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デザインにはライフスタイルを変える力がある

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
プロダクトデザイナー
四津谷 瞳・伊藤 大聡

パンの楽しみ方を広げたトースター

四津谷
三菱ブレッドオーブンの始まりは、2015年に行われた社内のアイデア発表会です。当時、高級食パンが注目されており、今後はおいしい食パンを食べたいといったニーズが出てくるのではないかと新たな調理家電として提案しました。それは、ヒーターをパンに近づけるために庫内をできるだけ狭くした薄型トースターのアイデアでした。
伊藤
定説では、トーストの表面を素早く焼くことで、パンの水分の蒸発を抑え、中はふわふわ、表面はサクサクのおいしいトーストができると考えられていました。早速、設計者と一緒に素早く焼くことができる試作品を作ったのですが、今までのトースターで焼いたトーストと比べて特に感動する程のものには辿りつけませんでした。そこで常識にとらわれず、とことんおいしさを追求することにしました。
四津谷
おいしさを追求するといっても、食パンのおいしさとは何なのか。実際にパン屋さんへ取材したり、味覚の専門家にヒアリングをしたりして、焼きたてパンのおいしさに必要な5大要素「甘み、ふんわり、しっとり、香り立つ、弾力・粘り」を見出しました。
伊藤
5大要素を実現するにはどうすれば良いか。当時、私が出向していた工場では、食パンが加熱されてトーストになるメカニズムを研究し、毎日のように食パンの試食を重ねました。そして辿りついたのが、食パンの水分と香りを閉じ込める「密封断熱構造」と食パンを丁寧に焼き上げる「1枚焼き」です。
四津谷
そのトーストを初めて食べた時は衝撃的でした。今までのトーストとは食感も風味も全然違うんです。
伊藤
実は、三菱ブレッドオーブンを担当した工場の設計者達は今まで炊飯器を担当し、おいしいごはんを追求してきたので、筋金入りの” ごはん派”でした。しかし、そのトーストのおいしさを実感したことをきっかけに、” ごはん派” 設計者達がパンの魅力に引き込まれていったのを覚えています。
四津谷
当時、SNSで食パンに具材を乗せて焼いた「#乗せパン」をよく見ていました。こんがり焼けたチーズや、具材があふれそうな乗せパンがおいしそうでとてもワクワクしました。色んな乗せパンを簡単に美味しく味わうことができる。パンを平置き状態で焼けるようにしたのはそのためです。
他にもワクワク使えるこだわりがあります。パンは、焼きたてをすぐに食べたほうが美味しいのですが、通常はキッチンに置かれたトースターでパンを焼き、ダイニングテーブルへ運ぶので少し冷めてしまいます。焼きたてをすぐに味わえるように、食べる場所であるダイニングテーブルで使える新しいスタイルを考えました。
慌ただしい朝もキッチンに立つことなく、焼きたてのおいしいトーストを味わってほしいですから。
伊藤
ダイニングテーブルで焼きたてを味わえるように、新しいデザインのアプローチをしています。
四津谷
まず、コンパクトな本体サイズと大きな丸みをつけたシンプルな形と本体色のブラウンは、木のダイニングテーブルやインテリア小物との相性が良く、焼きたてトーストを引き立てる役割もあります。フタの木の質感は、家電のもつ機械っぽさを弱め、暖かみのある空間をつくり出す狙いがあります。

モノづくりの現場は、いつもユーザー視点から

伊藤
ユーザー視点といえば、四津谷さんが以前手がけたコードレススティッククリーナー「iNSTICK」も人々の行為から発想した製品ですよね。
四津谷
インテリアの一部として部屋に出しておける新しいスタイルのコードレススティッククリーナーです。掃除は家事の中で一番敬遠されていますが、原因を調べると「片付けるのが億劫だから」と掃除そのものではなかった。これまで掃除機は隠すのが当たり前だったけれど、すぐに使えて、すぐに片付けることができれば嫌いな掃除が少しラクになると思ったのです。
「片付けなくちゃ」という決めつけを「掃除機は出したままで良いもの」と思えるようにデザインはシンプルな円筒形にしました。これまでのスティッククリーナーと比較すると変わった形ですが、これくらい割り切った方がインテリアとして置いてもらえる。
「iNSTICK」は三菱電機株式会社および三菱電機ホーム機器株式会社の登録商標です。

デザインの役割

四津谷
近年は「モノ」から「コト」へと消費が変化しているといわれています。
私自身はプロダクトデザイナーなので、人々の「こう暮らしたいな」に少しでも近づけられるモノ作りがしたいです。それは、三菱ブレッドオーブンの目指した「食べる場所で作るともっと美味しい」や、iNSTICKの目指した「インテリアになる掃除機だから気軽に使えていつでも部屋がキレイ」のように、モノを通して得られる体験までデザインしたいなと思っています。
伊藤
一般的なプロダクトデザインは、商品を製造するところまで関わるケースが多いのですが、三菱ブレッドオーブンでは企画から、製造、販売、プロモーションまで関わりました。それは、「モノ」に込めた思いをきちんとお客様まで届けたいと考えたためです。デザイナー自らが開発の上流から下流までデザインに責任を持つこと。とても大変なことですが、やりがいを感じるところでもあります。その想いを胸に、今後もデザインに関わっていきたいですね。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
プロダクトデザイナー

伊藤 大聡

2003年入社
ホームシステムデザイン部にて、オーブンレンジ、クリーナー、IHクッキングヒーターなどのプロダクトデザインを担当。
2016年から3年間、三菱電機ホーム機器株式会社の先行開発部門へ出向中に三菱ブレッドオーブンの企画からプロモーションを手掛ける。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
プロダクトデザイナー

四津谷 瞳

2004年入社
ホームシステムデザイン部にてクリーナー、冷蔵庫、など主にコンシューマー向けのプロダクトデザインを担当。
炊飯器やクリーナー、エアコンのCMFデザインも手掛ける。

※Color Material Finish