津波検出とほぼ同時に浸水深を高精度に予測し、
迅速な避難計画の策定を支援します。
概要
三菱電機は、1999年から海流観測のための海洋レーダーを開発してきました。津波により多大な被害が発生した2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに津波を捉えるための検討を始め、レーダーで観測した海表面の流速から津波成分を抽出して見える化するとともに、水位を推定する津波監視支援技術を2015年に実現しました。
この「レーダーによる津波監視支援技術」をさらに高度化し、2019年には連続して到来する津波の波面検知と、正確な水位推定を実現する「レーダーによる津波多波面検出技術」を開発しました。そして、2021年には当社AI技術である「Maisart®(マイサート)※1」を活用し、津波の検出とほぼ同時に津波浸水深を高精度に予測可能な「レーダーによる津波の浸水深予測AI」を開発しました。この技術により、津波検出後の数秒程度の短時間にて、陸地での津波浸水深の高精度予測を実現でき、迅速な避難計画の策定支援、ならびに沿岸地域の防災・減災に貢献します。今後は、さまざまな地震に対する検証試験を実施し、沿岸域の自治体、港湾、空港施設等の重要施設における津波監視支援を目標に、実環境での適用に向けた研究開発を進めていきます。
ニュースリリース
技術ポイント
レーダーによる正確な海表面の流速情報の取得。
東日本大震災では、津波により多大な被害が発生しました。自治体等が対策を取り、安全に避難するためには、津波を十分遠方で捉える必要があります。
津波は水深により速さが変わり、傾斜水深が300mの場合は時速約98kmで進みます。津波の移動速度を鑑み、安全に避難するためには、見通しエリアである30kmよりも遠い沖合、つまり水平線の向こう側の見通し外エリアでの津波を探知する必要があります※2。
当社は、短波帯と呼ばれる周波数(3~30MHz)の電波を用いることで、見通し外エリアの流速を観測できる海洋レーダーに着目しました。短波帯の電波は、地球表面に沿って回り込む性質があり、観測条件にもよりますが、周波数24MHzでは約50km遠方まで観測できます。
当社では2011年に本技術の研究開発を開始し、2015年に「レーダーによる津波監視支援技術」を実現しました。
2015年時点での技術的な特徴の1点目は、レーダーで観測した海表面の流速から、潮汐や、黒潮などの津波の観測に不要な海流成分を除去する技術です。そして2点目は、津波の流速から波の高さ(水位)を推定する技術(レーダーで直接観測できるものは流速のみのため、津波の方程式(浅水長波理論)を拡張し、流速から水位を導き出す技術)です。
その後も研究開発を継続し、2019年にはさらに精度を上げた「レーダーによる津波多波面検出技術」を実現しました。この技術では、津波を波面として捉え、その進行方向を検出することに成功するとともに、津波の水位もより正確に把握することを実現しました。従来は、1m以上の精度であったのに対し、誤差50cm以内での推定を実現しました。また、誤検出の可能性が10%程度であったのに対し、誤検出率を0.1%(レーダーからの距離50km以内、但し海面の状態等の観測条件による)にまで低減しました。
AIが流速情報を用い浸水深を高精度に予測。
2021年、これまで開発してきたレーダーによる正確な海表面の流速情報を取得する技術と当社AI技術「Maisart」を組み合わせることにより、数秒程度の計算で高精度な浸水深を予測することを実現しました。事前にさまざまな地震による津波発生条件(震源地、断層のずれ量、ずれ方向など)に対して地形データを用いたシミュレーションを行い、AIがこの結果を学習します。そして、運用時にはAIが学習結果に基づき、津波浸水深を予測確率付きで予測する技術を開発しました。従来、浸水深の予測は数分の計算を要し、誤差3mであったところを、本技術により、津波の検出とほぼ同時に、誤差1m程度の精度で浸水深を予測できるようになりました。
今後は沿岸地域の防災・減災に貢献すべく、2025年の実用化を目指し大学機関と連携し開発を推進します。三菱電機はこれからも、より安全・安心な社会の実現を目指していきます。
※1Maisart(マイサート):Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略
全ての機器をより賢くすることを目指した当社のAI技術ブランド
「Maisart」は三菱電機株式会社の登録商標です。
※2海表面の流速を観測する海洋レーダーは、条件により約50km沖合を観測可能(土木学会(2001)より)。傾斜水深300mの海洋では沖合50kmの津波は時速約98kmとなり、約30分で沿岸に到達。