「misola(みそら)」のある空間。そこでは、いつでも「晴れの日の嬉しさ」を感じることができる。奥行のある青空を表現したパネルと、日なたを感じさせる独自のフレームによって作られた新しいLED照明「misola」。製品の開発エピソードを明らかにする。
自然とつながる照明
──「misola」とはどんなもので、どんな風に作られたのでしょうか?
岡垣:僕は、いわゆるオフィスや屋内の持つ照明環境が気に入らなかったんです。白くべたっとした光があって、朝から晩まで、ずっと変化しない。「そんな環境に閉じ込められて一日を過ごす人間たちって、いったい何なんだ?」と。
これからの照明は変わっていくだろう、変えなければいけないと思いました。空間を明るくする機能だけを提供する照明とは、違うものを作りたい、と。
ヒントになったのが「自然」です。人間は古来より太陽の下で暮らしてきたので、自然な環境を心地よく感じる。そこから、青空に徹底的に似せるような照明を作ることができれば、いままでにない、心地よい空間になるのではと発想しました。それがmisolaのスタートです。
岡垣 覚(おかがきさとる)
光を使ったシステムの研究開発を行う。2017年より「misola」の前身となる「青空照明」の開発を手がける。
──小松さんはそういう考え方に最初から共感されたんですか。
小松:そうですね。僕も、光というものが好きなので。施設の照明は、空間を均一に明るくすることが求められます。机の上が一定の明るさになること。すると、かなりベタッとした印象になる。一方「misola」では、屋外の自然さを取り入れられるように工夫しました。この照明は、「もうちょっと自然や外とつながろうよ」と提案している。
小松 琢充(こまつたくみつ)
2018年11月より、「misola」の開発チームを取りまとめる。
影が日なたをつくり、太陽が青空をつくる
──「misola」を実際に目にすると、「空が高い」という感覚が得られますよね。
岡垣:青空らしさを表現する上で、「高い」と感じさせることは、すごく大きなポイントですね。空というのは、地球の表面にある大気がぼんやり青く光っているものです。大気の先は真っ黒な宇宙で、その先に何があるかは分からない。そのせいで高く、青く感じる。その「高さ」を照明で実現するために、レイリー散乱という現象を使っています。
それから、青空パネルのまわりに光っているフレームの部分がありますよね。このフレームは「日なた」です。レイリー散乱で実現した「高い青空」と、フレームの「日なた」とが組み合わさって、はじめて「misola」になる。
小松:このフレームは画期的だと思います。照明屋から見ると、フレームを全部光らせたくなる。わざわざ光らない部分を作り「影」と「日なた」を表現するという発想は、なかなかできない。僕はこれが「misola」における最大の肝だと思っています。これがあることによって、「光が差し込んできていると」感じる。
──私は「misola」の下に初めて立った時に、覗き込むような動きをしました。太陽を探してしまったんです。
岡垣:そうなんです。太陽の存在を作りたかったんですよ。直接太陽は見せない、でも感じさせる、ということがしたかった。パネルだけでは青く光る物体でしかなくて、そこに太陽を連想させるフレームがあって、初めて空に見える。
試行錯誤の中で
──開発の経緯を聞かせてください。
小松:まず、岡垣さんたちが先端技術総合研究所で基礎研究を行った「青空照明」が2018年のCEATEC(「IoT」と「共創」で未来の社会や暮らしを描く「Society 5.0の総合展」)で発表されました。当時はまだ「misola」という名前ではなかった。「青空照明」の噂を以前から聞いていた社員たちが現物を観に行き、「これはすごい」と。そこから製品化に向けて動き始めた、という感じです。みんながパッと見て「いいな」と思ったところから始まった。
動き出しはけっこう大変でした。全く新しいコンセプトの照明を製品として作るのは、私たちも初めてだったから。「どうやって動いたらいいんだ」というところから始まっていった。
──プロトタイプの「青空照明」から、製品としての「misola」になるまでの間にどういう変遷があったのでしょう?
小松:基本的なところは研究所で一通り考えられていたので、道筋はできていたんです。ただ、実際の照明器具にしようとした時に、「どうしていこう?」という問題はたくさんありました。例えば、「日なた」を表現するフレーム部分。量産品質を保ちながらどう作っていくかという点について、岡垣さんたちと一緒に悩みながら進めていきました。
岡垣:やっぱり僕たちが研究所で作ったものは手作りのもので、そのまま量産化に持っていくことはできない。量産品のための設計部分は小松さんたちに一からやっていただきました。
小松:照明って、どういう光が一般的に好まれていて、その中で照らされるものの色の再現がよくて、みたいな基準があるんです。照明として光の色を決めていく中でも、「misolaがどのあたりを狙うか」という問題は、難しかった。青空らしさを損なわず、どういう光にして、どのぐらいの出力にしたらいいか。一から組んでいきました。
あとは、明るさについて。最初はけっこう薄暗かったのですが、岡垣さんとの共同検証の中で、思い切って明るくしてみたら「意外といいね」となって、今のバランスに落ち着いたんです。試行錯誤の中で色んなことが決まっていきました。こうしてみたらよかった、こうしてみたらよかった、その積み上げで作り込んでいった。
──製品化したものは、プロトタイプよりも良くなっていると思いますか?
岡垣:ずっと良くなってますね。サイズはちょっと小さくなりましたけど。
小松:そうですね、ちょっと小さくなりました。照明器具の一般的なサイズに合わせました。それは(三菱電機グループ会社の)三菱電機照明側の思いがあってそうしています。お客さんに提供しやすい形がいいということで、結果としてはちょっと小さくなりました。
「これはもう間違いない」っていうことを、僕たちが確信したから
──製品化する前に、「misola」が絶対に必要なんだ、という思いはありましたか。
小松:「必要か?」という視点も大事なんですけど、どちらかというと……見て「いいな」って思ったので。
岡垣:そうですよね。
小松:それが一番かな。
岡垣:そう。そうなんですよ。僕らが「絶対いい」と思ったから、間違いないんですよ。「これはもう間違いない」っていうことを、僕たちが確信したから。
小松:「いいな」って自然に思えるものは、なかなか無い。「いいな」という直感は、「必要」とは次元が違うかもしれないけど。これはみんなに「いいな」と思ってもらえるものだ、と信じて、製品化を進めました。
──開発への反対意見はなかったですか。
岡垣:反対意見は、もちろんありますよ。でも、「これは絶対に間違ってない」という確信がメンバーの中にあったので。
能動的に作用するあかり
──misolaがあることで、暮らしやビジネスはどう変わっていくんでしょうか。
小松:今までの照明器具は、少し受動的というか、光っているだけ、照らしてるだけだった。でも、「misola」が生まれたことで、照明が「人に能動的に作用するもの」になれたのかな、と思っているんです。心地よさという意味で。
また、IoTという観点からも、 照明はもっといろんなことにつながれるのかな、と思っていて。つながることで、人に能動的に作用し、心地よい空間を作れるんじゃないかなと。
それから、三菱電機照明は、照明器具にとどまらないビジネスを考えていけるんじゃないかとも思っています。今までは「光を提供すること」を使命としてたけれども、これからは、それ以上のものを提供できるようになる。
岡垣:今まで、「照明器具は明るさが保たれていればいい」という考え方だった。その潮流が大きく変わっていくタイミングじゃないかなと思いますね。だから多くの人が「misola」のことを「いいね」と言ってくれていると思うんです。「こういう方向もあるよね」と。人の意識がちょっとずつ変わっていっている。
──最後に、今後の展望をお話しいただけますか。
岡垣:自然の要素を取り入れて、ものを作る。その方向に進んでいくトレンドは絶対あると思ってます。今まで以上に快適で、人間にとって自然な、地球にとっても負荷が大きくない、そういう製品やサービスを、うちとしては提供していかなければならないと思います。
小松:「明るくすること」だけじゃない空間を提供できるようになるのかな、と思いますね。そのような提案ができるように、この次に何をするか、考えていきたいと思います。