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新しい家電を買った時に、引き取ってもらった古い家電。それがどのようにリサイクルされているか、ご存知ですか?もしかすると、三菱電機によって別の家電に生まれ変わっているかもしれません。

SDGsの考えが暮らしに浸透していく中で、注目されているのがサーキュラーエコノミーです。これは、資源の無駄や捨てられている素材、まだ使用できるにもかかわらず廃棄されている製品などを活用し、利益を生み出す「循環型経済」の仕組みのこと。三菱電機は家電に使用されたプラスチックを、再び家電に用いる自己循環リサイクルに取り組んでいます。今回は、その最前線の現場を学ぶために千葉県市川市にある(株)ハイパーサイクルシステムズへ社会見学。さらに、関連会社である(株)グリーンサイクルシステムズにもインタビューをしました。

社会見学 使

社会見学に訪れたのは、千葉県市川市に本社工場を構える(株)ハイパーサイクルシステムズ(以下HCS)。
三菱電機が設立した家電リサイクルプラントで、家電リサイクル法が施行された2001年より前の1999年に操業を開始しました。ここでは主に使用済みのエアコン、冷蔵庫、洗濯機を解体・破砕し、さまざまな選別技術を用いて鉄や銅、混合プラスチックなどの素材に分別しています。もうひとつの千葉工場では、主にブラウン管テレビと薄型テレビを処理しています。

最初にショールームで製造技術部の小笠原忍氏、若山勝彦氏、石附浩輔氏の3名から家電リサイクル全般に関してのお話を伺いました。

本日はよろしくお願いいたします。まずお聞きしたいのですが、HCSはどういった経緯で設立されたのでしょうか。

小笠原さん(以下敬称略)

ご存知のように一般廃棄物の問題は日本だけでなく世界的にあり、法制化の動きの中で家電リサイクルの仕組みが作られていきました。三菱電機社内でも環境事業プロジェクトが立ち上がり、当時の家電リサイクル推進室が母体となって1999年に操業を開始しました。

  • 家庭や事業活動に伴って発生する廃棄物で、産業廃棄物以外のもの

一般廃棄物の中で、使用済み家電はどれくらいの割合でしょうか?

小笠原

約2%です。その中で家電4品目と言われるエアコン、冷蔵庫、洗濯機、ブラウン管テレビ/薄型テレビは1.3%です。ちなみに一般廃棄物は年間約5,000万トンで、生ごみと包装容器だけで半分以上を占めます。

  • 家電製品協会 家電リサイクル年次報告書(平成22年度)

家電4品目の使用済み家電は、全国でどれくらいの数が回収されているのでしょうか。

小笠原

全国の回収規模で言うと年間1,500万台前後で推移しています。家電リサイクル法が施工された2001年から2023年までの累計で3億台を超えています。ここHCSには年間100万台が運び込まれてきます。

年間100万台ですか!数も凄いですが、そのリサイクル率が99%というのも凄いですね。

若山さん(以下敬称略)

再資源化率は99%と、廃棄物ゼロを目指すゼロエミッションをほぼ達成しています。もうひとつ、リサイクルの中でも「自己循環型リサイクル」と言って、家電であれば再び家電にリサイクルすることが循環型社会の実現に向けて望まれています。特にプラスチックに関しては(株)グリーンサイクルシステムズ(以下GCS)と協力して純度の高い再生プラスチック素材を生産し、三菱電機の家電製品に再利用しています。

使用済みの家電が、新しい家電として生まれ変わる最初の一歩が、このプラントなのですね。

石附さん(以下敬称略)

つづきはプラント内部を見学しながら、私が説明しますね。

よろしくお願いします!

「手解体→粉砕→選別」の工程で自己循環リサイクルを実現する最先端の現場へ

最初に編集部員たちの目にとまったのは、HCSの可愛らしいイメージキャラクター「ハイパーバード」。オーストラリアに生息する「ニワシドリ」という小鳥がモデルで、身の回りのモノを集めて分別し、美しいオブジェを作る習性があることから選ばれたそうです。

いよいよ一行はプラント内部へと進みます。家電を破砕する大型の機械やベルトコンベア、自動掃除ロボットなどが整然と配置され、とても清潔に保たれています。このプラントは再生エネルギーによる電力や太陽光発電、すべての照明にLEDを使用することで温室効果ガス排出を大幅に削減し、環境への配慮もなされています。

石附

運び込まれた使用済み家電が、どのような工程で素材ごとに分別されていくか順番に見ていきましょう。最初は「手解体工程」と言って、人の手で素材として価値のある部品や破砕機に入れられない部品などを外していきます。エアコン、冷蔵庫、洗濯機はそれぞれのラインで手解体されます。

解体するのにどれくらいの時間がかかりますか?

石附

そうですね、ドラム式洗濯機など例外もありますが、1台あたり30秒毎くらいで手解体ラインから排出されます。

エアコン室外機の手解体ライン。粉砕機に入れることができないコンプレッサーや基板などを事前に取り外します。

冷蔵庫の手解体ライン。ドアのゴムパッキンには磁石が含まれるため、ここで取り外して破砕し、塩ビと磁石に分別されます。

洗濯機の手解体ライン。洗濯槽の淵部分には回転バランスを取るための塩水が入っているため、破砕機を痛めないように排出します。

三菱電機ならではの技術①

各地から集められた洗濯機は重いだけでなく、大きさも大小さまざま。作業員の負担を減らし、効率よく荷下ろしするために、三菱電機の研究所が開発した(画像処理システムで動く)パレタイズロボットが活躍しています。
上から3Dカメラで撮影し、洗濯機の平面位置と高さを検出。検出した座標データをもとにロボットアームが作業を行います。

ここでは、さまざまなメーカーの家電を解体しているのですね。

石附

そうです。特にエアコンの室外機には製造された時代によって違う種類のフロンガスが使われているので、それぞれ専用のラインで回収しています。ちなみに、熟練の作業員は室外機の見た目だけで使用しているフロンガスが分かるんですよ。フロンガスを使用している冷蔵庫も同様に回収して、大気中に漏らすことなく専用のボンベに充填されます。

三菱電機ならではの技術②

最近の冷蔵庫はフロンガスを使用しない、ノンフロンタイプが主流。使用される冷媒イソブタン(R600a)は可燃性のため、回収後のコンプレッサーは風通しの良い場所に1日以上置く必要がありました。そこでHCSと三菱電機の研究所が開発したのが、冷媒イソブタン排気装置。わずか18分で安全な状態にすることができ、作業効率が大幅に向上しました。

石附

次は「破砕機工程」を見ていきましょう。11基ある破砕機を家電の種類によって使い分け、細かく破砕していきます。ここでは冷蔵庫が破砕される様子を見ることができますよ。

すごい迫力ですね、冷蔵庫があっという間に粉々になっていく!

石附

この衝撃式破砕機は1時間に15トン分の家電を破砕できます。冷蔵庫の断熱材にはフロンが含まれているので、破砕中の空気を取り込み、活性炭に吸着させて回収しています。

石附

そして最後は「選別工程」です。磁力や風力といったさまざまな選別器を駆使して鉄、アルミや銅などの非鉄金属、混合プラスチックなどを回収していきます。

混合プラスチックというのは、どういうものですか?

石附

家電に使用されるプラスチックには、用途に応じていくつかの種類があります。主にPP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABS樹脂で、それらが混ざった状態のものを混合プラスチックと言います。混合プラスチックはGCSへ運ばれ、専用の選別器を使って元の3つの素材に分別され、最終的に三菱電機の工場へ納品されて新しい家電の製造に使われます。

なるほど、実際に現場を見ることで、自己循環リサイクルへの取り組みをより深く理解することができました。HCSとGCSのような関係の家電リサイクルプラントは、なかなか他にないのでは?

小笠原

早い時期からGCSと一緒にプラスチックのリサイクルを進めてきましたから、ここまで高品位かつ大量に家電製品に戻しているメーカーはないと思います。再生プラスチックが家電にもっと使われるように、これからもGCSと三菱電機の研究所と手を組みながら、付加価値を高めていきたいと考えています。

本日はありがとうございました!

インタビュー

使用済み家電から回収された混合プラスチック。これをどのような技術で選別し、再利用可能な単一のプラスチック素材にしていくのかを(株)グリーンサイクルシステムズの担当者にインタビューしました。

筒井さん(以下敬称略)

はじめまして。(株)グリーンサイクルシステムズ(以下GCS)で製造管理を担当している筒井一就です。

本日はよろしくお願いします。まず最初に、自己循環リサイクルを実現するために混合プラスチックの選別をはじめた経緯を教えてください。

筒井

国内の家電リサイクル工場から排出されるプラスチックは年間15万トンで、うち30%はリサイクルが比較的容易な手解体プラスチックとなります。HCSで冷蔵庫の手解体工程を見られたと思いますが、例えば野菜ケースや透明の棚板などですね。残りの70%が破砕機から排出される混合プラスチックとなりますが、従来の技術では選別が困難で燃料として使用するか、近隣諸国への輸出など付加価値の低い用途しかありませんでした。

7割が有効活用されない状況だったとは知りませんでした。

筒井

はい、やはり大規模な自己循環リサイクルを目指すためには、混合プラスチックの選別しかないと。そういった理由で、三菱電機はリサイクル可能な再生プラスチックを選別回収して、安定的に製造側へ供給するための量産技術開発を2001年にスタートさせたのです。

三菱電機ならではの技術③

混合プラスチックの選別方法のひとつに「静電選別」があります。種類の違うプラスチックを擦り合わせて静電気を起こすと、必ず一方が+(プラス)、他方が−(マイナス)に帯電します。例えば、PS(ポリスチレン)とABS樹脂の場合は、−に帯電するPSを+電極に、+に帯電するABSを−電極に引き寄せて選別することができます。
擦った下敷きを頭の上に近づけると髪の毛がくっつくのと同じ理論で、三菱電機が国内で初めて量産化した技術です。
この他にも水中での比重差を利用した湿式選別など、独自開発した技術によってPP、PS、ABSという高純度の単一素材を再生しています。

そしてこれが最終の姿になるのですね。

筒井

そうです、これは高純度再生ペレットと呼ばれているもので、三菱電機の家電製品に使われています。具体的にはエアコンのファンを固定する部品やフィルターのフレーム、冷蔵庫のファングリルや仕切り壁、キャニスター掃除機のホース挿入口や背面ケースなどに活用されています。

家電プラスチックのリサイクルには2つの種類があります。
ひとつは、燃料や日用品など家電製品とは別のものに使われる一般的なリサイクル。
もうひとつが今回ご紹介した自己循環リサイクルで、再び家電製品として使われるものです。
高純度再生ペレットから作られたプラスチック製パーツは、三菱電機のさまざまな家電製品の中で活躍しています。

最後に将来的な目標や取り組みをお聞かせください。

筒井

サーキュラーエコノミーを推し進めるために、再生プラスチックの使用量を拡大していきたいですね。新たに再生プラスチックに置き換えようとしているところは、実は技術的な課題が大きい。例えばエアコンのパネルといった、デザイン・意匠性のある部品にはまだ適用できていない状況です。それと、剛性といった機能性が求められる部品にも適用していかないと、量が増えていかないので、意匠性や機能性の高い部品にもっと拡大できるような技術開発をこれからも続けていきます。

確かに、目に見えるデザイン部分にも再生プラスチックが使われたら個性的な家電が生まれそうですね。本日はありがとうございました!

サステナコラム

再生プラスチックを表舞台に!
三菱電機のコンセプトデザイン家電

見えない所で使われている再生プラスチックを表舞台に!再生プラスチックの可能性をカタチにした三菱電機のコンセプトデザイン家電をご存知ですか。昨年、三菱電機のイベントスクエアMEToA Ginzaで展示されたのは、落ち着きのあるアースカラーを纏ったエアコン、冷蔵庫、掃除機。来場者からの評判も高く、製品化を希望する声も。再生プラスチックが家電に新しい価値と魅力をもたらす日も、そう遠くないかもしれません。

社会見学を終えて―編集部員の感想―

自己循環リサイクルの現場を体験した今回の社会見学。
最後に、編集部員たちに感想を聞いてみました。

編集部員A

役目を終えた家電が、新しい家電として生まれ変わる。一般的なリサイクルとは違った自己循環リサイクルをご紹介できてよかったです。皆さんのご家庭にある家電にも再生プラスチックが使われているかも!?

編集部員B

実際に社会見学をしてみると、工場内の音の迫力がすごく、圧倒されてしまいました。それぞれの工程の中で独自の技術を発揮し、再資源化率99%を達成していることを誇らしく思いました。

編集部員C

現在は家電の内側の部品として使われている再生プラスチックですが、その可能性は無限大。再生プラスチックを外観に使用したコンセプトデザイン家電のような色合いが好きな人も多いのでは?

次回の社会見学もお楽しみに。

取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
2025.03.03