2023年06月号

特集 「カーボンニュートラル実現に貢献するEnergy & Facilityソリューション」

三菱電機技報 2023年06月号

巻頭言
カーボンニュートラル実現に向けた社会の動向と技術開発
巻頭論文
世界のカーボンニュートラルに向けたエネルギーマネジメントの役割
特集論文
全4編

特集概要

三菱電機は、エネルギーの効率的運用や設備管理・保守からコンサルティングに至る一連のサービスをEnergy & Facility(E&F)ソリューションとして提供することで、お客様の新たな価値を創造し、カーボンニュートラルを目指す社会に貢献していきたいと考えています。本号では、このE&Fソリューションとして期待される最新技術について紹介します。
①送電線・鉄塔の保全高度化:ヘリコプターで撮影した画像から送電線・鉄塔の保守対象設備を抽出、異常箇所や劣化部位をAIや画像解析技術を用いて、自動的に判定するシステムを開発しました。
②統合エンジニアリングツール“MELGEAR”:電力・産業・ビル・食品・医薬関連等、様々な分野に適用可能なオペレーターステーション・制御装置(MELSEC iQ-Rシリーズ)のための統合エンジニアリングツールを開発しました。
③系統安定化システム:カーボンニュートラル実現に向けて必要な再生可能エネルギーの主力電源化によって生じる系統事故時の周波数低下及び系統混雑発生というそれぞれの課題への対策を具備した2つの系統安定化システムについて、実例を挙げて紹介します。
④直流配電システム:低損失/小型化を目指した次世代直流配電システム(DCマルチ電圧システム)、及び当社のZEB関連技術実証棟SUSTIEの実証結果を報告します。

巻頭言
巻頭論文
2.

世界のカーボンニュートラルに向けたエネルギーマネジメントの役割(PDF:2589KB)

塚本幸辰

国連は,SDGs(Sustainable Development Goals)の実現のために全ての企業にサステナビリティ経営を求めている。それに呼応して世界のESG(Environment,Social,Governance)投資は急速に増えている。企業がESG投資を呼び込むためには,SDGsに向け企業の行動変容を促進することが不可欠である。中でも,各企業のサステナビリティ経営での地球環境対策の一つとして,エネルギーマネジメントは極めて重要な役割を担う。エネルギーマネジメントは,各事業者内のエネルギー管理にとどまらず,再生可能エネルギー(以下“再エネ”という。)を送配電ネットワークに接続するための環境整備や再エネの電力や環境価値を売買する電力市場の整備のほか,業種や需要種間のセクターカップリングを念頭に地域レベルでのマネジメントが重要になってくる。また,地域的に広がる再エネを最大限活用するためには,最新のIoT(Internet of Things)やデジタル技術を活用したデジタルプラットフォームの整備が不可欠である。

特集論文
(全4編)
3.

画像解析・AI技術を活用した送電線・鉄塔の保全高度化(PDF:1078KB)

上條朋彦/久保田雅彦/古元宏樹/中川愛梨/岩本瑞樹

国内電力会社の送配電部門が担う設備点検は,ヘリコプターで撮影した送電線や鉄塔画像を人間が目視で劣化度合いを判定しており,大きな業務量になっている。
この課題解決のため,AIや画像解析技術を活用して設備の劣化状況を自動で判定する手法を九州電力送配電㈱と共同で検証した。送電線の例では,見落とし防止のため過検出する課題に対して,AIを組み合わせることで異常箇所を100%検出(正常を異常と判定した過検出が1.1%あり)できている状況である。この手法を用いることでヘリコプター撮影結果の確認や報告書作成が人手と比較して91.0%削減できる見込みで,点検業務効率化や安全性向上に大きく寄与する。

4.

“MELSEC iQ-Rシリーズ”のDCS適用を目指したエンジニアリングツール“MELGEAR”(PDF:771KB)

芹澤佑樹/藤井敦啓/谷澤正幸/深水大樹

従来,システムインテグレーターがDCS(Distributed Control System)を適用する場合は,専業メーカーの専用機を使用するケースがほとんどであった。
“MELSEC iQ-Rシリーズ”は,“MELSEC-Qシリーズ”の後継機種であり,DCS専用機に匹敵する性能を具備している。そのMELSEC iQ-RシリーズをDCSに適用するため開発したエンジニアリングツール“MELGEAR(メルギア)”は,従来の市販ソフトウエアでは実現困難であった機能を容易に実現できる。また,MELGEARはシステムインテグレーター向けとしてオールインワン・オープンシステムをコンセプトに開発されており,電力・産業・ビル・食品・医薬関連等,様々な分野に適用可能なオペレーターステーション・制御装置(MELSEC iQ-Rシリーズ)をエンジニアリングするための統合エンジニアリングツールである。

5.

カーボンニュートラル実現に貢献する系統安定化システム(PDF:562KB)

安達友洋/草場健一郎

カーボンニュートラル実現に向けて必要になる再生可能エネルギー(以下“再エネ”という。)の主力電源化には様々な課題が想定されている。課題の一つに系統安定性の維持があり,その有力な解決手段として,高速な制御によって系統の不安定現象を未然防止する系統安定化システムがある。三菱電機は1970年頃から,その時代のニーズに合った系統安定化システムを多数開発してきた(1)(2)(3)。最近では,2020年以降に運用を開始し,再エネの主力電源化によって生じる課題への対策機能を具備する2件の系統安定化システムを開発している。

6.

カーボンニュートラル実現に貢献する直流配電システム(PDF:505KB)

竹内勇人/加藤優典

三菱電機は,2016年に中低圧直流配電システム実証棟を当社の受配電システム製作所内(香川県丸亀市)に建設し,直流配電システムの安全性・信頼性の実証に取り組んできた。2020年には直流系統内の太陽光発電電力などの再生可能エネルギーやエレベーターなどの回生電力の余剰電力を逆変換して交流系統への融通を可能にする双方向型中低圧直流配電ネットワークシステム“D-SMiree Standard(単機100kW)”を開発した。2022年には当社の先端技術総合研究所で更なる高電圧化・高効率・小型化を目指した次世代機の実証機を開発し,ZEB(net Zero Energy Building)関連技術実証棟“SUSTIE”(サスティエ:神奈川県鎌倉市)で社内実証実験を実施している。今後,受配電システム製作所で次世代機の製品化・事業化を目指す。

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