●コスミレ
5枚の細長い花びらと深い緑色の葉が美しいコスミレ。その名とは裏腹に、スミレの中では大きいのが特徴です。コスミレの種の成分に誘われてアリが種を運び、住宅地などのいたるところで花を咲かせます。花の色は紫ですが、地域によってさまざまなバリエーションがあります。
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本取材の際には、入念な感染対策を行いました。
外出の際は、くれぐれも感染予防を心がけましょう。
冬の寒さがやわらぎ、街のいたるところでつぼみがほころび始める3月。
草花のみずみずしさと生命力をすぐそばで感じられる、散歩にぴったりの季節です。
今回はネイチャーガイドの佐々木知幸さんから、足元の草花の楽しみ方を教えていただきました。
春の陽気に誘われて散歩に出かけてみませんか?
ご自宅から一歩外に出るだけで始められる。手ぶらでもひとりでも楽しめる。この手軽さにおいて、散歩の右に出るアクティビティはありません。日頃は通勤や買い物で目的地に向かってすたすた歩くだけの方も、時には少し歩を緩めて道ばたに目を向けたり、顔を上げて景色を見渡してみませんか。きっとさまざまな発見があるはずです。身の回りの自然から季節を感じたり、珍しい看板や落とし物が目に留まることも。誰かが手入れをしているわけでもないのに、アスファルトの隙間から可憐な花が顔を出していることもあります。そんな不作為の美しさに出会えることこそが、散歩の大きな魅力です。
散歩する場所によって、目にすることのできる草花の種類は異なります。この違いを知ると、楽しみはいっそう深まるはずです。公園や遊歩道で楽しめるのは、パンジーやマリーゴールドをはじめとする華やかな花々。一方で、古くからある社寺などの林にはカシやコナラといったもともとの自然が感じられる樹木が立ち並んでいます。普段の生活では見落としがちですが、住宅地も面白い発見の宝庫です。民家の石塀の隙間から芽が出ていたり、庭の園芸植物の種が風で運ばれ、道ばたで花開いていることも。「この植物はどこからやってきたのだろう」と想像するのも楽しいものです。交通量が比較的多い市街地は、植物にとってタフな環境。排気ガスや乾燥に強い草花が多く見られます。オーストラリア原産のリューカデンドロンやウエストリンギアといった植物はその代表例です。日当たりのいい場所は強い植物が大きく育つ一方で、苔やどくだみといった多様な植物が共生しているのは路地裏や北向きの斜面。このように、草花は自己に適した環境で根付いています。
5枚の細長い花びらと深い緑色の葉が美しいコスミレ。その名とは裏腹に、スミレの中では大きいのが特徴です。コスミレの種の成分に誘われてアリが種を運び、住宅地などのいたるところで花を咲かせます。花の色は紫ですが、地域によってさまざまなバリエーションがあります。
糸のように細い花びら(舌状花)を無数にまとったハルジオン。やわらかく繊細な姿をしていますが、都市部の道端でもたくましく育ちます。形が似ていて見間違いやすいのがヒメジョオン。茎が硬く、つぼみが天に向かって伸びているヒメジョオンに対して、ハルジオンの茎は柔らかく、つぼみの状態だとうつむいているのが特徴です。
市街地の敷石の間などでよく見かけるのがカタバミ。環境によって葉の色が変化するのが大きな特徴です。土から生える場合は緑色に、都市部の道路の隙間などでは赤みがかった色になることが多いようです。コンクリートの隙間や植木鉢の中、庭などあらゆる場所に生えている植物です。
星のようなかわいらしい形と、透き通るような淡紫色が特徴のハナニラ。アルゼンチンが原産で、日本に定着しました。道ばたや民家の庭、土手などさまざまな場所に咲いています。ニラのような香りがすることがこの名の由来ですが、葉には毒があるので注意が必要です。
春の花の代表格であるタンポポ。街中で咲いているのは、ヨーロッパ原産のセイヨウタンポポやその雑種がほとんどです。葉が地面を這うように出ているため、背の高い植物に日光を遮られると負けてしまいます。競争相手の少ない田畑や路地裏などに多く生えています。
草花をもっとじっくりと観察したい。名前や特徴、生息地などをよく知りたい。そんな好奇心を満たすアイテムをご紹介します。
拡大して草花をつぶさに観察するのに適したルーペ。ポイントは、スマートフォンのカメラレンズに取り付けられるクリップがついていることです。植物を手のひらに乗せ、ルーペをかぶせてスマートフォンのディスプレイ上で観察しましょう。そのまま撮影すれば出会いを記録できる優れものです。
散歩で持ち歩く図鑑は、できるだけコンパクトなものがおすすめ。ビギナーにとっては解説が専門的過ぎないこともポイントです。代わりに名前の由来や草花にまつわるエピソードなどが載っていると読み物としても楽しめます。植物のリアルな姿を知りたいなら写真の図鑑を選びましょう。一方で、イラストの図鑑は植物の特徴が強調されていることから、似た植物と見分けたいときに適しています。
もっと手軽に調べたいときはGoogleのアプリ「Googleレンズ」がおすすめ。スマートフォンで撮影してすぐに検索できます。AIによる自動判定なので厳密に調べることはできませんが、検索結果をもとに「この花の仲間かもしれない」と推測するのに便利です。
散歩の中級~上級者におすすめしたいアイテムです。植物の分布には、古来の地形や地質が大きく影響しています。かつて川が流れていた地域では、現在も湿気を好む植物が生えていることが少なくありません。急な階段や曲がりくねった坂道を古地図で見ると川によって削られた崖だったり、遊歩道が昔の谷に沿って整備されていることも。古地図を片手に当時の地域の様子を想像しながら歩くと、散歩の楽しみがより深まります。古地図をスマートフォンの画面上で見られるアプリもおすすめです。
住み慣れた街でも、偶然の出会いや新たな発見があるのが散歩の面白さ。ぽかぽかとした陽気が戻り始める早春に、身の回りの草花を楽しんでみてはいかがでしょうか。
2023.03.01
佐々木知幸(ささき・ともゆき)さん
ネイチャーガイド
北鎌倉のシェアアトリエ「たからの庭」で、足元の草花を愛でる活動「みちくさ部」を主宰。身近な植物について、鎌倉の歴史や地形にも触れながら分かりやすく解説しています。「草花の知識はあると面白いけれどあくまで二の次。いちばん大事なのは心から楽しむこと」と語る佐々木さん。「散歩を通じて日常生活が豊かになった」といった参加者の声が活動の原動力です。