しゅうかくさい収穫祭
実りをお祝いする祭り、収穫祭や秋祭りは9月から11月の間に行われます。
小さな国といえども東西南北に広がる日本では実りの時期は異なります。
特に現在は作物の種類も増えて、使う暦も異なり、稲ひとつとっても種まきから実りの時期に幅があるために一律ではないことも手伝って収穫祭もさまざま。
決まった日時をさすタイプの行事ではありません。
それでも秋が深まれば農作物の実りだけでなく様々な木々や草草は彩られてまいります。
多くのものが実りを終えて山や野が紅葉していくのを眺めながら一年が終わってまた新しい年を迎えるしたくがはじまるのだ、という安堵と郷愁に包まれてまいります。
古い時代から続く収穫祭といえば、旧暦の9月の物日やおくんち、あるいは旧暦10月の亥の子、旧暦の10月10日の十日夜などなど。
藁鉄砲をこしらえたり、案山子を田の神が宿るものとするなどしてお供えをして秋祭りを行いました。
また、11月23日の祝日、勤労感謝の日も、戦前には新嘗祭と呼ばれた収穫祭でした。
長い年月をかけた変化と早急な近年の変化を重ねて、日々の生活や社会は大きく変わり、皆がお祝いと祭りに包まれた祝祭を実感することが、現在は難しくなりましたが、ささやかに自然からの恵みと植物が育つ不思議な力に心を向ける時間を少しでも持つことで、過ぎた時を慈しみ、あらたな年を歩くための古と変わらない力を授かる時間となることでしょう。
初穂と榊
刈りたての初穂と神事に用いる榊に千両の青実を合わせる。
束ねて半紙に包み、本麻で結び、丸盆に置いて収穫祭のしつらいに。
年の瀬の前に実をつけている縁起担ぎの千両、万両、十両などは早々と色変わりしているものもあれば、まだ青一色のものもあり。
収穫した稲穂とともに、色変わりしていくさまを眺めて時の流れを味わい過ごす標に。
初穂祝い
刈り上げた稲を束ねて手すきの檀紙で包む。
結びは本麻の鮑結びに。
たっぷりと稲穂を手にすれば香ばしい新穀の香りに包まれて豊かなはざかけのかかる晩秋の田んぼで遊び過ごした記憶を呼び覚ます。
体当たりしてくるトンボの感触まで鮮やかに蘇ってくる。
収穫の時を迎えた稲は勢いのあった夏を過ぎて手触りは柔らかで優しい。
自然のものに触れる機会が少なくなった今だからこそ、草木花や実りを手にする。
どうしつらえばよいかと試み心をはたらかせる時間は最高の機会に。
稲穂花
油で揚げた稲穂を高坏にのせて稲穂花に。
束ねた裾には朱色の絹を結んで。
おろしていただけば美味。
直会も楽しみなしつらいとなる。
たっぷり新穀のついた稲穂を温度高めの油に入れれば、ぽつぽつと静かに弾けていく。
はじけて花開くものそのまま終わるもの、稲穂はさまざまな動きを見せる。
味わうのも立つ香りも楽しみな実りのお祝いの飾りに。
枯松葉・生松葉
たくさんの松葉が落ちる頃。
大地には、役目を終えて散るもの、他を活かすために退くもの、様々な葉がある。
薄焦茶色の枯松葉、お濃茶のような生松葉。
どちらも鋭いかたちで束ねれば天を指し示す。
それぞれに束ねて鮑結びに。
両者並べて折敷に置けば大きな季節の節目の境界線にふさわしいかたちに。
しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.11.01