2024年09月号

特集 「先進デジタル技術(後編)」

三菱電機技報 2024年09月号

特集論文
全7編

特集概要

三菱電機グループは事業を通じて社会課題を解決して持続的な社会に貢献するために、“循環型 デジタル・エンジニアリング企業”として先進デジタル技術の活用による価値の高度化を推進しています。循環型 デジタル・エンジニアリングは、顧客から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともにグループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献するものです。新たな価値の実現にはサービスや製品を実現するための技術と安心して使えるための技術の両方が必要です。
本号では、先進デジタル技術の具体的な取組みとして主に当社のものづくりを支える生産技術・設計技術を紹介します。

特集論文
(全7編)
1.

基板チェックツールによるEMC・信号伝送設計の業務効率化と品質向上(PDF:621KB)

中村彰伸/青木俊彦/小林和博/直海佑司/櫻井浩希

製品の高性能化・高機能化に伴い,プリント基板設計に起因するEMC(ElectroMagnetic Compatibility:電磁両立性)・信号伝送の設計手戻りは,従来製品と比較して増大傾向にある。プリント基板設計に起因する設計手戻り抑制のため,従来は目視でプリント基板の部品実装,配線を検証していた。今後,更なる製品の高性能化・高機能化によって目視での検証には膨大な時間を要することが懸念されている。三菱電機ではこの問題を解決するため,基板設計上の設計制約を自動的に検証する基板チェックツールを導入している。
今回,このツールを効率的に運用する手法を開発し,基板検証時間短縮と設計品質向上の見込みを得た。今後は,開発した手法を充実化し,EMC・信号伝送設計業務の効率化,基板設計品質の向上を図る。

2.

モデルベース開発を活用した工作機械の機構-制御設計プロセス革新(PDF:784KB)

金谷茂之/外池恵大/藤田智哉/魚住誠二/國 拓也/磯田洋平

工作機械などのメカトロニクス製品開発で,加工品質及び生産性(以下“加工性能”という。)の向上が求められている。加工性能の向上には,高速動作と精密な位置決めの両立が必要になる。従来の開発プロセスでは,代表的な性能である加工精度に対して,機械の変形や振動,摩擦が与える影響を予測することは難しく,試作・改良の繰り返しで完成度を高める必要があり,開発が長期化していた。課題である開発期間を削減するため,弾性体機構と制御の連成解析モデルを構築した。工作機械を模擬した簡易検証装置の連成解析モデルを活用し,加工動作のシミュレーションと実験の結果を比較した。その結果,連成解析モデルが簡易検証装置の動作を再現可能なことを確認した。

3.

三菱電機グループの持続的なものづくりを支えるAIソリューション群(PDF:731KB)

玉谷基亮

三菱電機グループでは,急激に変化する事業環境の中で持続的成長を確保するために,実務で利用可能なAIソリューション群の構築と社内展開を進めている。また,効率的に活用を推進するための標準プラットフォームや,それらを使いこなすためのAIとドメインの両方の知識を兼ね備えた生産技術者の育成を進めている。これによって,製造現場とDCM(Demand Chain Management),ECM(Engineering Chain Management),SCM(Supply Chain Management)領域のミドルオフィス業務での,熟練作業の代替,業務PDCA(Plan Do Check Action)サイクルの高速化,新たな設計解やプロセス改善点の抽出などの付加価値創出を目指している。将来的には,デジタルツインと生成AIとの組合せによる高度な判断の自働化(Autonomation)も構想している。

4.

ものづくり現場でのデジタルツインの取組み(PDF:917KB)

落合英孝/松下涼太郎

多様化する社会ニーズやサプライチェーンの寸断など環境変化が激しさを増す中で,ものづくりの現場に対する要求の変化も激しく,その変化に追従できる生産ラインの構築が常に求められている。このような状況下で,世の中では現実空間で収集した様々なデータをまるで双子であるかのように仮想空間上で再現する技術,すなわちデジタルツインを活用し,環境変化に柔軟かつスピーディーに対応する設計アプローチが注目されている。
三菱電機では,ものづくり現場でのデジタルツインを活用した生産ライン設計プロセスの実現に向けて,現実空間である生産現場の実態をセンシング技術を活用してデジタルデータとして収集し,このデータを用いて3D仮想空間に現実を正確に再現する技術を開発した。この技術を生産現場で発生する問題要因の分析やラインシミュレーションによる改善の事前検証につなげていくことで,ものづくりの改善サイクルを高速で回し,生産ライン設計の最適化を実現した。

5.

パズルキューブ早解きと巻線機のコア技術(PDF:1457KB)

中上 匠

モーターは,三菱電機が製造供給するパワーエレクトロニクス製品のキーコンポーネントであり,その製造技術の要である巻線技術の進化に力を注いできた。今回,巻線機に必要な高速・高精度位置決め技術や当社独自の画像処理技術を取り入れて,パズルキューブを高速で解くロボットを開発した。開発に当たっては,当社製のFA機器を使って製作した。

6.

製造設備向けローコード開発技術(PDF:624KB)

阿部貴成/野口智史

製造設備の制御プログラムに対するローコード開発技術は,サイクル動作の設計手法として広く用いられているフローチャートから,サイクル動作を実現するための制御プログラムを生成する特徴を持つ。従来と設計手法を変えることなく生成を可能にすることで,設計工数を増やさずに制御プログラムの実装工数の削減が可能になる。また,設備開発を効率化するツールとして近年注目されている3Dシミュレーターとローコード開発技術を組み合わせることで,将来的に設備開発の更なる効率化の実現が期待できる。今後,このローコード開発技術のプロトタイプを社内の設備開発に適用して有効性を確認し,製品化に向けた開発を進めていく。

7.

熟練技能継承に向けた技能評価AI技術(PDF:925KB)

佐々木雄一/小池崇文/高橋佑典/森 健太郎/対馬尚之

熟練者の優れた技能を非熟練者へ継承するため,金型磨き作業(鏡面磨き)を対象に,技能を評価するAI技術を開発した。熟練者と非熟練者の研磨作業時のカメラ映像から抽出した両者の指先の動きを比較し,熟練者の動きが非熟練者よりも評価値が高くなるように学習を行うAIモデルを構築した結果,熟練者と非熟練者の動きを96.3%の精度で識別できた。さらに,AIモデルが求めた評価値は,面積を広く,偏らずに研磨した際に高くなる傾向を示した。この結果は,熟練者が歪(ひず)みを抑制するために実践している“ぼかす”という研磨の技に該当していることが分かった。今後,非熟練者が“ぼかす”研磨を行えているかどうかを評価することで,歪みを抑制する研磨方法を体得できないか検証する。

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