今年80周年を迎える三菱電機・伊丹製作所は大阪からも程近い兵庫県尼崎市にあり、交通事業の中核製作所として鉄道に搭載される機器やシステムの開発や製造を手がけています。鉄道網の発達した日本で培った技術を活かして開発された製品は国内のみならず世界各国の鉄道車両にも搭載され、既に9万両以上の受注実績があります。交通システムの設計に携わると共に、輸出管理のお仕事をする瓜田さんに三菱電機の鉄道事業の今とお仕事への思いをお聞きしました。
鉄道交通システムの最前線で開発を担うエンジニア
2020.09.28鉄道の「走る」「止まる」「制御する」を追及する伊丹製作所
伊丹製作所は鉄道の車両システムの開発・製造を手がけているとお聞きしましたが、具体的にはどのような製品を開発、生産しているのでしょうか。全体の概要を教えてください。
瓜田さん:伊丹製作所は鉄道交通システム事業の主力工場として、車両の走る、止まるを制御するモーターや推進制御装置、ブレーキから車両の頭脳・神経を司る列車統合管理装置、列車内の映像情報システムまで、車両用の電機品を中心に開発、製造し、国内外に製品を送り出しています。
鉄道交通システムというと、具体的にはどういう車両に御社の製品が使われているのでしょうか。
瓜田さん:新幹線から在来線や地下鉄までさまざまです。伊丹製作所で担当している電機品以外に車両用の車両用空調機器や駅のホームドアは長崎製作所、列車の無線通信システムや監視カメラはコミニュケーションネットワーク製作所、運行管理システムや交通変電システムは神戸製作所でといったように、伊丹製作所以外にもたくさんの製造拠点があります。
なるほど、私たちがいつも利用している鉄道や地下鉄でも三菱電機の製品がたくさん使われているわけですね。
瓜田さん:はい、三菱電機は「走る」「止まる」「制御する」を1社で行う唯一のメーカーで、鉄道車両用電機品では国内シェア約6割を占め、売上規模も拡大傾向にあります。
車両のデータを集めて地上に送るシステムを設計
幅広い製品を開発、製造している伊丹製作所の中で、瓜田さんの担当業務はどのようなものですか?
瓜田さん:私の担当業務は2つありまして、ひとつが国内鉄道会社向けの「地車間連携システム」の設計、もうひとつがTCMSと呼ばれる「列車統合管理装置」の輸出管理のとりまとめをしています。
どちらも専門的ですね。まず「地車間連携システム」について簡単に教えてください。
瓜田さん:走行中の車両の状態を地上の指令所や車両基地でリアルタイムに遠隔監視できるシステムです。具体的には無線で車両側の列車統合管理装置と地上側の車両電機品遠隔監視システムを連携してリアルタイムに情報をやりとりし、乗務員の遠隔支援や電機品の故障状態の把握を行います。たとえば、営業運転中の車両で故障が起きた場合、迅速な復旧が出来るように地上からサポートすることができます。これは、地上の司令員も運転士が見ている車両の運転台表示器と同じ画面を見て支援できるからです。
それは運転手にとっても安心ですね。瓜田さんはそのシステムを設計しているのですね。
瓜田さん:はい、お客様である鉄道会社の要望を伺い、システムの仕様を決めてシステムを設計し、関係会社を含めた所内のとりまとめを行い、実際に現車試験をするところまで行います。
もうひとつの輸出管理業務をしている「列車統合管理装置」とはどういったものですか?
瓜田さん:「列車統合管理装置」は車両の頭脳を司るシステムです。
鉄道の車両には、車両用空調機器や行先案内表示器、推進制御装置、ブレーキなどさまざまな機器が搭載されていますが、機器の状態を把握して適切に制御するのが「列車統合管理装置」の役割です。
「列車統合管理装置」の輸出管理のお仕事とシステムの設計のお仕事は関連がありますか?
瓜田さん:「輸出管理」とは、製品が適切な出荷手続きが出来ているかを確認する業務です。
「列車統合管理装置」の輸出管理の仕事も輸出する製品の機能を把握し、法令の内容との整合性を確認する必要があるので、製品の知識がないとできません。設計を経験していないと詳細な機能が分からないので、設計をしながら輸出管理業務をすることは強みだと考えています。
どちらの業務が多いのでしょうか。
瓜田さん:今は子供がまだ小さいので出張のあるシステム設計のお仕事はセーブさせていただき、社内で完結する輸出管理の仕事の方が多いですね。
お仕事をしていて一番やりがいを感じるのはどんな時ですか。
瓜田さん:実際に自分が携わったプロジェクトの現車試験で自分が開発したシステムがちゃんと動いていることを確認した時は一番うれしいです。でも輸出管理も重要な業務ですし、ひとつでもミスしたら法律にかかわるので責任が重大です。
学生時代もこういった交通システムに関わる勉強をしたのですか。
瓜田さん:大学時代は情報系の大学で大気汚染の研究をしていました。人工衛星を使って情報を集めて解析をして、どういう大気汚染物質がどういう風に流れていくかを調べていました。対象は違いますが、データを処理するということは同じなので、今の仕事にも役立っていると思います。
列車の運転台は情報の宝庫です
ご自身が開発に関わった車両や鉄道を実際に見に行ったり、乗ったりすることはありますか。
瓜田さん:入社当初から、地車間連携システムや車両のデータを蓄積する装置の開発に携わっていましたので、車両メーカーや車両基地での試験や試運転の際は実際に車両に添乗し、試験を実施していました。試験をするのは、電車の運行のない夜中にやることがほとんどですが。
ご自身が開発に関わった車両や鉄道は見てわかりますか?
瓜田さん:運転台の表示を見たらどこのものかわかりますし、自分の会社のものもすぐにわかります。
鉄道はコアなファンも多く、鉄道好きのお子さんも多いと思いますが、こんな部分を見ると面白いなど鉄道システムを開発する瓜田さんの視点でアドバイスはありますか。
瓜田さん:一番おすすめは運転席の近くです。運転台の表示器は列車の情報が集約されているので、見ていると楽しいと思います。運転中はあまり操作されませんが、運転手の方に伝えるべき情報が表示されています。
鉄道輸送はモビリティの中でもCO2排出が少なく低炭素社会に寄与する事業だと思いますが、今後どんな変化があるのでしょうか。
瓜田さん:少子高齢化で運営要員が少なくなり、保守業務なども自動化や効率化がさらに必要とされると思います。そのため、個人的には自動運転なども将来的には広がるのではないかと思います。もちろん安全性では完全な自動化に至るまでにはいろいろ課題があると思いますが。
海外にも交通システムの製造拠点があるとお聞きしました。
瓜田さん:はい、車両用電機品ではインド、中国、米国、メキシコなど世界6カ国にも製造拠点があります。海外でも環境に配慮した輸送手段として鉄道への注目が高まっています。
気候変動を肌で感じ、子どもと一緒に野菜作り
先日環境省が「気候危機宣言」を出しましたが、昨今は豪雨が頻発し、熱中症が増えるなど日本でも気候変動による影響が目に見えて増えてきました。お仕事でもご自身の生活でも環境の変化を感じる時はありますか。
瓜田さん:自転車で通勤していて保育園の送迎も自転車で行っていますが、最近ゲリラ豪雨に合うことが多くなった気がします。一昨年、関西を直撃した台風では自宅は停電しませんでしたが、帰宅する途中の信号が止まっていたりと、気候が変化していることを実感しました。仕事上ではやはり暑さが年々厳しくなってきていますので、高温に耐える機器やシステムをこれまで以上に考えないといけないと思います。
生活の中で環境を意識した取り組みで、特にお子さんと一緒に行っていることはありますか。
瓜田さん:今年は、新型コロナウイルスの影響で家にいる時間が長くなったので、子供と一緒に家庭菜園を始めました。庭でプランター菜園をしてミニトマトとオクラ、朝顔を育てていますが、子供は野菜の収穫が楽しいようです。
他にはどんなことがありますか。
瓜田さん:スーパーにはマイかごを持って行ったり、自宅には太陽光パネルをつけました。ソーラーは災害などで停電になった時にもある程度電気を使えることがいいなと思っています。
伊丹製作所で省エネや環境に配慮した活動をご存知でしたら教えてください。
瓜田さん:伊丹製作所では建屋の屋上や壁に太陽光パネルを設置しています。全体で10MWの発電容量があり構内で使用しています。また直接関わってはいませんが、構内にはビオトープもあり、生き物調査をしています。
ところで瓜田さんはお二人のお子さんを育てながらお仕事もしていらっしゃいますが、どのように両立を図っているのでしょうか。
瓜田さん:実家が遠方なので残念ながら両親の協力は得られません。出張や突発的に忙しくなることがあるのですが、そんな時はなるべく午前中に打ち合わせを設定して保育園のお迎えまでには戻ってくるようにするなど調整しています。どうしても残業をしなければいけない日は主人にお迎えに行ってもらったり、子供が病気の時等は、交代で仕事を休んだり、午前は私が出社、午後から主人が出社するなどして対応しています。
働くお母さんは本当に忙しく、大変ですね。娘さんたちをはじめ次世代の社会が持続可能であるために、私たちができることは何だと考えますか。
瓜田さん:使っていない部屋の電気や家電のコンセントを抜くなど、一人の力では影響は少ないですが、みんなが少しでも地球にやさしい行動をするとそれが大きな力につながるのではないかと思います。