2024年07月号

特集 「安心・安全な社会の実現に向けて ~我が国の安全保障への貢献~」

三菱電機技報 2024年07月号

巻頭言
安心・安全な社会の実現に向けて
~我が国の安全保障への貢献~
特集論文
全5編
一般論文
全1編

特集概要

三菱電機は、これまでにレーダー・電子戦など数多くの装備品を開発・納入するなど、防衛エレクトロニクス分野のトップメーカーとして、安心・安全を支えるインフラ分野で社会に貢献しています。
本号では、レーダーにおける追尾技術、サイバーセキュリティー技術に関するペネトレーションテストについてご紹介します。そのほかにも、防衛装備品開発に向けた、コヒーレントビーム結合技術や、高周波モジュールの要素技術についてご紹介します。

巻頭言
特集論文
(全5編)
2.

高速高機動目標の追尾技術(PDF:1281KB)

亀田洋志/舟木信貴/増田和也/前田咲穂/伊藤聡宏

近年,極超音速滑空弾(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)が脅威になっている。極超音速滑空弾の複雑な軌道は,入力変数である迎角とバンク角によって生成されるものであるが,レーダー装置ではこれらの変数は観測できない。その結果,目標に対する機動予測値が外れて追尾を著しく困難にする。これに対して,目標の機動変化に対応する加速度仮説型多重運動モデルを適用したレーダー追尾技術によって,その課題を軽減することが可能である。この技術によって従来手法に比べて追尾性能が向上することが計算機シミュレーションで確認できる。

3.

ペネトレーションテスト自動化に向けたサイバー攻撃手段の定量的評価法(PDF:504KB)

酒井康行/木下洋輔/木藤圭亮/河内清人/加藤 駿

ペネトレーションテスト(以下“ペンテスト”という。)は,実際にサイバー攻撃を行うことでシステムの脆弱(ぜいじゃく)性を発見する,サイバー攻撃対策に有効な手法である。ペネトレーションテスター(以下“ペンテスター”という。)が適切な攻撃手段を選択するとき,攻撃手段が成立するか,発覚するか,攻撃で得られる効果の大きさ,の三点を基に判断していると仮定し,攻撃手段をスコア化するCATS(Cyber Attack Techniques Scoring)法を開発した。CATS法によって適切な攻撃手段の選択を自動化でき,ペンテストが自動実行可能となる。ペンテスト自動実行によって,システムの脆弱性発見とサイバー攻撃対策を迅速に行えるようになる。

4.

高出力レーザーシステムの実現に向けて(PDF:1042KB)

鈴木れん/落水秀晃/秋山智浩/原口英介

防衛装備品での高出力レーザー(HEL:High Energy Laser)システムは,近年,急速な技術発展によって脅威を増している小型~中型サイズの無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)に対して,費用対効果に優れた対処手段として早期装備化の実現が期待されているシステム(1)である。日本を含む世界各国で,高出力・高い集光性能を持つHELシステムの開発が進められており,その中でも,特にビーム結合技術が重要になっている。三菱電機では,高出力化かつ高い集光性能のビーム出力が可能なコヒーレントビーム結合(CBC:Coherent Beam Combining)の開発に取り組んでおり,その基盤技術の確立を進めている。早期装備化の実現に向けた開発を継続し,日本の安全保障を担う企業として社会に貢献していく。

5.

表面実装型サーキュレーター(PDF:966KB)

柴田博信/杉山勇太/垂井幸宣

AESA(Active Electrically Scanned Array)は,気象用レーダーなどに適用されている。近年,様々なレーダーシステムへのAESAの適用が増加している(1)。また,防衛レーダーシステムへも適用されている。AESAは,多数の高周波送受信モジュールで構成されている。従来型高周波送受信モジュールは,アルミニウム筐体(きょうたい)に構成部品をねじで固定し,部品間を金リボンなどで接続する構成のため,小型化,低コスト化が課題であった。そこで,高周波送受信モジュールの全構成部品をリフロー実装で高周波回路基板に一括はんだ付けする構成に変更した。高周波送受信モジュールの構成部品の一つであるサーキュレーターをリフロー実装可能な表面実装型にすることで,高周波送受信モジュールの小型化,低コスト化に貢献した。

6.

高周波送受信モジュール向け小型・高放熱デバイス技術(PDF:929KB)

稲垣隆二/垂井幸宣/木村実人

防衛・宇宙用途の合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)等では,複数の高周波送受信モジュールの位相を制御することで電子走査を行うAESA(Active Electrically Scanned Array)の適用が主流になっている。AESAの性能向上のために,高周波送受信モジュールには高出力化の要求があり,GaAs(ガリウムヒ素)からGaN(窒化ガリウム)デバイスへの移行が進んでいる。三菱電機では長年,GaNデバイスを継続開発しており,その技術を適用した小型・高放熱デバイス技術を開発し,高周波送受信モジュールに適用している。今後,更なる高出力化を図って,防衛,宇宙機器に用いられるAESAレーダーの高性能化に貢献していく。

一般論文
(全1編)
7.

美笹深宇宙探査用地上局アンテナサブシステム(PDF:828KB)

吉田武司

美笹(みささ)深宇宙探査用地上局アンテナサブシステムは,臼田宇宙空間観測所64mアンテナ設備の後継として,長野県佐久市の臼田宇宙空間観測所美笹局に建設した大型アンテナ設備である。
X帯送受信及びKa帯受信の探査機運用に対応しており,将来の機能拡張に向けて段階的に装置を追加できる拡張性も持っている。三菱電機の大型アンテナや望遠鏡設計のノウハウを集約し,高効率な鏡面修整リングフォーカスカセグレン方式,周波数選択反射鏡を含む集束ビーム給電方式,実績のあるマスターコリメーター方式及び55kW ACサーボモーターを用いたアンチバックラッシュ駆動方式を採用している。高い鏡面精度と指向精度を実現するため,熱・構造設計に空冷ファンによる日射への熱対策を積極的に取り入れており,従来設備の臼田宇宙空間観測所64mアンテナ設備と同等以上の受信性能を実現している。
このアンテナは,2016年1月に設計着手し,2020年9月に納入した。2023年5月には機能付加工事も完了し,現在は主に小惑星探査機“はやぶさ2”の運用に利用されている。

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