このページの本文へ

ここから本文

三菱電機が”本気で”スタートアップと向き合う。
「MEイノベーションファンド」が目指す未来と熱い想い

日本のモノづくりを牽引してきた三菱電機が、スタートアップとの協業に力を入れている。今年の1月、運用総額50億円のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを設立。その狙いやファンドの特徴について、日々スタートアップと顔を向き合わせ切磋琢磨する、ビジネスイノベーション・DX戦略室 コーポレートベンチャリング推進グループの3名に話を伺った。

「自前主義では生き残れない」との強い危機感から、
スタートアップ支援を開始

有望なスタートアップに総額100億円を投資することを、2020年11月に表明した三菱電機。2020年4月にはビジネスイノベーション本部を設立し、事業部の枠を超えたオープンイノベーションやスタートアップ支援を推進している。まずは、三菱電機がオープンイノベーションや協業に力を入れ始めた理由を伺った。

日高:日本の製造業の多くは自前主義です。弊社も基礎研究から製品開発まで、長年自分たちの技術やリソースを頼りに事業を進めてきました。ただ、社会が大きく変化し、テクノロジーの進化も非常に早い今、自前主義を続けながら、グローバルで戦っていくには限界があります。当社も積極的に外部の力を取り入れ、新しい価値を生み出していかなければ生き残れないという強い危機感を持っています。既存事業においても事業の枠を超えて、新たな価値を創出することが急務です。そこで、事業部横断型のイノベーション本部を設立し、協業やオープンイノベーションに力を入れているというわけです。

その動きを加速するため、三菱電機は今年1月に独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン社と共同で、運用総額50億円のCVCファンド「MEイノベーションファンド」を設立した。スタートアップを支援する狙いはどこにあるのか。

峯藤:今、激しい時代の変化に対応し、新たな価値の創造を牽引しているのは間違いなくスタートアップのみなさんです。日本でも近年、尖った技術や発想を持ったスタートアップが先端技術を社会に実装し、斬新なアイデアで社会課題を解決するなど、新たな道を切り拓いています。そのようなゼロからイチを創出するのが得意なスタートアップと、幅広い事業領域における技術やノウハウを持ち、量産や品質・性能向上に強い私どもが手を組むことで、新規事業や新しい価値を生み出していきたいと考えています。

峯藤 健司の写真
三菱電機株式会社
ビジネスイノベーション・DX戦略室 コーポレートベンチャリング推進グループ
峯藤 健司

「DX」と「グリーンイノベーション」を軸に、
ビジョンを共有できるスタートアップを求める

「MEイノベーションファンド」では、「DX」と「グリーンイノベーション」の分野を中心に、革新的な技術やビジネスモデルを持つ国内外のスタートアップに投資を行う。この2つは日本の未来、また製造業の未来にとって最も重要な領域であることは言うまでもない。三菱電機としてもさまざまな研究開発を進めているが、そこにスタートアップの尖った技術や発想を加えることで、イノベーションを加速しようというわけだ。

丹羽:当社のあらゆる製造現場でのリードタイムの短縮や生産性・品質の向上はもちろん、社会や顧客のニーズにあわせてビジネスモデルを変革していくためには、先進的なデジタル技術が不可欠です。既存のサプライチェーンやエンジニアリングチェーンを最先端のデジタル技術によって改善する取り組みも進めています。また、カーボンニュートラルが世界的な潮流となったいま、グリーンイノベーションは三菱電機のさらなる成長を牽引する最重要テーマとしています。この2つをリードしているのは、我々にはない革新的な技術やビジネスモデルを持ったスタートアップです。ぜひその力を、私どもに貸していただきたいと考えています。

現在、「DX」と「グリーンイノベーション」に関わる技術やソリューションは多く存在する。エッジコンピューティングやロボティクス、デジタルツイン、量子コンピューティング、スマート物流、AI需要予測、カーボンフットプリント管理、カーボンクレジット取引システム、カーボントレーシング……。これ以外にも、デジタル技術を用いた社会の最適化、グリーンイノベーションの実現を目指すシリーズAのスタートアップを中心に、20〜30社程度への投資を想定しているという。

峯藤:投資先の選定にあたっては、技術力やビジネスモデル、私どもとシナジーがあるのかといった視点はもちろん重要です。ただ、それ以上に私どもが重視しているのは、『自分たちの技術でなんとしてでもこのような社会を実現したい』『この社会課題を自分たちの事業で解決したい』といった熱いビジョンやパッションを持っているかという点です。この会社となら一緒になにかをやりたい。三菱電機のリソースをフルに使って応援したい。そう思わせてくれるなにかを持っているかどうかを重要視しています。ですから、私どもが抱えている課題を解決しようと考えるよりも先に、スタートアップのみなさんのビジョンや技術に対する想いをじっくりと聞かせていただきたいと思っています。

総合電機メーカーとしての幅広い事業領域を通して、
事業化やグローバル展開の支援

ここまでの話で、三菱電機が本気でスタートアップの力を必要としており、また応援しようとしていることはよく分かった。とはいえ、多くの企業がスタートアップ支援やアクセラレータープログラムを実施している状況で、三菱電機の「MEイノベーションファンド」を活用するメリットはどこにあるのかを伺った。

丹羽 祐二の写真
三菱電機株式会社
ビジネスイノベーション・DX戦略室 コーポレートベンチャリング推進グループ
丹羽 祐二

丹羽:私どもは日本のものづくりを代表する会社です。技術に対する理解、とりわけ研究開発型のスタートアップに対する理解があることは最大の強みだと思っています。我々の研究所のメンバーとスタートアップの技術者が議論すれば、お互いに得るものは大きいと思います。また、当社は事業領域がとても広いため、技術の横展開の機会が多いこともスタートアップにとっては魅力なのではないでしょうか。過去に、当社のFA事業と協業をしたいとお声がけいただいた方と議論をしているうちに、実は当社のビル事業にその会社の技術を適用したほうが新しい価値が生まれる可能性があることがわかりました。そこで、当初とは別の提案をさせていただいたことがあります。

日高:スタートアップの尖った技術やアイデアを事業として成立させて、持続的に成長させるには、総合電機メーカーとして広い事業領域で培ってきた私どものノウハウや業界知識が非常に役立つと思っています。さらに、世界約40ヵ国に関係会社数200社以上を持つ私どもの顧客チャネルを、グローバル展開する際には活用いただけます。

スタートアップをリスペクトし、
「Give&Give」な関係で協業する

「MEイノベーションファンド」が始まったこともあり、すでに3人のもとには多くのスタートアップから問い合わせが来ているという。研究開発に関する技術的な相談もあれば、三菱電機の製造現場へのソリューションの提案、自社プロダクトやサービスの量産やグローバル展開に向けた問い合わせなど、その内容はさまざまだという。

丹羽:私どもはスタートアップのみなさんからさまざまなことを学びたいと思っています。ですから、基本的にはどんな相談や問い合わせも大歓迎です。まずは、じっくりそのお話を聞かせていただいたうえで、社内の適切な部門に紹介をさせていただきます。そのうえで、実証実験などを通じて、技術や事業のシナジーを検証し、お互いの成長にとって最良の選択をするために議論します。支援方法には、CVCによるマイノリティ出資以外にもさまざまな方法があります。お互いにとって一番よい結果を出すために議論し、検討したいと考えています。

現場部門とスタートアップの間にワンクッション置いているのは、それぞれの文化や考えの違いによる余計な摩擦を起こさないためだという。また、いきなり現場とスタートアップがコンタクトをとると、どうしても既存事業に縛られた発想になりがちだ。ビジネスイノベーション本部が間に入ることで、三菱電機のさまざまな事業領域との協業の可能性を模索しようというわけだ。その過程において3人は、スタートアップファーストの視点を何より大切にしているという。

峯藤:大企業とスタートアップではどうしても力関係が生じてしまいます。でも、私は大企業がスタートアップの技術や発想を単に囲い込むだけでは、真のイノベーションは生まれないと思っています。また、ステージがまったく異なる大企業とスタートアップでは、本当の意味での『Give&Take』は成り立ちにくいのも現実です。私どもはスタートアップのみなさんと『Give&Give』の関係で、まずはお互いがそれぞれできることを与えることに徹する。すぐに見返りを求めないことが大事だと考えています。自分たちが得意でないゼロイチの事業に挑戦されているスタートアップのみなさんに対しては、リスペクトを絶対に忘れてはいけないと肝に銘じています。

最後に、三菱電機がスタートアップとともに目指す、未来の日本のモノづくりの姿について伺った。

日高 剛史の写真
三菱電機株式会社
ビジネスイノベーション・DX戦略室 コーポレートベンチャリング推進グループ
日高 剛史

日高:新しい技術で世の中をよりよくしていきたい。そんな思いが、私どものスタートアップ支援の根底にあります。私どもの取り組みを通して、優れたスタートアップがどんどん成長していく。その会社が、やがて次の時代のスタートアップの製品やサービスを導入し、その成長を促していく。そのようなスタートアップエコシステムが構築されることで、日本の新しいモノづくりが形成されていくのではないでしょうか。いずれそこから、世界に羽ばたくスタートアップがどんどん生まれてほしいと願っています。

日本の製造業を牽引してきた三菱電機が今、本気で変わろうとしている。そのうえでスタートアップに大きな期待を寄せ、応援しようとしている。その社会的意義は非常に大きなものがある。3人が語るように、三菱電機のような伝統ある大企業とスタートアップとの協業の先にこそ、日本のモノづくりの未来があるからだ。

※TechCrunch Japanからの2次転載です。

ページトップへ戻る