2024年10月号

特集 「持続可能性と快適性に貢献する空調冷熱システム」

三菱電機技報 2024年10月号

巻頭言
持続可能性と快適性に貢献する空調冷熱システム
巻頭論文
ライフソリューションを実現するIoT基盤の進化
特集論文
全5編

特集概要

三菱電機は、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置付けて、循環型 デジタル・エンジニアリングを実現することで、社会的価値と経済的価値を創出し、社会課題の解決と企業価値の持続的向上を目指しています。社会課題・市場環境が変容し、新たな価値観が生まれる中、リビング・デジタルメディア事業本部は顧客とつながり続ける循環型事業を提供し、あらゆる生活空間において快適で安全・安心な環境を創造するソリューションプロバイダとなることを掲げました。
本号では、空調冷熱システム事業の製品・サービスにおける脱炭素社会に貢献する省エネルギー技術、地球温暖化の影響を抑制する低GWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)冷媒を使いこなす技術について紹介します。

巻頭言
巻頭論文
2.

ライフソリューションを実現するIoT基盤の進化(PDF:912KB)

石原 鑑

三菱電機は,持続可能な社会への貢献を目指して,循環型 デジタル・エンジニアリング企業への変革を進めている。ライフビジネスエリアの事業を通して,あらゆる生活空間において,快適で安全・安心な環境を創造するソリューションプロバイダになることを目指す。社会課題・市場環境が変容し,新たな価値観が生まれる中,顧客価値を継続的に向上させる取組みを強化する。強いコンポーネントとそこから得られるデータを活用し,IoT(Internet of Things)基盤の進化を通じて顧客とつながり続ける循環型事業を実現する。データを活用して空調・家電・住設機器の運転を個別最適化するだけでなく,Web API(Application Programming Interface)を通じたサービス事業者との共創で複数の住宅やビルでの全体最適化を図るなど,広く社会課題の解決に貢献していく。

特集論文
(全5編)
3.

ルームエアコン“霧ヶ峰Zシリーズ”での消費電力の抑制技術(PDF:758KB)

川島 惇/佐藤雅一/立田康介

三菱電機は2023年10月に2024年度家庭用ルームエアコン“霧ヶ峰Zシリーズ”を発売した。これは機器自体の効率を向上させつつ,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)収束後の生活に対して,快適性を維持したまま,無駄な消費電力の発生を抑制する新機能を搭載したルームエアコンである。
この新機能は,起動時の消費電力を抑制する新しい制御アルゴリズムと,霜取り運転頻度を削減することで消費電力を抑制する新しい制御アルゴリズムを特徴としている。これによって,ルームエアコンのエネルギー効率向上に寄与し,環境負荷低減に貢献する。

4.

低GWP冷媒を使用したマルチ空調システム(PDF:726KB)

義澤 結

温室効果ガスによる地球温暖化への影響を抑制するため,各国排出量に対する規制を強化しており,欧州では地球温暖化係数(Global Warming Potential:GWP)の低い冷媒への転換が要求されている。そこで,三菱電機の従来機種で使用していたR410A冷媒に代わって,低GWPのR32冷媒を用いたマルチ空調システムを開発した。R410A冷媒のGWP値:2088(1)に対して,R32冷媒ではGWP値:675(1)であり大幅なGWP値削減になる。しかし,R32は微燃性冷媒であり,システム冷媒量が多くなる傾向のマルチ空調機に用いるに当たっては燃焼・爆発に備えた安全対策が必要になる。そのため,安全対策を考慮し,環境負荷を低減するR32冷媒を用いたマルチ空調システムを開発し,製品化した。

5.

室外機向けVFT熱交換器によるビル用マルチエアコンの省エネルギー性向上(PDF:1040KB)

八柳 暁/薮内宏典/尾中洋次/足立理人/岸田七海

業界最高クラスの伝熱性能を実現するVFT(Vertical Flat Tube)熱交換器を開発し,ビル用マルチエアコン室外機への実装を実現した。VFT熱交換器の室外機への実装時には,伝熱管である扁平(へんぺい)管内部の冷媒の流れ方向が従来の水平方向から垂直方向へ変更になったことによって,冷房運転で冷媒が扁平管の内部を上昇する際に,ガスから液へと相変化した冷媒が持ち上がらず熱交換器下部に滞留する点,暖房運転で熱交換器に流れる冷媒の分配を制御する分配器内での冷凍機油の滞留によって冷媒分配が悪化する点の2点が課題であった。
今回,冷房運転時の課題に対しては,冷媒の流速を高い状態に維持しながら,冷媒を均等に分配できる流路構造を採用することで解決した。暖房運転時の課題に対しては,分配器内に返油経路を設けることで解決し,良好な冷媒分配を実現した。これらの技術の適用によって,省エネルギー性の向上を実現した。

6.

全熱交換形換気機器“業務用ロスナイ 外気処理ユニット”(PDF:1490KB)

戸田悠太

2050年のカーボンニュートラル実現へ向けて,建物のエネルギー消費量削減を目的としたZEB(net Zero Energy Building)の普及が求められている。また,2024年4月から建設業界にも時間外労働の上限規制が適用され,現場作業者の労働時間削減に直結する製品の施工性改善は,機器メーカーとして解決すべき重要な課題になっている。開発した,DCモーターを搭載した外気処理ユニットは,500m3/hの従来機種と比較し,換気と空調エネルギーを合わせて約36%,CO2センサー装着時は更に約30%の消費エネルギー削減を見込む。また,現場での施工作業を容易にする風量制御の実装や,約14%の製品質量の削減を図るなど,省エネルギー性改善だけでなく,製品施工性改善と省資源化を達成した。

7.

低圧エネルギーリソースアグリゲーションシステム“Living・EARTH”(PDF:816KB)

森實優太/松岡哲平

2050年カーボンニュートラル(以下“CN”という。)社会の実現に向けて,既に運用中の高圧一括受電マンション向けエコキュート(注1)群制御システムと,一部実証試験中の電力会社及びアグリゲーター向けバーチャルパワープラント(以下“VPP”という。)/デマンドレスポンス(以下“DR”という。)制御システムを統合し,低圧エネルギーリソースアグリゲーションシステム“Living・EARTH”を開発した。
今後,接続対象を経済産業省が進めているDRready(1)対応機器を含めた家庭用低圧リソースに広げて,業界標準のWeb API(Application Programming Interface)であるECHONET Lite(注2)Web API(以下“ELWA”という。)にも対応することで,多様なニーズに展開可能なシステム構築を図る。
(注1) エコキュートは,関西電力㈱の登録商標である。
(注2) ECHONET Liteは,一般社団法人 エコーネットコンソーシアムの登録商標である。

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