世界最高出力で
ガラスなどの高速微細加工を実現します。
概要
次世代のレーザー加工装置として、高速に微細加工できる「高出力深紫外ピコ秒※1レーザー加工装置」の試作機を開発しました。
材料を分解する能力が高い波長266ナノメートル(nm)※2の深紫外で、パルス幅がピコ秒の短パルスレーザーを世界最高※3の平均出力50Wで照射することにより、加工時間を短縮できるだけでなく、これまで近赤外レーザーでは加工が難しかった透明なガラスなどの高速微細加工を実現します。
技術ポイント
世界最高50W深紫外レーザー光源で、加工時間を10分の1に短縮
波長300nm以下の深紫外レーザーは、材料を分解する能力が高いため、光を通すガラスなどの透明材料や溶融温度が異なる材質で構成される複合材料などの難加工材にも適用できます。深紫外レーザーは、半導体レーザーの発振光(波長1064nm帯の近赤外線)を増幅器に通して、高出力の基本波レーザーを発生させ、さらにCLBO※4などのレーザーの波長を変換する結晶に通すことで266nm帯にします。
一方、高出力のレーザーを発生させると、各種光学素子で発生する熱によってレーザービームが歪むという問題があり、これまで深紫外レーザー光源の出力は5Wにとどまっていました。
そこで、熱的な歪みを回避し、300Wの基本波レーザー光源を開発しました。また、高出力の深紫外レーザーを長期間安定に発生させるために、内部欠陥の少ない世界最大級(重量1.5kg)の超大型結晶を製造する育成技術を開発。基本波レーザー光源と深紫外レーザー発生用結晶を組み合わせることで従来の10倍となる平均出力50Wの深紫外レーザー光源を実現しました。現在、商用化されている5Wと比較して加工時間を10分の1に短縮することが可能です。
低歪み反射型加工光学系の開発により、直径4ミクロンの精密加工が可能
レーザー加工装置で想定通りのレーザー加工を行うためには、レーザービームのサイズを調整する必要があります。従来のようにレンズなどの透過型光学系を用いると、深紫外レーザーは高出力であるため、レンズがレーザービームを吸収して熱が発生し、レーザービームが歪んでしまいます。
そこで、レンズをミラーに置き換えた反射型光学系を開発。発熱が表面だけに限定されるミラーを用いることで、熱による歪みを15分の1に低減することができました。集光性の低下を抑制することで、高出力化してもビームサイズが調整でき、加工点で最小4ミクロンの微細穴をガラス基板に形成するなどの精密加工が可能になりました。
ハイブリッドMOPA※5方式の基本波レーザー光源が、制御性に優れたピコ秒パルスを実現
従来の短パルスレーザー発生方式では任意のタイミングでレーザーパルスを発生させることが難しく、複雑な加工を自在に行うことができませんでした。
そこで、電気信号によって、直接半導体レーザーからピコ秒レーザーパルスを任意のタイミングで発生させるゲインスイッチパルスを利用する方法を採用。微弱なゲインスイッチパルスは、光増幅する際に発生する光ノイズに埋もれてしまう課題がありましたが、ファイバー増幅器とバルク増幅器とを組み合わせたハイブリッドMOPA方式によって解決しました。
さらに、超高速電流パルス発生回路を独自開発したことで半導体レーザーを直接駆動し、任意のタイミングでピコ秒レーザーパルスを発生させ、自在にパターニング加工などができるようになりました。
※1ピコ秒:1兆分の1秒
※2ナノメートル:10億分の1メートル
※32021年6月 三菱電機調べ。
※4CLBO:CsLiB6O10 (セシウムリチウムボレート結晶)
※5MOPA :Master Oscillator Power Amplifier(主発振器出力増幅器構成)
● 本開発の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援のもと、大阪大学、スペクトロニクス株式会社との連携により得られた成果です。