2023年08月号

特集 「持続可能な社会を実現する環境・デバイス・材料技術」

三菱電機技報 2023年08月号

巻頭言
サーキュラーエコノミー実現のための技術開発についての期待
巻頭論文
持続可能な社会を実現する環境・デバイス・材料技術
特集論文
全5編

特集概要

三菱電機は、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど注力する5つの課題領域を明確化し、事業を通じた社会課題解決による持続可能(サステナブル)な社会への貢献を目指しています。本号では、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを実現するために開発した、環境システム、デバイス、材料に関する要素技術について紹介します。

巻頭言
巻頭論文
2.

持続可能な社会を実現する環境・デバイス・材料技術(PDF:608KB)

佐竹徹也

サステナビリティ,特に環境に関わるサーキュラーエコノミー(CE),カーボンニュートラル(CN)を実現するための取組みが世界的に加速している。
三菱電機でもこれらの社会課題の解決に貢献するため,近年,CE/CNに関わる研究開発に注力している。CE/CNの実現にはそれらマネジメントのためのデータ基盤構築が重要である一方,資源循環・炭素循環を実現するための革新的な要素技術も重要である。

特集論文
(全5編)
3.

サーキュラーエコノミーに資するプラスチック高度選別技術のDX化(PDF:785KB)

中村保博/黒田真司/井関康人/藤本夏郎/筒井一就

世界中でプラスチックリサイクルに係る政策や法整備が活発化する中,長年家電リサイクル事業で培ってきた三菱電機のプラスチック高度選別技術へのニーズが高まっている。これを受けて当社は,高度選別技術を活用した新規事業開発を開始し,ブランドオーナーやリサイクラーを始めとする74社(2023年6月27日時点)に及ぶ企業との議論やサンプル試験を重ねてきた。2022年には花王㈱との業務委託契約に基づく広報発表を行い,当社が高度選別技術の社外展開に向けて始動したことを宣言した。また並行して高度選別のDX(Digital Transformation)化技術開発を開始した。今後,誰もが容易に扱えるようにDX化を施した高度選別装置(スマート静電選別)を世の中に普及させると同時に,この装置をベースにした事業を新たに創出し,サーキュラーエコノミー社会の実現に貢献する。

4.

プラスチックリサイクル促進に向けたマイクロ波加熱技術(PDF:829KB)

廣田明道/神岡 純/榊 裕翔/北畑 繁/西嶋 潤

気候変動問題,天然資源の枯渇等の環境問題解決に向けて,二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガス排出ゼロ(カーボンニュートラル:CN)や,循環経済(サーキュラーエコノミー:CE)の実現が望まれている。
三菱電機ではCN/CE実現へ向けた取組みの一つとして,プラスチックのケミカルリサイクルに着目している。高速・高効率な加熱方法として,当社で開発してきた複数箇所から照射されるマイクロ波の位相を制御することで加熱箇所を均一化/局在化する,マイクロ波加熱技術を応用して,高効率で低コストなプラスチックのケミカルリサイクル技術を確立し,CN/CE実現に貢献していく。

5.

持続可能な社会実現に向けた下水処理場でのバイオガス増産技術(PDF:610KB)

黒木洋志/勝又典亮/小川和彦/有馬芳明/和田 昇/大泉雅伸

下水道分野のカーボンニュートラル実現に向けて省エネルギー・創エネルギー技術が検討される中,下水処理場で発生する下水汚泥を活用した創エネルギー技術としてバイオガスの増産技術が期待されている。バイオガス増産にはオゾンを利用した汚泥可溶化が効果的であるが,これまでのオゾン処理法では反応効率が低いことが課題であった。そこで,特殊攪拌(かくはん)翼によって高濃度オゾンガス気泡を微細化することで効率良く汚泥を可溶化するオゾン可溶化反応装置を開発した。国内の下水処理場で一年間を通じた実証試験の結果,バイオガスが約22%増産することを確認した。

6.

受配電機器劣化診断システム(PDF:749KB)

藤原宗一郎/三木伸介/西川哲司

サーキュラーエコノミー実現のためには,機器の状態を把握し適切なメンテナンスによる製品寿命の長期化が重要である。三菱電機では,これまで受配電機器の劣化診断を数多く実施してきたが,機器の停電や現地への作業者派遣が必要であった。そのため,稼働を止めることができない重要な設備での劣化診断は困難であり,また専門技術者を派遣する費用も見過ごすことのできない課題になっていた。
今回,従来の診断実績で顧客から得られたデータを活用し,受配電機器を低コスト(機器停電及び現地作業が不要)で劣化診断可能なシステムを開発した。このシステムは機器内に劣化判定センサを設置し,取得した環境データ(温湿度等)及びこれまで蓄積してきた診断データをベースに,当社独自に開発した診断モデルによって受配電機器内の絶縁物の余寿命を予測するシステムである。

7.

電力用大型発電機の高効率化を実現するナノコンポジット絶縁材料技術(PDF:704KB)

馬渕貴裕/梅本貴弘/武藤浩隆/森  翼

脱炭素社会の実現に向けて,電力の安定供給とCO2排出量削減の両立が求められている。この実現には,電力用大型発電機の高効率化が有効である。その達成手段の一つに,コイル絶縁材を高性能化することで薄肉化し,導体比率を高めて損失を低減する方法が挙げられる。
今回,NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロ“電力機器用革新的機能性絶縁材料の技術開発”を活用し,耐電圧,絶縁寿命に優れるナノコンポジット絶縁材料を開発した。この開発で,耐電圧1.4倍,絶縁寿命30倍以上(従来比)の絶縁性能を達成した。

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