職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

樽製造・荷師 横谷 哲矢×三菱液晶テレビ 映像技術者 松本 竜也

#04 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 後篇伝統を守りつつ、遊び心も大切に

(対談篇 後篇)

若き菰樽職人と、4Kテレビの映像技術者。
2人がものづくりにどんな思いを込めているのか “職る”2人の対談はまだまだ続きます。

映像品質向上のための地道な作業

横谷さんの日頃のお仕事のなかで、職人としての腕の見せどころはどんな点ですか。

横谷

やはり中身が荷崩れしないようにしっかりと巻くことが肝心ですね。同時に、巻きの作業中に表面の印(絵柄)が傷つかないように、ゆがんだりずれていたりしてもいけない。それこそが品質の良い菰樽であり、また荷師としての腕の見せどころだと思います。

松本さんはいかがでしょうか。ある種の娯楽品であるテレビは「最低限、観られればいい」と思われがちな存在です。1970年代に日本の家庭にカラーテレビが普及し、ブラウン管テレビの時代を経て、2003年地上デジタル放送が開始。そして今、4K・8K時代の幕開けによってテレビの価値が見直されようとしている……。そんな時代に、テレビの映像技術者としての腕のみせどころとは?

松本

どんな映像にもしっかりと対応する、そのバランスの取り方でしょうか。画質設計の仕事では、例えば信号処理で映像品質を良くしようとしても、ある特定の番組では映像がきれいになったとしても、別の番組だとダメだったりもします。
今の時代、視聴される映像コンテンツは無限にあります。Blu-rayで観ることもあれば、ネット番組、テレビゲーム等々。だから我々技術者はすべての映像の特性をつかむべく、会社でいつもテレビや映画はもちろん、様々な映像をチェックしています。傍目には仕事をさぼっているように映るかもしれませんが(笑) 。

十分“きれい”な映像でも、さらに高品質な映像表現へとさらに進化させていく必要がある?

松本

そうですね。映像技術者の世界でも、ある程度のルールややり方というものがあって、それらをしっかり踏襲していないと映像品質向上は叶いません。とはいえ、踏襲してばかりでは同じ映像にしかならず、結果的に三菱液晶テレビの良さがなくなったり、他のメーカーの製品のなかに埋もれてしまったりします。私たちの仕事は、歴史を学び、正当なやり方を学んだうえで、技術者としての自分の発想がどのくらいはみだしているのかを認知し、悪影響が無いことを確認していくそんな地道な作業なのかもしれません。

横谷

私が師匠から受けた教えも「先輩たちの作業をきちんと見て、自分なりにイメージしながら覚える」ということでした。熟練の荷師は1個あたり約10分間で巻きを終えるのですが、最初の頃は当然ながらかなりの時間を要していました。しかし、私に仕事をイチから教えてくれた先輩荷師にそんな助言をもらい、他の先輩からワザを盗んだり、これまで以上にしっかりと学ぶことを意識するようになりました。我々が行う“巻き”は代々受け継がれてきたものですので、しっかりと伝統を守りたい。しかし他方で「もっと速く、きれいに巻く」というのは“自分なり”の工夫が必要です。伝統を守りながら、進化させていかなければいけないと思っています。

新たな価値の提供で認知を拡大する

岸本吉二商店では伝統を守った製品づくりの一方で、かなりユニークな製品開発にも取り組まれていますよね。

横谷

はい。お客様は蔵元様が主ですが、オリジナルラベルをあしらったウェディング鏡開きや、手の平サイズの豆樽ミニチュアなども製造・販売しています。ちなみにこれは「ミニ鏡開きセット」という製品で、蓋の部分にマグネットを入れているため、何度でも鏡開きを体験いただけるんですよ。お酒はもちろんですが、お菓子入れや小物入れとしてもご利用いただけます。

松本

1900年創業の老舗商店にしては、かなりカジュアルな取り組みですよね。

横谷

松本さんの後ろにある菰樽の模型も、実は照明器具なんです。巻き方は本物を忠実に再現していて、中にLEDライトが入っています。

松本

玄関などに置かれていると面白そうですね。

横谷

このほかにも菰樽の新しいチャレンジとして、グラフィックデザイナーと「KomodaruLink」という協働プロジェクトを行っており、若い方々への認知拡大にも努めています。

伝統的な文化を、
ものづくりを通して残す

こうした活動にはどんな思いが込められているのでしょうか。

横谷

伝統的な文化を、ものづくりを通して残すことにより、日本を発信し、社会価値を創造していくそれが岸本吉二商店の企業理念です。新しいものづくりやデザインに挑戦しながらも、古き良き菰樽文化を守り、できれば世界にも発信していきたいそんな思いを込めています。

ハレの日を演出する道具として

最後に、お2人の夢や目標を聞かせてください。

横谷

当社では「もりあげ樽 DonPa」というレンタル鏡開きサービスの提供も行っています。叩くとクラッカーがはじけるといった演出効果でイベントを盛り上げます。

松本

私は鏡開きを体験したことがないのですが、とてもユニークな試みですね。

横谷

ありがとうございます。菰樽というのはお酒を入れる道具であることは確かですが、特に近年は祝事・祭事・慶事を彩ってくれる道具でもあります。私も入社間もないときたしか結婚式だったと思いますが当社の菰樽を鏡開きにご利用いただいているお客様の写真を拝見し、感動したものです。
技術を習得していく過程では、巻き方を覚えるにつれてどうしても「できるだけ速く、速く」とあせってしまうところがあったのですが、その写真を見たとき、自分はお客様の“ハレの日”を演出する仕事に携わっているのだと改めて認識しました。それがなによりの魅力ですし、仕事に対する心構えが変わった瞬間でもありました。どんなお祝いごとも、その方の人生においてはとても稀少なシーンだと思います。伝統も遊び心も大切にしながら、そうしたシーンに適したものづくりに、心を込めて取り組んでいきたいです。

松本さんはいかがでしょうか。

松本

テレビは子どもからお年寄りまで誰でも使える家電です。最近は「若者のテレビ離れ」なんて声も聞こえてきますが、家族団らんにはやっぱりテレビが不可欠ですし、まだまだ可能性を秘めている家電だと思います。4K・8K時代の到来により、テレビは今よりもっと楽しい映像を提供できる装置になります。例えば同じコンテンツを観ていても、三菱電機のテレビならいっそうの臨場感を提供できるそうした製品づくりを続けていきたいです。

本日はどうもありがとうございました。

「これまで鏡開きをしたことがない」という松本が
「ミニ鏡開きセット」で鏡開きを“初体験”。
少し緊張した面持ちで木槌を持っていましたが、
勢いよく木槌で樽のふたを割ると表情も晴れやかに
菰樽という伝統文化の価値を感じた瞬間でもありました。