きくのせっく菊の節供
菊の節供は9月9日。
重陽の節供とも呼ばれる五節供の一つとなります。
新暦を使う現代においての菊の節供は九月九日ですが、季節はまだ残暑厳しい折。
長い年月にわたって古の人がおこなってきた時期の季節感を感じながら行事を楽しむには旧暦の九月九日、あるいは月遅れの十月九日に行うことをおすすめしたいと思います。
ちなみに旧暦で数えるなら今年は十月二十三日となります。
不老長寿をもたらす力、そして若返りの霊薬として古くから親しまれてきた菊は現在、品種改良を重ね、色や形も豊かです。
長らく仏花としての立ち位置が強かった菊も、
今という時代に寄り添うかたちへ移りゆく流れにあり、華やかになってまいりました。
菊の節供は菊の霊力をいただくために菊酒にしたり、茱萸袋をかけるなどの中国から渡ってきた風習と古くから日本にあった収穫のお祝いや栗を贈る習わしなどが長い年月をかけて各地で混じり合い、今の行事へとつながっています。
ちなみに菊という言葉の語源。
いくつかありますが古今要覧稿によるものが心ひかれます。
菊の花のかたちはものをすくう時の手の形と似ていることから、手ですくいとるという意のことば、「掬」(きく)の音から生まれたということです。
菊花袋
正絹の包みと飾り結びを合わせて野菊や秋の草草を入れる。
古代中国から伝わる重陽の習わしの一つに、茱萸袋とよばれる袋を肘にかけて邪気払いをしたというものがある。
茱萸袋の中身は本来は呉茱萸という匂いの強い生薬を入れてそれを邪気払いとしたが、日本に伝来する道の途中で茱萸の枝などを入れるものとして伝わることとなる。
源流といわれるものが長い旅路の途上で、かたちを変えるということはよく見られること。その時代、その土地それぞれのかたちとなる。
今回は、古くから伝わる菊の霊力と、結ぶことで場やものに力を与えると考えられた結びのかたち、天からの授かりもの 蚕から生まれた正絹の力を合わせ、菊花袋とした。
菊の瓶子立て
大ぶりの菊を白い瓶子に立てて縁側に。
菊の語源の一つである「掬」ということばを元に両手でそのかたちを試みれば、なるほど、まさしく掌は菊花のよう。
大きな菊はまさにその手でつくる花を思わせるかたち。
真っ直ぐに立つよう入れてみれば、魂の宿る姿に。
菊の薬玉
端午の節供の習わしの一つである薬玉を菊や秋の草草で拵える。
本来、九月の重陽の節供には、五月から長きにわたりかけてきた薬玉と茱萸袋を取り替えるというのが古くから伝わるかたち。
薬玉にしっくりとくる秋の菊と邪気を祓う南天の葉や薬草になるもの、そして秋の宿る草草を合わせて、転じていく季節に祈りをかける菊の薬玉に。
着せ綿
さまざまな色の大菊に真綿を被せ着せ綿に。
着せ綿のしたくは重陽の節供の前の晩。
菊の花に真綿をかぶせ外に出しておく。
夜露や朝露がおりたその真綿で肌を拭えば若返り、長寿を呼ぶという。
着せ綿に用いるのは綿のわたではなく絹のわた。
菊花に合わせて象れば繊細な絹の糸は雲のようにひろがり、天にものぼるような気持ちに。
しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.10.02