開発NOTE
暗号技術は、純粋数学とモノづくりのコラボレーション。
私は学生のころからずっと純粋数学を学んできました。私にとって暗号技術の魅力は、理論を突き詰めることが中心で一見、現実社会から距離があるように思われがちな純粋数学を社会に役立つ技術として応用できることです。暗号技術の研究開発の道を選んだ理由もそこにあります。また暗号技術はまさに理工学と言える分野だと思っています。純粋数学を駆使する理学的なアプローチ、社会や使う人の立場に立ったモノづくりの視点を考慮した工学的なアプローチ、その両方が必要な分野です。このふたつが融合したとき、新しい技術が生まれるコラボレーションの世界です。
今回の開発でもコアとなる部分は数学的に組み立てつつ、現場のニーズに合わせてどう仕上げていくかについて多くの議論を行ったことで、アルゴリズム開発・ソフトウェア開発メンバーの連携が非常にうまくいったと思っています。当社はこれまでも暗号技術の分野において、世界に先駆けていくつもの新しい技術を開発してきました。今回の開発がここまでこぎ着けられたのも技術・ノウハウの蓄積はもちろんですが、暗号技術のリーディングカンパニーとして、常に新しいチャレンジをする社風が大きな後押しになったと言えます。暗号技術開発者にとっては、やりがいのある環境だと思っています。
暗号でどこまで情報を守れるか、社会の問いにこれからも答えていきます。
この技術の発表後、国際会議や学会など各方面から大きな反響がありました。見過ごしがちだった暗号文を分離した場合のリスクに正面から向き合い、具体的な解決策を提示した姿勢と技術力をご評価いただいたのだと思います。
今後の課題のひとつは処理速度です。IoTのように桁違いの量のデータを扱うには、いままで以上に処理速度を上げていく必要があります。秘匿検索はIoT社会で重要な役割を担う技術だと思っています。カーナビの位置情報ひとつをとっても、単なる位置情報というだけでなく、その人の行動パターンや志向までがわかるプライバシー情報です。その管理には高い安全性が要求されます。また医療分野にも貢献できると思っています。極めて機密度の高い医療データをクラウドで安全に扱うことができれば、医療データを有効に利活用でき、新薬の開発や遺伝子医療にも貢献できると考えています。
今回の技術が最終ゴールではありません。情報漏洩などのニュースを耳にするたび、暗号技術でどこまで情報を守れるのかを問われている気がします。そういった社会の声にしっかり答えていかなければなりません。ある意味で戦いです。これからも暗号技術で社会に貢献できるようトライしていきます。