室内の温度ムラや風あたりの不快感を低減して、
居住者の満足度やビルの付加価値向上に貢献します。
概要
気流解析を活用し、室内全体で快適性を実現する気流制御技術と、気流を可視化するソフトウェアを開発しました。この技術により、これまでセンサーでの把握が困難であった足元や障害物で遮られるエリアを含めて室内全体が快適となる制御を実現できます。
部屋の形状や条件に応じて変化する室内の気流・温度分布を気流解析で予測して、最適な吹き出し条件で運転することで温度ムラや風あたりなどの不快感を低減し、居住者の満足度やビルの付加価値向上に貢献します。
技術ポイント
最適な吹き出し条件を求める気流制御技術
現在、室内における気流制御は個々の空調機がそれぞれのセンサーで取得した情報をもとに、独立して制御しています。このため、部屋の形状や室内機の位置によっては部屋の隅まで吹き出し気流が到達しない場合があります。また、隣接する室内機からの吹き出し気流同士が衝突して、局所的に風速が上がる場合もありました。
下記の左側の図は、各室内機が「正面吹き」で運転した場合です。室内機の吹き出し口の真下や気流同士が衝突するエリアでは、局所的に風速が高くなっており、居住者が風あたりを感じている可能性があります。しかし、右側の図のように「斜め吹き」とすることで、風速の高いエリアが小さくなり、風あたりを軽減します。
この技術により室内全体の気流・温度分布を予測することで、気流同士の衝突などを回避し、望ましい環境を実現することができます。
気流制御技術の流れ
気流制御技術は、事前解析部分と、制御値の決定の2段階に分かれています。事前解析時は、建物の設計情報を含むBIM※1などから作成した室内モデルを対象に、複数の条件で気流解析を行い、結果を保存します。
制御値の決定時には、センサー値をもとに保存した結果から、望ましい環境に近くなる吹き出し条件を選択し、一定の時間間隔で制御します。この事前に解析した結果から制御値を決めるフローで、情報量の多い解析結果をどのように評価し、所望の環境を満たす制御値を決定するかが課題でした。
気流制御技術のポイント
そこで、事前解析時には、まず解析結果から制御に必要なデータのみを取り出し、面積率の分布として保存します。例えば、ある条件を与えて気流解析すると、部屋の各点の風速や温度が出力されますが、数百万個のデータのうち、評価したい平面の値を取り出し、面積率の分布として保存します。
次に、制御値の決定時には、所望の環境を風速や温度の上下限値で定め、その範囲内に収まる面積率から成る指標で解析結果を評価し、高評価の条件で制御します。α、β、γの重み係数を変化させることで、優先したい項目を調整することができます。
気流制御技術の実証
神奈川県鎌倉市の三菱電機 情報技術総合研究所内にある、ZEB※2関連技術実証棟「SUSTIE®」において、暖房試験を実施しました。下記の図の通り、窓からの冷気で足元温度が上がりにくい窓際エリアCの上下温度差(床上0.1mと床上1.7m)の改善効果を確認した結果、上下温度差が3℃以上となる時間帯を現行制御の163分から3分に短縮※3することができました。
右側のグラフで青色は高さ0.1mの足元温度を表していますが、現行制御では上昇温度が遅いのに対して、開発した制御では早く上昇していることがわかります。
気流解析に関する専門知識がなくても容易に設定できる気流可視化ソフトウェア
開発した気流可視化ソフトウェアは、従来のモデル作成作業を省力化し、条件設定から結果表示までの作業が容易で、結果を直感的にわかりやすく可視化して表示できます。このソフトウェアはBIMデータから自動的に部屋の形状や室内機、給排気口の位置情報を収集し、気流解析に必要な3次元の室内モデルを自動で構築します。また、什器の追加、室内機や給排気口の位置変更を画面上で簡単に実施できます。
これにより、気流解析に関する専門知識がなくても容易に設定ができ、室内機の風量や台数、配置といったシステムおよび機種によって異なる性能の違いを、室内環境の差異としてわかりやすく可視化することで、ソリューション提案の支援を行うソフトウェアとして活用することができます。
今後、このソフトウェアを活用して、ビルオーナーや設計事務所に適切な室内環境の実現に向けた提案を実施していきます。
※1BIM:Building Information Modeling 建物のライフサイクルに必要な情報を一元管理・活用する手法。
※2ZEB:net Zero Energy Building
※3当社実験での8時から17時の9時間において。