやNANDフラッシュ、プロセッサー、あるいは最近だと処理速度を上げるアクセラレーターの機能を持つ米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)は、コンピューティングをしようと思う人が共通に使う汎用の部品。お客さん1人ひとりの顔はよく見えないけれども、大きな市場があるので、いかに安くていいものを提供するかというのをやるビジネスであり、さまざまな用途に使えるように設計されている標準デバイスです。
一方、パソコンをポケットに入れて持ち歩きたい、というニーズを満たすために登場したのがスマートフォンです。その代表であるiPhoneには、パソコンの計算をする機能に加えて通信機能も満たす、エネルギー効率が極めて高いプロセッサーが載っている。このプロセッサーは、自社の最終製品であるiPhoneに搭載するためだけにアップルが開発して製造している半導体です。「他社のスマホもこの半導体を使ってね」とはいいません。これを専用デバイスと呼びます。
この専用デバイスは、かつては日本のメーカーも、自社の最終製品であるテレビを代表とするエレクトロニクス製品に使うために、自社工場で作っていました。ところが、先にもお話しした通り、半導体に対する投資額のケタが大きくなってくると、そんな巨額の投資はできないと自社で半導体を作ることを諦めるようになってきた。
そんな中で、「専用デバイスを自社工場で作るのは大変ですよね? それならば工場は当社が提供します。その工場では他社の製品も作りますが、お互いの情報や機密は守ります」というサービスを掲げて登場したのがTSMCです。垂直統合だった製造業に水平分業を持ち込み、サービス業に変えたのが、ファウンドリーというビジネスです。TSMCは、重要な顧客の専用プロセッサーを一手に引き受けることで規模を作り上げ、巨額な投資を効率よくできるようにしたのです。
ただ、TSMCの地元台湾には、地政学的なリスクが高まっている。こうした中、半導体を日本で作って欲しい、ファウンドリービジネスを日本が担って欲しいという期待が世界で高まっています。そこで生まれたのがラピダスです。しかし、20年あまりも半導体市場という土俵から遠ざかっていた日本が、横綱のTSMCに真っ向勝負を挑んでも勝ち目はありません。ラビダスはTSMCとは違う成長戦略を描いています。
――ラピダスが掲げている、最先端の2nm(ナノメートル)世代の半導体の提供がその戦略なのでしょうか。
製造業における競争軸はこれまで、いいものを作る、そして安く作る、この2軸でした。いいもの、すなわち最先端のものを安く提供するという2軸だけの時代だったら、ラピダスはTSMCに勝ち目はありません。ところが最近、早く提供する、という3軸目が加わりました。製品が企画されてから市場に投入されるまでの時間「タイム・トゥー・マーケット」が重要になっています。こうした中、ラビダスは人工知能(AI)を駆使することで、TSMCより少しでも早く提供できるという戦略を描けるようになったのです。最大のセールスポイントである「ラピッド」(Rapid=迅速な)を名前に掲げ、3軸の中でもTSMCとはぶつからないところで競争を始めて、最終的には真っ向勝負できるようになろうという戦略です。
ラピダスが担う2nmといった最先端の半導体を必要としているのは、データセンターを手掛けている企業がメインです。これはAIの需要が急速に高まっていることを受けて、データセンターに巨大な計算力が必要とされているからです。これに対して、TSMCの売上高構成比を見ると、半分は最先端で、約3割はボリュームゾーン、すなわちコロナ禍に不足して困った給湯器や自動車のワイパーを動かすのに使うもの。技術としては15年ぐらい前の20nm世代の半導体です。TSMCが熊本に建てた第1工場ではこの20nm世代の半導体を生産します。
グローバルな仲間作りに日本は外せない
――国策なのに台湾の企業であるTSMCに投資をするのは、日本が必要としているものを作ってくれるからなのですね。
先行きが見えない不透明な国際情勢の中で、「明日から日本には半導体を供給できません」ということが急に起こらないとは限りません。こうならないためにも、日本の国土の中に投資をして工場を設け、半導体を作ってもらうこと。こうすれば、安易に撤退ができなくなります。投資する先が外国企業か否かは今の時代、重要なことではないのです。
――TSMCのみならず、海外の多くの半導体メーカーが日本で共同研究をしたり工場を立ち上げたりしているのは、日本の産業のためにはありがたいことですね。
日本にとっては大変ありがたいのですが、先方も理由があって日本に来ているのです。1つは半導体に対する日本政府の公共投資、つまり補助金が非常に魅力的であること。2つ目は台湾や韓国に地政学的リスクが高まる中、相対的に安定している日本はビジネスがやりやすいということです。一方で日本も、先端半導体を作るには、例えばオランダASMLの露光装置のように、他国の優れた技術が必要。ここに技術外交が生まれます。
世界が分断する中、半導体は1社だけでも、1国だけでも成り立たず、強いものを持ちあったもの同士が国際的に協力して初めて成立する産業になりました。いみじくも、TSMCの創業者であるモリス・チャン(張忠謀)氏は熊本工場の開所式に来日し、「日本の半導体製造のルネサンス(再興)の始まりだ」と話しました。こうした発言が出るのは、半導体でかつて極めて高いパフォーマンスを出した日本の国、国民、文化、技術に対する尊敬や安心があるからこそだと思います。強靭な供給網を構築するにあたって、日本は他国やメーカーから愛される国になっているといえます。
日本の半導体政策は他国から賞賛
――半導体のルネサンスに向けた日本政府のこれまでの打ち手を、どのように評価しますか。
100点満点以上。極めて高く評価しています。相対的にいって、これまでの日本政府の対応とはまったく違うということです。かつては、助成はするけれども、いまほどのリーダーシップはとらなかった。それが、過去の間違いを認めて反省して、新しい方向に舵を切った。この何年かの日本政府の動きは見事です。
これは決して自国礼賛ではありません。その証拠に、韓国と台湾も驚いています。特に韓国は、どのメディアも私に会いに来ると開口一番「サムスンはいつ追い抜かれるのでしょう?」と聞いてくる。サムスンは押しも押されもせぬトップメーカーだから杞憂だと返すのですが。日本政府の今回のさまざまな政策がそれだけ、迅速かつ十分だと周囲が評価していることの表れです。
ただもちろん課題もあって、少なくとも10~15年という長い時間をかけて継続をしないことにはルネサンスは実現しない。百年の大計で何千億円、何兆円という投資を続けるんだという決意を持つことが肝要です。
――ラピダスに対して最大で累計9,200億円の支援を決める等、日本政府がお金をかけているのは確かです。ただ今のところラピダスは、TSMCのごくごく一部に対抗しようとしているに過ぎません。韓国や台湾は、日本やラビダスをそこまで脅威の存在だと見なしているでしょうか。
要は、ラピダスだけを見ているのではないということです。TSMCを誘致するための助成金の金額が1兆円以上であったり、またマイクロンの広島工場に1920億円を助成したりなど、日本政府はいろいろなところに手厚く支援しています。半導体産業を構造的に立て直そうとしている日本の決意の表れが、国外には十分に伝わっているのです。確かに個別に見れば、国内総生産(GDP)でドイツに抜かれて4位に落ちるなど、企業も国も弱くなっている感は否めません。
とはいえ、日本はお金もあるし頭脳もあるということを世界は認めています。特に学術に関しては、日本の大学や国研の研究内容を見て、我々にはとてもできないと感じている国がほとんどです。人口に比例して、日本は学術の蓄積が多いというわけです。さらに、例えば米国でいえば、コンピューティングに対する精神は、ものすごく強いものがあるけれども、製造に対してはそれほどではない。これに対して、日本にはもの作りに対する精神があるというのは、世界の共通認識だと思う。
加えて、日本には半導体を応用できる様々な分野で強みがあります。例えば、大量のデータを集めるためのセンサーに強みを持つ。また、電力を制御、変換、供給するパワーエレクトロニクスにも高い技術を持っている。実際に、パワエレを司るパワー半導体では、日本のメーカーのシェアも高いですし、また今後も確実に成長すると考えられます。このような多くの分野で強みを持つ日本が、国としても覚悟を持って半導体に取り組み始めたのだから、他国には脅威に映っているのも当然でしょう。
若者にとって半導体業界は魅力しかない
――日本の半導体が復興すると、日本の若手のビジネスマンにはどのような未来が待っているのでしょうか。また、何ができるのでしょうか。
若い人たちはAIやChatGPTが大好きです。これまでは主にはWebレベルで楽しんでいたと思いますが、あることに気付いてきたはずです。それは、いいハードウェアを持っている人は、いいソフトウェアを持っている人と一緒になると、いい価値を創り出すことができるということ。つまり掛け算によって価値は生まれるのです。
現在、AIでビジネスを成長させようとしているオープンAIやグーグル、アマゾンは皆、世界中からハードウェアの設計者、すなわち半導体の設計者を集めて、自前の半導体チップを設計し、TSMCに製造してもらうことを始めています。日本が半導体の復興に本気で取り組み始めたことで、こうした国際社会の動きに、日本もようやくつながろうとしています。
私から若い人たちにメッセージを送るとしたら、「これからはAIが新しい時代を作る。ソフトウェアでも、ハードウェアでも、あなたの才能があるところで頑張りなさい。どちらにしても、明るい世界とつながった強いチームで自分を生かすことができるようになったよ」ということですね。
これまでは、日本のハードウェアはもうだめだといわれていたし、何より就職する先がなかった。ところが今は、ラピダスができるし、またTSMCは工場だけでなく、横浜にデザインセンターも作りました。例えば、私の東大の研究室の卒業生は、そういった企業に就職するようになりました。お給料もいいのですが、何より手掛けるプロジェクトもチームも世界の最先端だから自分が成長できる。そういう素晴らしい環境が、日本にできるようになった。いい時代がまた来たよといいたいです。
地域に生き 世界に伸びる
――先生が考える、日本だから描けるシナリオを教えてください。逆に、先生が想像する最悪のシナリオはどのようなものでしょうか。
日本の強みをしっかりと強くして、世界に対する貢献を続けることが、日本の発展のために最も重要で、かつ最も確実なことです。全部を強くするのは無理、ハードは全部日本が強いというのも無理です。半導体製造装置や半導体材料などが一例ですが、自国の強みを育てて、世界とつながって一緒に仕事をすることを目指すのです。
加えて、半導体復興に向けて最も重要なことの一つが人材の育成です。もちろん、理系人材の排出も必要ですが、多様な人材が求められるでしょう。例えば、私が理事長を務める熊本県立大学は「地域に生き 世界に伸びる(Think Globally, Act Locally)」を掲げ、文学部、環境共生学部、総合管理学部の3学部があります。いずれも理系ではありませんが、グローバルにコミュニケーションを進めるためには文学部の素養が必要。また、地球環境の危機が叫ばれる中で、環境に優しい半導体製造を行うためには環境共生学部の出番です。人間の行動や車の流れの管理を議論している総合管理学部は、半導体のサプライチェーン最適化に通ずる。このような人材が必要になってきますし、また、女性人材の育成も必要でしょう。
一方で、日本の半導体産業にとって、想定できる最悪のシナリオは、繰り返しになりますが、国が支援を継続せずに途中で止めてしまうことです。前任者がおいしいところを取ってしまったから、後任の自分は違うことをやらないと自分の業績にならない等、ありがちな行政がまた頭をもたげるようだと、今までの資源投入はすべて水泡に帰すことになるでしょう。
(写真:吉成大輔)
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2024年5月)時点のものです。
記事内の「iPhone」は、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。「iPhone」の商標は、アイホン(株)のライセンスに基づき使用されています。