各事業所で、生きもの調査から
始まる自然との共生を推進

生きものが利用しやすく、多くの種を見ることができる緑地を目指して

京都地区

京都地区はJR長岡京駅の北東に位置し、事業所の周辺は市街化されているものの、北側には耕作地も残されています。また、西側には「西山」と呼ばれる山があり、東側には「桂川」が流れています。また、地区内には都市部で減少している良好な草地環境が維持されていることが専門家による生きもの調査でわかっています。こうした周辺環境とのつながりを活かし、様々な生きものが利用しやすい緑地を整備しています。

敷地内の草地の一部を「草地ビオトープ」とし、周辺に生育している在来種を移植するほか、草刈りの時期や範囲を工夫するなど昆虫が生息しやすい緑地として管理しています。あわせて外来種防除に向けた植栽の植え替えなどを進めています。

事業所所在地

〒617-8550 京都府長岡京市馬場図所1番地

主な取組テーマ
  • 都市の緑地生態系の一部としての機能維持・質の向上 [B-4-(1)] [B-4-(3)]

[ ] 内は取組みテーマの分類を示します。詳細については以下を参照ください。

京都地区の活動の方向性

取組の特徴
  • 四季を通じた調査で生きものの緑地利用の特性を把握
  • 都市部で減少している良好な草地環境の維持
  • 生きものとの共生を考えた「草地ビオトープ」を整備
本編
資料編

京都地区の活動テーマ

「草地ビオトープ」を主軸に生きものが利用しやすい環境を整備

京都地区では2016年~2017年にかけて外部の専門家による生きもの調査を実施し、300種以上の動植物の生息を確認しました。この結果を踏まえて、生きものが利用しやすい緑地環境の整備、とりわけ昆虫類が生息しやすい草地管理に取り組んでいます。このほか、近年は外来種の防除施策にも本格的に取り組んでいます。

緑地の特徴を踏まえて「草地ビオトープ」を整備

京都地区内には、都市部では減少している良好な草地環境が維持されています。これを活かして、2018年度から「草地ビオトープ」の整備に取り組んでいます。

専門家のアドバイスも参考にしながら、周辺の耕作地に生育している草地の在来植物や、近隣の草地環境でよく見られるチガヤなどを地区内の草地に移植。この草地をいくつかのエリアに分け、草刈りの時期をずらすとともに、草を根元まで刈ることはせず、ある程度の草丈を残すことをルール化。これにより、昆虫が生息しやすい環境が常に残るようにしています。

草地ビオトープ

地区内ではヒヨドリの繁殖も確認された。写真は巣立ちビナ

地区内ではヒヨドリの繁殖も確認された。写真は巣立ちビナ

取組みを5年以上にわたって続けてきた結果、草刈りの際にはバッタなどを狙って小型の鳥類が飛来する光景も見られるようになりました。こうした成果を共有するため、構内で確認した生きものをイントラネットの専用ページを通じて従業員に発信する試みも始めています。また、今後は従業員参加型の取組みとすることも検討しています。

京都地区の緑地の特徴

植物

農耕地の草地で見られる在来種の例

近年は全国的に草地が減り、草地を棲み処とする生きものが減少しています。そうした中で、京都地区内の草地には農耕地の草地で見られる在来種が多く生息しています。京都地区のある場所は、かつて水田地帯だったことから、その植生の名残と考えられます。また、除草剤をまかない草刈り管理も環境維持に貢献しているようです。さらに、全国的に減少している種で、都市部で見ることは稀なニシキソウも確認されています。

鳥類

樹林を好むキジバトなどが、北側の耕作地で餌をとり、構内の樹林で休息するといった行動が確認されています。季節による変化では冬に種類が豊富になり、メジロ、ウグイス、シロハラなど、樹林に生息する種が増加する傾向です。春~夏の繁殖期には餌が豊富な山地を好みますが、山地の餌が少なくなる冬季は都市緑地も大切な利用場所になると考えられます。

また、京都府レッドデータブックにおいて絶滅危惧種に指定されているチョウゲンボウが、構内で狩りを行っている可能性も調査時に指摘されています。猛禽類であるチョウゲンボウが生息できるだけの小鳥類が生息する環境として、構内緑地と耕作地が寄与していると考えられます。

周辺地域とつながりのある構内緑地

周辺地域とつながりのある構内緑地

絶滅危惧種に指定されている猛禽類が狩りをしているかも

チョウゲンボウに捕食されたと考えられるヒヨドリの羽チョウゲンボウに捕食されたと考えられるヒヨドリの羽

両生類

水辺が少ない環境の中でも2種類のカエルが

ニホンアマガエルのほか、重要種に指定されているヌマガエルが確認されています。

こうした調査結果も踏まえて、今後、地区内に水辺を増やすことも検討しています(詳しくは下記「既存の池の跡を活かし、ビオトープ設置を検討」をご覧ください)。

昆虫類

構内の草地では多くの種類のバッタやコオロギが見られ、良好な草地環境があることを示すホシササキリも確認されています。また、エノキを食樹とし、通常は山地に生息するヒオドシチョウなども確認されています。構内にあるエノキは、鳥が構内で糞をし、その糞に含まれていたエノキの種子が発芽・成長したものと考えられます。鳥たちによって外部から種子が持ち込まれたことで、生きものの種類が豊かになっている一例といえます。

草地に多くのバッタ、コオロギが生息

既存の池の跡を活かし、ビオトープ造成を検討

ビオトープへの転用を検討している池の跡地

ビオトープへの転用を検討している池の跡地

京都地区内には水辺が少ないことから、鳥類などが利用できるビオトープの造成も検討しています。

2024年7月現在、地区の正門付近にある、使われなくなった池の跡地を補修し、ビオトープに転用する方向で検討を進めています。完成後は従業員や近隣住民の方へのアピールにも活用する方針です。

外来種圧を抑制

京都地区内では外来の動物・植物も複数確認されています。このうち周辺の生態系への影響が大きいと思われる種については、適宜、防除も検討しています。

植物では地区内の植栽に使用されているトウネズミモチが、環境省の指定する「生態系被害防止外来種リスト」の掲載種となっていることから、順次在来種に植え替えていく計画です。この種は成長が早く、かつては目隠しなどの目的で植栽とされることが珍しくなかったため、京都地区内にも500本弱が植えられています。2024年9月に最初の植え替え工事を行い、2025年度中に工事を完了する予定です。

また動物では、同じくリスト掲載種であるアライグマが構内で見られ、アライグマのものとみられるフンなどの痕跡も頻繁に確認されています。鳥類などが食害される可能性、また地区周辺の耕作地への影響などを鑑み、捕獲機を仕掛けるなどの対策を行っています。

生態系被害防止外来種リスト:環境省による、幅広く生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種を選定したリスト。生態系や人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼすあるいはそのおそれがある種が選定されており、国内由来の外来種(いわゆる地域外来種)も対象となっている。

トウネズミモチの植栽トウネズミモチの植栽

フンの発見場所近くに捕獲わなを設置フンの発見場所近くに捕獲わなを設置

マネジメントの声

私は活動を見るようになって半年ほどになりますが、過去の生きもの調査で作成されたリストを確認して驚きました。植物だけでも250種以上が生息していた。人も企業もその土地に生かされていることを思えば、これは大切に受け継いでいかねばならない京都地区の財産です。

その意味で目下重視しているのは外来種圧の抑制です。直近ではトウネズミモチの植え替えを2025年度中に完了させる予定です。また、アライグマ対策も実施しています。2024年度には、せっかく地区内に産卵してくれたカルガモが、一晩のうちに卵ごと姿を消したという出来事もありました。これ自体はネコやアライグマによるものと断言することはできませんが、「外来の捕食者がいることで、このように生態系が阻害されるのかもしれない」と改めて意識するきっかけになりました。

また、近年の京都地区は構造改革という変化の途上にあります。複数の製作所や関係会社から人が集まっているため、同じ事業所で働いているのに土地のことや互いのことをよく知らないという状況も見受けられます。この地区の生物多様性保全にともに取り組んでいくことで、互いのつながりもつくっていけるのではないかと感じています。

京都事務所 事務所長 上田 慶輔(写真右)

草地ビオトープを日々整備する中で、花の時期にはトンボやチョウが現れ、草刈りをすれば虫を狙って鳥類が現れ……と、様々な生きものが見られるようになりました。地区内には複数の草地ビオトープがあり、中には休憩所に隣接している場所もあります。そこで出会った従業員同士で生きものの話をして、会話が弾むといった効果も出てきています。

また、生きものの活動には水が必須ですから、早期にかつての池跡地を活用したビオトープを造成するほか、さらに次の活動も考えています。普段は生きものに興味を持たない従業員が、これらに目を向けるきっかけとしても活用していきたいですね。

とはいえ一番大切なのは、身の丈に合った活動を、まずはやってみることだと思っています。何か動いているなと思うと、興味を持ちやすくなりますし、そこから活動の輪を広がります。他の製作所の取組み事例も参考にしながら、この京都地区でできる改善を進めていければと思います。

京都事務所 インフラ管理課 課長 川楠 秀(写真左)

担当者の声

三菱電機には「趣味人」のような従業員がたくさんいて、何かが「好きです!」とアピールすると同好の士が集まってくることが少なくありません。生物多様性保全でもこうしたコミュニケーションから活動が広がることがあるのではないかと思い、イントラサイトなどを通じてできるかぎり情報発信するようにしています。

じっさい、池の跡地を活用したビオトープを設けるというアイデアも、地区内のバードウォッチャーや水生生物が好きな従業員から出たものです。トップダウンではなくコミュニケーションを通じて、「みんなで集まって、何かやろう」という活動にしていけたらいいなと思います。

もっとも「アシナガバチの巣ができた、どうしたらいいの?」といった用件で呼ばれて困り果てることもありますが……。難しいこともありますが、できる範囲で様々な生きものと共生できるよう取り組んでいきます。

インフラ管理課 野村 崇(写真中央)

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