なごし夏越
6月に入ればだんだんと大気は潤いを帯びてしっとりとした空気に。
軽やかな風の中で心地よく過ごした薫風の季節とも来年までしばしの別れです。
四つの季節が訪れては去り、また訪れるのが日本の季節の醍醐味です。
繰り返し季節を重ねて暮らしていくうちに季節のリズムは心や身体に刻まれていくものです。
春、夏、秋、冬の訪れはいつも新鮮で、それぞれの季節との別れがくれば、名残惜しくなるものです。
何十年も出会いと別れを繰り返しているというのに飽きることがない。身近にある不思議な恵みだと思います。
6月という月は、順調に進んでいた季節がいったん小休止するように感じたり、
どっしりとした灰色の空と雨模様が続いて重みを感じる時期。
身体も心も冷えるように感じる季節でもあります。
そういう時期にやってくるのが6月30日の夏越の祓です。
新しく迎えた1年も早くも半年が過ぎますよ、という節目。
茅の輪くぐりをしたり、茅の輪を飾るなどして過ぎた半年を振り返ります。
半年のうちについた穢れや災いや邪気を一新して、残りの半年を新たに歩む。
そのための力を培うのも夏越という行事の役目です。
また、6月は梅雨ということ、半年の節目ということで夏越以外にも様々な習わしがあります。
茅の輪
夏越の祓には、チガヤという植物を用いて茅の輪を拵える。
茅を身体につけるなどすることで災い除けになると信じられてきた。由来となった故事の象徴となる人物の名が「蘇民将来」。
また茅の輪は古くから様々な時代や土地で活躍した習わしの一つである。
現代においては、災いを避けるため寺社などに作られた大きな茅の輪を潜るのが一般的だが、小さな輪を腰につけたり玄関にさげる土地など、多様な方法がある。茅の輪を首にかける、あるいは身体全体に輪を通すなど平安時代の絵巻に記されている。
青々としたチガヤで左縄のしめ縄を拵えたところに蘇民将来の子孫であることを記す札。
古い小ぶりの三宝に置いてみる。
泰山木の花
天上を指し示すかのように咲く、泰山木の大輪。
木の上で開くから、天上に住むものしか見えない花。
大きな蕾から開いていく様はまるで木の上の蓮のよう。
時期がくると甘い香りは高みから放たれて梅雨時の空気に溶け込む。木から一輪降りてもらい、花器に入れれば、地上に強い力と香りを放つ。
下から仰ぐ花、天から見る花。見る場により別の顔を持つ花である。
紫陽花守り
六月の邪気払いの一つ、紫陽花守り。
紫陽花の花枝を奉書で包み、紅白の水引で結ぶ。包みの中には願い事を忍ばせる。
古くは金運を高める、病いを避けるなど土地により役割は異なる。様々な力を持つと考えられてきた花の御守りである。
梅雨の時期、あるいは夏の土用の頃に行われていた。
結ぶ紫陽花の花色、形により種々様々な趣きになるところが楽しい。
花に守ってもらうという発想を心に留めておきたい
忘れ草
忘れ草はユリ科の花。
ノカンゾウと呼ばれ、若い芽は少しぬめりがあり美味。
日本に古くから自生して6月から咲き始める。
長い年月に渡り多くの人に愛されてきた花である。
忘れ草の名は身につけると憂えや辛さを忘れるという言い伝えから。万葉集では故郷への思いや恋愛の憂えを忘れるために衣服の下紐に結んだことが詠まれている。
迷いや憂えのあるところが解き放たれますよう願いを込めて、光のある窓辺にしつらう。
しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.06.01