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vol.7
「製品」から再び「製品」を生み出す、 循環する資源の現場から学ぶこと
ハイパーサイクルシステムズ 管理部 総務課 石井 葵
技術編

「製品」から再び「製品」を生み出す、 循環する資源の現場から学ぶこと

2019.03.29

数多くの家電を製造する三菱電機では、廃棄された家電のリサイクルする仕組みを自社で持っています。その事業を行う「株式会社ハイパーサイクルシステムズ」(以下HCS)は、自社の家電だけでなく他社の廃家電も受け入れ、高度な分解、選別技術により、廃棄家電から純度の高い再生素材を生み出し、「ゆりかごからゆりかごへ」※1と呼ばれる循環型のものづくりをしっかり支えています。では実際にどのような流れで“廃棄家電”から“再生”を生み出しているのでしょうか。石井さんの案内で工場を見せていただきました。

  • ※1 「ゆりかごからゆりかごへ」(Cradle to Cradle):モノの「廃棄」という概念をなくし、原材料から作られたモノを再び原材料として戻す、地球環境と生物多様性に配慮したモノづくりを意味する。

リサイクル率98%、年間24,000トンの資源を再生

まず、HCSで行われるリサイクルの全体像について教えてください。この工場では年間どれくらいの家電を処理しているのでしょうか?

石井さん:エアコンで言いますと、1日で約800~1,000台を処理します。他の家電すべて合わせると年間27,357トン(約68万台)にのぼります。

すごい量ですね。その中からどれくらいの資源をリサイクルしているのでしょうか?

石井さん:冷蔵庫・冷凍庫からは約8,400トン、洗濯機・衣類乾燥機からは約7,000トン、そしてエアコンからは約6,000トン、テレビから約2,600トンと、合計で年間24,000トンの資源をこの工場で取り出しています。そのリサイクル率は約98%にもなるんですよ。

ハイパーサイクルシステムズのリサイクル率を表す円グラフ
ハイパーサイクルシステムズのリサイクル率
種類別に分けられた1日処理分の廃家電が整然と載せられリサイクルを待つコンテナの写真
種類別に分けられた1日処理分の廃家電が整然と載せられリサイクルを待つコンテナ

なるほど、廃家電のほぼすべてが資源として再利用されているのですね。この残りの2%は何ですか?

石井さん:この2%は廃家電に付着したダストや洗濯機のバランスをとるために使われている塩水などです。つまり、それ以上の素材のすべてがまた新たな素材として生まれ変わるわけです。

これらの家電はどこから来るのでしょうか。ここにもコンテナに載せられた廃家電がたくさんありますね。

石井さん:ここに運ばれてくるのは家電リサイクル法で適切な処理が決められているエアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機の家電とコピー機などのOA機器などです。メーカーは三菱、日立、ソニー、シャープ、富士通ゼネラルなどのもので、東関東地区で発生した廃家電は回収する業者を経て全部ここに入ってきます。リサイクル券が貼ってあるので、どこから来たかトレースすることもできます。

「手解体→粉砕→選別」の工程で再生素材を生み出す

石井さんの写真
エアコンの手解体工程はやや複雑なので作業する人数も多いと話す石井さん

ではまずエアコンのリサイクル工程を見せてもらいましょう。どんな流れで処理をしていくのでしょう。

石井さん:廃家電のリサイクルの過程は大きく分けて3つあります。

  1. 1)最初が人間の手で必要な部品などを回収する「手解体工程
  2. 2)それを粉砕する「破砕工程
  3. 3)それを素材別に分類する「選別工程」です

それではまずエアコンの「手解体工程」をご紹介します。

1)エアコン 「手解体工程」

粉砕する前に人間の手で解体、回収していくのですね。

石井さん:はい。エアコンには資源となる貴重な素材が入っています。主に①部品のままで素材化が簡単なものや、②主にフロンなどの有害物質、そして機械にいれてしまうとよくないもの、③破砕機での破砕が困難なものを手解体で回収していきます。

  1. ①部品状態で素材化が簡単なもの:熱交換器、モーター、トランス、プリント基板など
  2. ②環境影響物質を含むもの:冷媒フロン、コンデンサー、水銀リレーなど
  3. ③破砕選別で破砕が難しいもの:コンプレッサーなど
エアコンの手解体のプロセスを表す図
エアコンの手解体のプロセス
フロン回収機から回収したフロンが、液化封入される高圧ガスボンベの写真
フロン回収機(青色)から回収したフロンが、液化封入される高圧ガスボンベ

冷媒フロン・潤滑油回収エリア

温暖化に大きな影響のあるエアコンのフロンはどのように回収していますか?

石井さん:フロンは室外機を上下逆さまにして回収します。フロン回収機を使ってフロンと油を同時に吸引し、フロンを気化・圧縮してガスボンベに封入します。油も専用タンクに回収します。

解体ライン

コンベアで流れながら効率的に解体していくのですね。

石井さん:解体ラインは3つあります。1つめが室内機、2つめがフロンを処理した後の室外機、3つめが解体部品だけが流れているラインです。

エアコンの手解体のラインを説明する石井さんの写真
エアコンの手解体のラインを説明する石井さん

除塵装置

廃棄エアコンの解体ラインなのに、工場の空気は悪くないですね。

石井さん:長期間使用されたエアコンにはたっぷりほこりを含んでいます。それを解体する際に作業者が吸い込まないように集塵機でほこりを吸引します。マスクをつけなくても大丈夫なくらいにほこりを集めています。なお、粉塵測定器で測定し、ランプでほこりの量を表すなど見える化を測っています。また、除塵後の空気は再度室内に戻されるので、全換気に比べて熱損失が少なく省エネになります。

2)冷蔵庫 「手解体工程」

冷蔵・冷凍庫の手解体のプロセスを表す図
冷蔵・冷凍庫の手解体のプロセス

石井さん:次に冷蔵庫の手解体工程を説明いたします。

<冷蔵庫の手解体のプロセス>

  1. ①部品状態で素材化が簡単なもの:野菜ケース、卵ケース、プリント基板、ドアパッキンなど
  2. ②環境影響物質を含むもの:冷媒フロン、潤滑油、蛍光ランプなど
  3. ③破砕選別で破砕が難しいもの:コンプレッサーなど

石井さん:コンプレッサー、基板、野菜ケース、卵ケースなどが回収されます。その中でも卵ケースなどの透明プラスチックはこのまま回収した方が素材として使いやすいので手で回収して破砕機にいれます。

フロン・潤滑油回収エリア

※こちらは製造部 家電工作課の横山浩典係長に説明をしていただきました。

フロンガスは地球温暖化の影響が大きいので、適切な回収が重要ですが、どのように回収しているのでしょうか。

横山さん:これまでは冷蔵庫を横に倒し本体に付いたままのコンプレッサーから冷媒ガスと冷凍機油(オイル)を回収していました。でも今は、冷蔵庫のフロンは主にコンプレッサーに入っているという特徴を活かし、立てた状態で本体内のフロンを回収し、コンプレッサー単体を取り出した後に冷媒ガスと冷凍機油を回収するよう工夫しています。

冷蔵庫のコンプレッサーとフロンを回収するために使う道具の写真
赤枠内の黒い部品が冷蔵庫のコンプレッサー。手前に並ぶのは、ここからフロンを回収するために使う道具
冷蔵庫を立てた状態でフロンを回収する作業の写真
冷蔵庫を立てた状態でフロンを回収するようになり、作業効率がアップした

コンプレッサーのフロン回収には御社独自の技術が使われているとお聞きしました。

横山さん:はい、三菱電機の研究所と共同開発した専用台にコンプレッサーを吊るしてフロンを回収します。フロンは通常、冷凍機油と混在していますが専用の装置を使用することによって分離させた後、液化してボンベに回収します。この方法は独自の技術でしたが現在は他のリサイクルプラントにも横展開してこの技術を使ってもらっています。

回収されたフロンやオイルはどのように使われるのでしょうか。

横山さん:オイルは精製して燃料として使ったり、フロンは無害化処理をする、もしくは再生フロンとして再利用されています。

3)「粉砕工程」

さて、ここからは手解体で回収した部品や素材を粉砕する場所ですね。さすがに大きな音で迫力がありますね。

石井さん:はい、先ほどエアコンの手解体で解体した部品が流れていくラインがありましたが、それはここにすべて落ちてきます。洗濯機やOA機器もこの破砕機に投入して細かく砕き、選別しやすい大きさにします。

エアコンや洗濯機などの破砕機の写真
エアコンや洗濯機などの破砕機
大きなブレーカーやグラインダーで一気に洗濯機を破砕する衝撃式破砕機の写真
大きなブレーカーやグラインダーで一気に洗濯機を破砕する衝撃式破砕機

冷蔵庫はどちらで粉砕されますか?

石井さん:こちらの衝撃式粉砕機です。断熱材ウレタンの発泡材にはフロンのものとノンフロンのものがあり、テープで色分けし機械で自動的に分けます。それぞれ破砕機に投入する時間を分けて、混在した状態で破砕しないように工夫しています。
(破砕機内の映像を見せながら)中で火花が散っているのがわかりますか?ノンフロンの発泡材は「シクロペンタン」という可燃ガスなので、ウレタンが粉になる事で引火する「粉塵爆発」の危険性があります。そのため、30秒くらいの間隔をあけ大量の風を流す事でガス濃度や粉塵濃度を下げて発火しないようにしています。

4)「選別工程」

細かく粉砕された粉砕物は素材として再生されるように、素材ごとに選別、回収されるのですね。

石井さん:はい、その過程は実際に見ることはできないのですが、風や磁石、電流への反応の違いなどを利用して、鉄、銅、アルミニウム、混合プラスチック、ダストなどに選別されて出てきます。
同じ素材を集める、同じものは同じように集めて処理をするというのがリサイクルの基本なんです。自宅でゴミを捨てる時も同じですよね。

「選別工程」を動画でご覧になれます
機械選別の流れを表す図
2種類の破砕機で細かくなった破砕物は3つの選別により、鉄、アルミ、銅、プラスチックなどに選別される機械選別の流れ

磁石を使った「磁力選別機」や「非鉄選別機」のアイデアはとても面白いですね。

石井さん:はい、素材の特性をとらえて選別します。鉄は磁性を利用して回収し、銅やアルミニウムは電流の通しやすさの違いなどを利用してプラスチックと分離して回収します。

吊り下げ式磁力選別機の図
破砕片の流れるコンベヤ上に、強力な永久磁石を内蔵した吊り下げコンベヤを配置し、鉄などの磁性体のみを吸着し回収する磁力選別機
非鉄選別機の図
強力な磁石を配置したローターが高速回転していることで、導電性(電流の通しやすさ)をもつ銅やアルミニウムなどの非鉄金属に「渦電流」が発生し遠方まで飛ばされる一方、非導電性のプラスチックは近くに落下するため、非鉄金属とプラスチックとを選別する事ができる非鉄選別機

難しいのはどの工程ですか?

石井さん:プラスチックのリサイクルは難易度が高いと言われています。特に製品に使える純度の高いプラスチックを回収するにはさまざまな工程があります。HCSで回収した混合プラスチックはさらに三菱電機のプラスチック専門のリサイクル工場「株式会社グリーンサイクルシステムズ」に送られてさらに高純度なプラスチックに選別されています。

「混合プラスチックの選別」を動画でご覧になれます

リサイクルを考えたものづくりへ

使われなくなった家電がこんな風に素材として生まれ変わるのを実際に見て、リサイクルという意味を再確認しました。本当に循環型のものづくりがここにはありますね。選別された素材はどのようなものに使われるのでしょうか。

石井さん:まず鉄は地金として電炉メーカーなどに出荷され、鉄筋などの建築資材として使われます。金・銀・銅を含む基板類などは精錬会社やマテリアル会社などに出荷されます。混合プラスチックはグループ会社の「株式会社グリーンサイクルシステムズ」(GCS)に送られて再生ペレットになり、再びエアコンや家電の内部部品として使われています。

廃家電から生まれた混合プラスチックの写真
廃家電から生まれた混合プラスチック(再びエアコンのファンやフィルターなどに使われる)
プラスチックの再生利用の写真
三菱電機ではこれまで6%程度だったプラスチックの再生利用率は70%まで高まっている

リサイクル技術を開発するのはどのような方ですか、または他の部署とも連携して開発するのでしょうか。

石井さん:当社専門の製造技術部、三菱電機の技術や研究所の担当者が意見交換をして開発を進めます。もちろん機械を作るメーカーさんに要望を出して、一緒に開発する場合もあります。

リサイクル工程で得た情報を開発設計部門にフィードバックするとお聞きしましたが、どのような形で生かされているのでしょうか。

石井さん:現在、家電リサイクル法ができてからは自治体が処理するのではなく、メーカーが主体になって廃家電をリサイクルしています。そのため製造する段階からリサイクルを意識した製品作りができることは、グループ会社である強みかと思います。また、他メーカーにもこういう素材は使わないでほしいとか、ねじ1本でもこういう素材を使ってほしいとか、他メーカーのものづくりにもリサイクルを考えた要望を出すこともあります。

なるほど、HCSのリサイクル技術が再生しやすい循環型のモノづくりにしっかりフィードバックされているのですね。

石井さんの写真

リサイクルの工場は音も大きくダイナミックな現場です。工程を説明していただき、家電にはさまざまな部品や素材が使われていることがわかりました。それをいかに効率良く再利用できるような素材にするか、その工程にはさまざまな知恵や技術にあふれていました。今ではリサイクルしやすいような商品設計も考えられているとか。これは石井さんの言うようにグループ企業ならではの強みだと思いました。石井さんは、「自分は外部の方と接する立場なので、見学者の意見もしっかり社内に伝えたい」と外部の方との橋渡し役も果たしているようです。