近年、日記の心理的効果に注目が集まっていることをご存じですか?
日記は自分自身を理解するアイテムでもあるのです。
ここでは心が整うオススメの日記の書き方を、臨床心理士の南舞さんに伺います。
「どうも続けられなくて」という方も、この機会にぜひ挑戦してみませんか。
日記を書くと心が整うとはどういうことでしょう。はじめに「日記の効用」から南さんにお話いただきました。
■カタルシス効果が得られる
カタルシスとは、心理学においては浄化という意味合いで使われる言葉ですが、より分かりやすく言えば「発散」です。飲み会や親しい友人とのおしゃべり、スポーツなどによって得られる感覚にも近いのですが、日記を書くことも発散方法のひとつ。内に留めていた言葉を外に出すことで心が開放されていきます。
■心の安定につながります
私たちの脳には、ワーキングメモリと呼ばれる作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力があり、これによって局面ごとに適切な判断を行えます。でも、容量の限界があるのがワーキングメモリです。ネガティブな情報や気持ちでいっぱいになってしまうと、集中力の持続や感情の切り替えに支障をきたします。自分の考えを定期的に言葉にする日記には、ワーキングメモリを整理し、感情をコントロールできるようになる効果があります。

■思考のクセがわかります
日記を見返すことによって、ストレスが溜まるとお酒に走るとか、苦手な人に自分から会いに行っているなど、自分の感情や行動についての「気づき」が得られます。それを掘り下げれば、自分の思考を知り、変えていくヒントに。ほかにも「できない」と思い込んでいたことが「意外とできている!」とわかると、幸せを感じることにつながります。

日記で心を整えるためには、自分の感情をキャッチする必要があります。でも、いきなり「感情を言葉に」と言われても難しい……。ここでは、書きながら自分の感情を探る方法を、順を追ってご説明します。
■書くことに慣れよう
日記は、自分のために書くもの。人に見せるものではありませんので、文章の優劣は気にする必要はありません。単語でも箇条書きでもOK。始めやすい書き方で気軽に書きましょう。手書きにこだわる必要もありません。アナログかデジタルか、ではなく「自分にとって使いやすいかどうか」が大切です。
■その時の気持ちを書き留めよう
具体的には、事実から書いていくのがおすすめです。前日や今日を振り返って、自分は何をしたのか。特別な出来事ではなく、「会社へ行った」「誰かに会った」といったレベルでまずは十分です。事実のままに書いていると、やがて「誰々さんと会ったときにこんな気持ちになった」などとその時の感情が紐づいてくることに気づくはず。それを意識的に書き留めていきましょう。

■月に一度は見返そう
最低でも月に1回は、日記を見返しましょう。その際「この時の自分はどういう気持ちだったのか」という視点を持つことも大切です。行動と感情のつながりを紐解くことで、自分自身を理解したという実感が得られて心が整います。感情とは、時として「嬉しい/悲しい」など相反する要素が同時に現れる複雑なもの。「感情用語」と呼ばれる感情に関する語彙を多く持つと、感情を正確に記述でき、より深く自分自身を理解できるようになります。
■自分のペースで続けよう
自分自身を振り返るツールとして日記を使うには、継続することが重要です。とはいえ、毎日書く必要はありません。書きたい日にだけ書いてもいいし、週に3日などと決めてもOK。書きたくない日は思い切ってお休みしましょう。大事なのは「自分らしく続けられるペース」を見つけることです。それができれば楽に続けられるようになります。
日記の書き方については、ある出来事があり、それにについて何を考えたか、どう行動したかなどを記す「3行日記」や、一定の時間内に頭に浮かんだことをありのままに書き出す「ジャーナリング」などのメソッドもあります。参考にしてみてもいいでしょう。
「継続が大事」と言いましたが、書くのが億劫になることがあるのは当然のこと。そこで、日記を続けやすくするヒントを3つご紹介します。
■ちょっとした「儀式感」を出す
コーヒーやアロマキャンドルなど、好きなアイテムを使って日記を始める前に「今から書くぞ」とスイッチを入れる方法です。いつも自室で書くという方は、たまには外出先など環境を変えて書くのも手。文房具が好きな方なら、日記用の万年筆やノートを用意するなどして気持ちを盛り上げてもいいでしょう。
■「ゲーム感覚」を取り入れる
「今から1分間だけ集中して、思いつくままに書く」などと、ゲーム性を持たせて日記へのモチベーションを高める方法もおすすめです。「1週間書き続けられたら自分にご褒美をあげる」なんていう手もありです。
■過去ではなく未来に目を向ける
日記には「起きたこと」を書く傾向がありますが、「こうしたい」未来を書くのも気持ちを前向きにする意味で効果的です。遠い将来のことというよりは、短期的な未来を書くようにすれば目標管理ツールとしても使いやすいはずです。

「日記をつけるようになって心が安定した」という私のクライアントは、その理由を「自分のことが分かるようになったから」と話してくれます。自分自身への理解が、周囲との人間関係を改善し、日々の安心へとつながったようです。日記に蓄積された行動と感情の情報を見返すことは、さながら「自分へのカウンセリング」。日記は誰もが手軽に始められるセルフケアです。家庭や職場での役割を離れ、素の自分と向き合える時間にもなりますので、ぜひご自身の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
2025.01.08

南 舞さん
公認心理師/臨床心理士/ヨガ講師
Sati. ~counseling×Yoga~ 主宰/株式会社WWLの代表取締役
企業や自治体、学校などで心理カウンセリングや研修講師を行うかたわら、ヨガ講師としても活動中。心理学とヨガ、ウェルネスを軸として、女性のメンタルヘルスやウェルビーイングのサポートに取り組んでいます。