職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」設計者・横田周平×箱根寄木細工技能師 露木清高

#01 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 後篇 2人が語る、
新たなものづくりへの挑戦心

(対談篇 後篇)

三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」もまた、約50年の間、同社のエンジニアたちの間で技術や矜持が伝承されてきました。
伝統工芸職人とエンジニア、両者に共通するものづくりの視点・矜持とはどんなものなのでしょうか。

「霧ヶ峰」に込めた三菱電機のこだわり

箱根寄木細工が今の代まで受け継がれてきたのと同様、「霧ヶ峰」のものづくりもまた、約50年の間、エンジニアたちに受け継がれてきました。三菱電機独自の製品開発のこだわりはどういったものでしょうか?

横田

より高品質な製品を自社で設計・開発しようとすれば、いかんせん製造コストが合わなくなるものです。結果として、製造拠点を海外に移すのがいわば量産組立の製造業の定石です。しかし三菱電機は「霧ヶ峰」の拠点をずっと静岡に置いています。目の届く範囲に製造ラインを敷いているからこそ、品質試験もとても厳しいものです。
また、左右独立駆動する2つのプロペラファン「パーソナルツインフロー」を採用する以前には「ラインフローファン」というファンが採用されてきましたが、実はこの技術も家庭用エアコンとしては三菱電機が世界で初めて採用したファンなんです。これにより、より軽量に、かつよりコンパクトなエアコンを普及させることができました。
※1968年発売。三菱電機調べ。

露木

エアコン業界のトレンドを三菱電機さんが作られてきたのですね。

横田

三菱電機グループのコーポレートステートメントは“Changes for the Better”。すなわち「常により良いものをめざし、変革していく」ことを宣言しています。それはもちろん「霧ヶ峰」でも同じこと。手前味噌になりますが、品質に対してとても愚直なものづくりをしているという自負が私たちにはあります。

試行錯誤の末に、
自分なりのデザインが見えてくる

横田さんから「霧ヶ峰」のこだわりについてお話を伺いましたが、露木さんはどのような印象を持たれましたか?

露木

とても繊細なものづくりをされているという印象を持ちました。最先端の機能を追い求めながら、エンジニアの手で改良に改良を重ねる——実にアナログな作業ですよね。
寄木細工にも似た部分があるのでは、と感じましたが、横田さんは設計者として、特にどんな点にご苦労を感じていますか?

横田

思いついたアイデアは一度形にしてみますが、よく失敗します。その失敗を改善する。その繰り返しですね。
エアコンの大きさはある程度決まっています。そこに組み込める部品の数にも限りがある。試行錯誤を繰り返しながら、求められた機能も備えつつ、かつ、利用者がより使いやすい室内機に「設計」するのはやはり骨の折れる作業です。
考えているうちにいつの間にか1日が終わってしまうこともあるくらいで(笑)。

露木

わかるような気がします(笑)。

丹念に課題を
つぶしていった先に、
ようやく大きな答えが
見つかるんです

横田

ただ、考えれば考えるほど、解決しなければいけない課題が見えてくる。あとはそれをどうやったら解決できるのかを考えます。するとそこから次の課題が見つかる……。そうやって丹念に課題をつぶしていった先に、ようやく大きな答えが見つかるんです。きっと今の「霧ヶ峰」の設計も、自分でなければこのかたちにはなっておらず、設計者によって独自のデザイン(設計)があってしかるべきだと思います。答えは決して1つではなく、試行錯誤の末に、自分なりのデザインが見えてくる。そう考えています。

露木

今の話はとても興味深いです。実は私も寄木細工の新しいデザインづくりにチャレンジしています。例えばこれは「縞模様」という模様で、ロクロで削り出したムク物として「茶筒」や「ぐい呑み」などを製造・販売しています。

横田

たしか2011年には第50回「日本クラフト展」で読売新聞社賞を受賞されていますよね。

露木

そのときに受賞したのは『えん』というお皿の作品でした。お皿の中で円が踊っているような動きのあるデザインの作品です。こうした作品ははっきり言ってしまえば歩留まりが悪い。でも寄木細工にこうしたデザインがあっても面白いんじゃないか、と思っているんですよ。

横田

どちらも非常に興味深い作品です。天然木の木目や色合いも大胆に見えているので、一般的な寄木細工とはまた違った魅力を放っていると感じます。

露木

寄木細工の若手職人が集まり、「雑木囃子」(ぞうきばやし)というユニットでも活動しています。多くの方が寄木細工に抱くイメージとは一線を画する作品づくりだと思われますが、でも私はこれも「箱根寄木細工の発展形の1つ」と考えます。
ある程度の制限はあるなかで、新しい発想を生み出していく——そのプロセスには、横田さんのお仕事とも重なる部分も多いと感じました。

共通するのは
「生活のなかにある道具」という視点

横田

露木さんはどんなときに寄木細工の仕事に魅力を感じますか?

露木

そうですね。自分の手で作り上げた作品が美しく仕上がったり、あるいは「これが生活のなかにあってほしい!」と思ったりできた瞬間でしょうか。露木木工所のものづくりのコンセプトは「生活文化を創造していく」——皆さんの生活のなかに何か1つでも寄木細工の道具が入り込むことで、そこで暮らす人たちの生活はもっと豊かになるのでは、という思いを常に持っています。

横田

「生活文化を創造していく」ですか?

露木

寄木細工の長い歴史でも、一般的な細かでカラフルな連続模様が流行るより以前、大柄の多角形の寄木の中に細い模様を埋め込んであるものが多く作られたと言われています。三菱電機が「よりよいものへのチャレンジ」を繰り返してきたのと同じように、箱根寄木細工もその時代の生活で求められた作品が生まれ続けてきたということ。私たち作り手は、そうして変わっていく時代のなかで、新しいものづくりを提案していかなければならないと思っています。

横田

「生活のなかにある道具」という視点は、エアコンを設計するときにも意識しなければいけないことです。特に、近年の日本の住宅では白い壁紙に囲まれた四角い部屋の壁面にエアコンが据え付けてあるのが一般的。どうしても生活に対して違和感を感じさせてしまうアイテムだと思うんですよ。いかに生活に馴染んだ製品を作るか。そういった外観デザインは私のような筐体設計者も考えなければならず、露木さんの寄木細工から学ぶ点が多いと思いました。

露木

私も横田さんのお仕事についてお話を伺い、根底にあるのは「発想」だと改めて考えました。伝統的な寄木細工にしても、新しい寄木細工にしても、表現の幅は自由。これからも明確な境目は作らず、自由な発想を持って作品づくりに挑んでいきたいです。

本日はどうもありがとうございました。

「生活のなかにある道具」という
ポリシーに共鳴した両者は、取材を終えてもなお、
互いの仕事のこだわりについて存分に語り合っていました。
同世代の2人がこれからどんな製品を生み出していくのか、
とても楽しみです。