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デザインの役割はユーザーを「迷わせない」こと

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー
佐藤 聡

新たな領域に挑戦

私は産業システムデザイン部で産業用機械や社会インフラ、電力システムといったBtoB (Business-to-Business)向けのUIデザインを担当するグループに所属しています。現在のグループに異動してきた直後に、当社の加工機「D-CUBES」シリーズのプロジェクトに参加し、操作画面をデザインしました。産業用機械はとにかく機能が豊富ですが、できることが多い分、操作画面が複雑になる傾向があります。そこで、新たにリリースする「D-CUBES」は操作に不慣れな人に配慮した、使いやすい画面を目指して開発が進んでいました。

とはいえ、当時の私はAV機器のプロダクトデザイン部門から移ってきたばかりだったので、そもそも工作機械のことも、UIデザインのこともほとんど知りませんでした。機械の仕組みや用途がわからないままではデザインはできません。使用者がどんな風に機械を使っているのかをイメージできなければ、実際の現場で本当に使いやすいUI画面は生み出せないと考えました。そのため、新たな分野の知識をインプットしつつ、デザインを同時並行していきました。スケジュールはタイトでしたが、当社FAブランドの顔となるデザインを作ることができるという気持ちから、それ以上にやりがいを感じられました。前任者が集めた資料や加工機の使われ方を撮影した動画を見返しながら、工作機械と民生品の共通点や相違点を把握しようと日々努めました。

検討過程のUI

「使いやすそう」と「使いやすい」の両立を目指して

開発過程では、見た目のインパクトとユーザビリティの両立が課題になりました。「真新しいデザインにしたい」という製造工場からの要望はありましたが、工作機械は息が長いプロダクトです。10年、20年と使うことを考えると、現在の流行に合わせていては後々古びてしまいます。他社製品のデザインを意識しすぎても二番煎じになってしまう。よりシンプルで普遍的な美しさ、ユーザーにとっての使いやすさを追求するべきではないか。そのように製造工場に提案しました。

今回の提案で特に大切にしたのは、「使いやすそう」に見えるデザインと、「実際に使いやすい」デザインの両立でした。工作機械は専門性が高く、熟練の職人でないと使いこなすのは難しいとされています。決して悪いことではないのですが、新たなユーザーを獲得しにくいのも事実です。ぱっと見たときに「使いやすそう」という印象を与え、使用のハードルを下げるのもデザインの大切な役割だと考えました。

具体的に意識したポイントは、ひと目で必要な情報が得られる視認性です。たとえば、トップ画面ではいきなり操作項目を列挙するのではなく、まず加工機全体の状況が、ひと目見ただけで把握できるように、重要な情報に絞って表示しています。製造の現場においては、加工途中に生じたエラーに気づけないと生産性が大幅に下がってしまうので、生産プロセスに異常がないかをひと目で把握できることが重要なのです。そのためトップ画面から個別の操作に遷移する際も、全体のステータスは常に画面の上部表示するようにしています。

ボタンの配置や画面遷移の設計についても、ガイダンスに従って順番にボタンを押していけば一通り操作が完了するように、情報をていねいに整えました。とにかく操作の途中でユーザーが迷わないよう、配慮を尽くしています。画面内の配色は、「正常であれば緑」「異常になったら赤」というように、配色のルールを設定し、ユーザーが状態の変化に気づきやすくしています。ここでも、デザインの普遍性と使いやすさの両立に気を配りました。

職域を越え、幅広い活躍ができるデザイナーに

今回のデザインに際しては、外観部分を担当しているプロダクトデザイン部門ともやりとりを重ねました。機械本体の設計も仕様が頻繁にアップデートされていたため、密な連携が必要だったのです。機械本体と画面の位置関係について整合性を図るなど、常に最新の情報を共有しながら調整を進めました。プロダクトデザイン部門とは席も近く、よく世間話をする距離感なので、こうした調整もしやすい環境でした。

デザイナーとしてより幅広い活躍をするためには、様々な領域の仕事に興味を持ち、経験を積んでいく事が大事だと思います。今回も、BtoB (Business-to-Business)製品のデザインやUIの設計に携わったことで、得られた知見がたくさんありました。産業用機械を作り上げる上では、デザイナーだけでなく設計や企画、営業といったさまざまな部門の力が必要になります。お客様だけでなく、社内の関係者たちの思いも理解した上で、独りよがりではない製品づくりをしていきたいですね。

近い将来、様々な加工機が使われている現場に行って、直接ユーザーの声を聞き、できれば自分で機械をオペレーションしてみたいです。自分のデザインが、本当にユーザーにとって快適な操作フローになっているのかは気になるものです。デザイナーの私が製品をご利用頂いているお客様から直接、ご意見をうかがう機会を増やしていきたいです。今後も職域の垣根を越えた関わり方を模索することで、デザイナーとして発揮できる価値を高めていきたいと思います。

「D-CUBES」は三菱電機株式会社の登録商標です。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

佐藤 聡

2007年入社
TV、レコーダー、プロジェクターといったAV機器のプロダクトデザインに携わった後、BtoB (Business-to-Business)向けのUIデザイングループに異動。産業用機械や社会インフラ、電力システムのUIデザインを手掛ける。