職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

3RD CERAMICS・陶芸家 長屋 有 土井 武史 ×三菱冷蔵庫 先行開発グループ 鈴木 和貴

#05 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 後篇“第三の陶芸”と家電の先行開発に共通する、
ものづくりの矜持とは

(対談篇 後篇)

食器と冷蔵庫、食にまつわるものづくりに従事する3人は自らの仕事とお客様にどのような想いを込めているのでしょうか。
“職る”3人の対談が続きます。

第三の陶芸を可能にした「中量生産」という選択

来年には「3RD CERAMICS」として始動してから10年が経過します。今は3RD CERAMICSのファンも増えているようですが、販路はどのように拡大したのですか。

長屋

本当に誰もお客様がいない状態で始めたので、最初のうちは何回か見本市みたいな場所に出品しましたね。それが徐々に拡大していったのと、あとInstagram(3rd_ceramics新しいウィンドウが開きます)が大きかったです。 Instagramに自分たちの商品の写真をアップしたところ、フォロワーの皆さんが「#3RD CERAMICS」のタグを付けながら拡散してくれ、次第に商店からのまとまった注文やネットからの個人注文が増えていきました。おかげさまで最近は自分たちからの営業をほとんどしていません。

鈴木

最初はどんな商品を製作されたのですか。

長屋

最初に3RD CERAMICSの名義で商品開発したのは、僕の知り合いのお店の方の勧めもあって作った「FURIN(風鈴)新しいウィンドウが開きます」でした。工房でご紹介したように陶磁器の成形の仕方にはいくつか種類があるのですが、FURINの場合は石膏型を使って成形しています。

鈴木

陶芸というと「ろくろを回す」イメージが強いですが、型でも作るんですね。

土井

そうですね。僕らもろくろで成形することはありますが、FURINのように石膏型を使う場合は、まず粘土を「泥漿(でいしょう)」と言われる泥状にしてそれを石膏型に流し込み、型に吸着した薄い膜のような部分を風鈴として仕上げていきます。

鈴木

ろくろでは作れない?

土井

ろくろ成形でも同じものを作れないことはないのですが、型を使ったほうがより効率的です。かといって大型の量産機を使った大量生産でもないので、作家として自分たちが持っているイメージに近いものを丁寧に作っていけます。大量生産でも少量生産でもない“中量生産”をこのとき体験できたことが、その後の活動にもつながっていきました。

長屋

当初はろくろ成形や型成形にこだわらず、それぞれが思い思いに作りたいものを作っていたのですが、あるとき「これじゃ1+1が2になっただけだよね」って話になり「たしかにそうだよな」と思った(笑)。それで生産工程自体を真剣に考えるようになりました。

2人の発想の掛け合わせから生まれた「ごはん茶碗」

今ではFURINの他にもいくつかの定番商品が生み出されています。新たな商品開発はどのように行われているのでしょうか。

長屋

日頃から自分たちの頭のなかにある発想を互いで出し、それが出発点になることが多いですかね。

土井

例えばこれはうちの定番商品の1つである「ごはん茶碗」です。3RD CERAMICSの商品群ではテイスト的にもちょっと珍しい商品ですが、鈴木さん、これを見てどのように感じますか。

鈴木

(手に取り)いつも家で使っているお茶碗のように片手にすっぽりと収まる感じがなく、お茶碗自体がずっしりしている。それにいわゆるお椀型ではなく平たいカタチをしているのが印象的です。

土井

実はこれ、もともとはごはん茶碗ではなかったんです。僕は試行錯誤しながら釉薬で陶磁器の質感を出すのが好きで、このごはん茶碗のもとになっているお皿も「パスタ皿」を作るときに釉薬のテストをした試作品の1つでした。しばらくその試作品は工房のどこかに放置されていたのですが、あるとき長屋がそれを引っ張り出してきて「これ、ごはん茶碗によくない?」と言い出した。

作家として自分たちが持っている
イメージに近いものを
丁寧に作る

鈴木

パスタ皿がごはん茶碗になるとはまさかの発想ですよね。

長屋

おっしゃる通り、お茶碗にしては凹凸感があるし平たいカタチをしています。でも皆さんがよくお使いの“つるっとしたお茶碗”より、こうして“ゴツゴツと無骨なお茶碗”にごはんをどかっと盛ったほうが美味しそうに見えると思いませんか。

鈴木

わかる気がします。

長屋

かねてよりごはん茶碗を作りたいという構想自体は持っていたのですが、そのとき土井さんの試作品を見て「これ使えるかも」と思いました。そんなふうに「自分でも使ってみたいな」と思える商品の発想があるなら2人で相談しながら決めていくそれも3RD CERAMICSのポリシーだと思います。

作者として・開発者として。生活者に「押しつけはしたくない」

陶芸作家としてそうした商品開発・ものづくりをしていくうえで、ご購入なさった方に「こう使ってほしい」という思いはあったりするものなのでしょうか。

長屋

基本的には「作ること」と「使われること」は少し切り離して考えています。このごはん茶碗のように「こういうのがあっても面白いよね」と作家として提案したい気持ちや欲はありますが、そこに「お茶碗はこうあるべき!」と押しつけるような思いはなく、あくまでも選択肢の一つになれたらいいな、という程度です。どうすれば生活シーンに馴染むかを提案するのは僕らなんかより卸売・小売店さんの方がずっと長けていると思っているので、僕たちは作ることに集中させてもらっています。

鈴木

今おっしゃったこと、すごくよくわかります。私たちももちろんメーカーとして「こういうふうに使ってほしい」「こう使ってくれたらいいな」という思いはありますが、実際のご家庭の冷蔵庫に何をどう入れるかはお客様次第。だからこそ私たちも「こう使わなければダメ」「こう使わなきゃ機能を発揮できない」と押しつけることがないよう、少しの“余白”を入れておきたいと思っています。だけどその分、余白を作るまではきちんと作り込まなければいけない。そのあたりは自分の仕事とも共通しているのかな、なんて勝手ながらに思いましたし、2人のお話を次の開発に活かしていけると感じました。

長屋

僕らはごはん茶碗のように食器を作ることがありますが、食器も冷蔵庫も同じ“料理に必須の道具”じゃないですか。そういう意味でも共通点がありますよね。その意味だと例えば飲食店のお客様などから「こういう食器があるといいな」なんてアイデアを聞けばすごく示唆に富んだ気づきをもらえます。お客様の声が研究開発にも活かせるのではないでしょうか。

鈴木

その通りですね。ただ一方で自分たちは、冷蔵庫の使われ方がきちんと認知されていないという切実な思いもあったりします。余白を残したいし押しつけはしたくありませんが、とはいえ説明書を読んで冷蔵庫のすべての機能を理解してくれる人は少ない(笑)。

長屋

たしかに読んでいないかもしれないです(笑)。

鈴木

今日はInstagramの話もありましたが、そうした媒体を通じて冷蔵庫の正しい使い方を伝えつつも「未来の冷蔵庫」に望まれるお客様ニーズをリサーチするのも楽しいかもしれません。今日お話を伺えたことで、改めて三菱冷蔵庫 先行開発グループは単に新しい冷蔵庫を作っているのではなく、生活の困りごとを解決する道具を作っているのだと感じることができました。

本日はありがとうございました。

ステイホーム期間中も、
3RD CERAMICSの売上は堅調だったそうです。
長屋さん・土井さんは「もしかしたらコロナ禍を経て、
家族でとる食の価値が見直されたのかも」
とも述べました。
家族で囲む食卓には欠かせない道具としての、
食器と冷蔵庫。
わたしたちが愉しむ食の体験に
どのように貢献してくれるのか、
これからも期待しています。