- 中村
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お出かけするとき、頼りになるのがスマートフォンアプリ。でも、グルメに交通、観光情報などを調べる際に、いろいろな種類のアプリやブラウザ検索を切り替えながら使うのは少し面倒ですよね。そこで考えたのが、全国約9,100駅と周辺情報を1カ所に集約できるアプリ。意外に思われるかもしれませんが、鉄道会社を横断して全国の駅と周辺の街の情報を整理して、ガイドブックや雑誌をめくる感覚で地域の隠れた魅力を発見できるアプリはこれまで存在しなかったのです。
統合デザイン研究所では、あらゆるメーカーの家電製品の取扱説明書を一元管理できるアプリに携わった経験がありますので、その知見も活かせるはず。そう考えていたところ、営業部門との雑談で、三菱電機が各地域のお客様の課題を起点に新事業の創出に取り組んでいることを知ります。駅を切り口にしたアプリの構想と、地域の課題解決。このふたつが合流すれば、相乗効果が生まれるのではないか?駅と街のガイドブックアプリ「ekinote®(エキノート)」の開発は、こうしてスタートしました。
- 八木澤
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参加メンバーは、統合デザイン研究所に加え、技術系の研究所や開発部門、宣伝部門、そして全国の支社を含む営業部門です。これだけの部署と関係者を巻き込むことが、まずひとつの挑戦でした。もうひとつ、従来のプロジェクトと異なるのは開発の手法です。全体の足並みを揃えて計画をしっかりと固めてから進めるウォーターフォール型でなく、迅速かつ柔軟に検討と改善を繰り返すアジャイル型を取り入れることに。スタートアップ企業では一般的ですが、三菱電機にとってはチャレンジングなことでした。
- 関野
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まず行ったのは、アプリの差別化価値を考えることです。全国9,100駅を一元管理できるだけでは面白みが足りないと考え、独自の魅力を持たせるべく、1〜2カ月かけてアイデアを出し合いました。ユーザー投稿機能、スタンプラリー機能、投稿内容を分析して駅の特性を表すレーダーチャートを生成する機能。三菱電機の様々なシステムと連動させるアイデアもありました。
- 八木澤
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その中から、最初に実装する機能を吟味します。ユーザーは、どのようにこのアプリと出会うのか。どのような仕掛けがあれば、このアプリを毎日開いてくれるのか。使い続けるモチベーションが途切れないよう考慮して選んでいきました。
- 関野
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ekinote®は老若男女の利用を想定しているため、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)にも配慮が必要です。若年層向けSNSアプリのように説明を省いたり、ボタンのない画面をスワイプで操作するようなUIは適切ではありません。ボタンをタップすれば次の画面に遷移し、そこには前の画面に戻るためのボタンがきちんとある。OS標準のアプリを日頃から使っていれば迷わないようになっています。また、アジャイル型開発に対応できるよう、アップデート時に変更しやすい部品の組み合わせでUIを構成。中村さん、八木澤さんと見せ方やレイアウトを議論し、私がそれを現実的な形に落とし込むという工程を繰り返していきました。
- 関野
- 企画を始めて約1年後、実装を始めて約半年後の2022年3月に、最初のバージョンをリリースしました。といっても、まだまだ荒削りな状態。全国の鉄道駅を起点とした情報を閲覧でき、気になる駅や記事を管理できるという、シンプルなアプリです。まずは世に出し、反応をヒントに検証を行う。その繰り返しで、より洗練されたものにバージョンアップしていくのが狙いでした。
- 八木澤
- 思惑通り、さまざまな反響がありました。最初に聞こえてきたのが、「三菱電機がこんなアプリをリリースするなんて!」という驚きの声です。三菱電機は家電や産業機器、インフラなどが主力製品なので、このようなアプリは新鮮に映ったのでしょう。ほかの大企業で新規事業に取り組む方からは「こんなアプリをパッと出せるなんてうらやましい!」と言われたほど。もちろん実際には「パッと」ではなく、生みの苦しみもたくさんありましたが、大企業らしからぬスピードが社内外に与えたインパクトは大きかったようです。
- 関野
- 三菱電機の展示スペース&ギャラリー「METoA Ginza®」で将来の「ekinote®」をイメージした体験展示も行い、来場者が好きな駅にまつわる情報を投稿できるようにしたところ、さまざまな口コミが集まりました。「地元の駅のパン屋がおいしい」「学生時代、この駅でこんなことがあった」。日本人にとって、思い出の場所であり、暮らす街の入口でもあり、思い入れのある場所、それが駅。そう再認識するとともに、アプリのテーマに一層の自信が持てました。
- 中村
- もちろん鉄道会社をはじめとした企業や自治体からの反響もありました。もしこれが「駅」という切り口でなかったら、すでに星の数ほどリリースされている「おでかけアプリ」の中で埋もれてしまい、認知を得ることはできなかったかもしれません。
- 八木澤
- 2022年3月からは実証実験も開始しました。パートナーは、コンセプト開発段階から意見交換を行っていた広島電鉄様です。駅の写真の準備に始まり、沿線のおすすめスポットの選定、駅の魅力を伝える記事の投稿など幅広くご協力いただき、同社の100周年記念イベントにも出展させていただきました。
- 中村
- 広島電鉄様ご担当者の「地域を活性化させたい」という強い思いは、大きな刺激になりました。特に今後の展開を方向づけたのは「私たち広島電鉄だけでなく、いろいろな企業や市民の方が広島電鉄の駅を起点に投稿した方が盛り上がるでしょう!」というご意見です。たしかに、鉄道会社が一方的に情報発信するアプリだと、市民の方は興味を失くしてしまうかもしれない。地元企業やユーザーを巻き込み、一緒にアプリを育てていく形が理想なのではないかと、考えを改めました。広島電鉄様のご紹介により、広島の他の企業との連携もすでに始まっています。当初は「駅と街の情報を一元化するアプリ」としてスタートしましたが、現在は「地域振興プラットフォーム」としての可能性を探っています。
- 八木澤
- 鎌倉市と東京大学による「鎌倉リビングラボ」の共創イベントにも出展しました。ekinote®の「鎌倉駅」コーナーを使ってイベントを告知いただいたほか、当日は地域住民のみなさんにアプリを使っていただきました。アプリへのリアルな感想を直接お伺いできたのは、大きな収穫です。さらには、「鎌倉リビングラボ」様から鎌倉市観光協会様をご紹介いただいたことで次の連携が始まり、同協会からは湘南鎌倉地域の他のステークホルダーとのご縁をつないでいただくなど、数珠繋ぎに新たな出会いが生まれています。地域活性に取り組むスタートアップ企業からも協業の声掛けをいただいています。BtoC向けのサービスでありながら、BtoB/Gとの連携が続々と創出されているのは面白い展開です。
- 中村
- ekinote®は、みんなで走りながら作り上げていくプロジェクトです。いちデザイナーのアイデアを、チームで検証し、UX/UIデザインの力で形にし、開発メンバーの力によって世に送り出しました。するとユーザーとの対話が始まり、支社を通じて全国のステークホルダーとの対話が始まりました。まだまだ道半ばですが、アイデアがビジネスの種となり、みるみる育って広がっていくのをライブで体感できるのは、非常に刺激的です。
- 関野
- 最初にみんなで出し合ったアイデアもたくさんのストックがありますので、その実装にも動きます。三菱電機の既存事業が展開する機器やシステムと連動するアイデアなどは、担当部門とも意見交換を始めたところです。
- 八木澤
- 機能の拡充に加え、データの利活用にも乗り出しました。方向性は大きくふたつ。ひとつは、ユーザー個々人を軸にして、属性や利用履歴を匿名データとして分析すること。もうひとつは、各駅を軸にして、ekinote®に集まった投稿等からエリアの隠れた魅力を分析するというものです。後者のテーマでは、すでに相鉄グループ様との実証実験が始まっています。
- 関野
- データの利活用という意味では、他分野を対象に研究していた「データビジュアライゼーション」の手法をekinote®に適用するチャレンジも少しずつ始めています。一例として、ekinote®にユーザーが投稿した記事の件数や内容を日本地図上に可視化していくと、「いま盛り上がっている駅や地域」がわかるのです。今後は日本全国で稼働している機器やシステムのデータとekinote®から得られる「街と人々の鼓動」とも呼べるデータを統合的に分析することで、さまざまな課題を見える化し、その解決を通じて「地域の未来」をデザインしていきたい。そんなことを、社内の多くの仲間たちと議論しています。
- 中村
- このプロジェクトは、三菱電機が長年培った資産によっても支えられています。全国の地域との信頼関係、法務・知財・セキュリティなどのプロフェッショナルの協力、宣伝部門やグループ会社によるプロモーション活動やデジタルマーケティングのサポート。さらなる進化のために必要なのは、若い人たちの力です。地域や日本全体を元気にして未来をデザインするために、次の時代を生きるみなさんにぜひ参加していただきたいですし、私たちもその思いやアイデアを吸収したい。デザイン、開発、営業も含め、若いメンバーが加わってチームがさらに良くなっていくのが今から非常に楽しみです。
「ekinote\エキノート」「METoA Ginza」は三菱電機株式会社の登録商標です。
「ekinote\エキノート」 は三菱電機株式会社の登録商標です。
「App Store」 は Apple Inc. のサービスマークです。
「Android」 は Google LLC の商標です。
「ekinote\エキノート」 は三菱電機株式会社の登録商標です。
「App Store」 は Apple Inc. のサービスマークです。
「Android」 は Google LLC の商標です。
三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
ビジネスデザイナー
中村 大輔
1998年入社
事業部門にて携帯電話端末の商品企画・先行技術開発に従事後、2008年にデザイン研究所(現:統合デザイン研究所)に異動。コンセプトの創出から製品・サービスの企画まで、新規事業・デジタル関連を中心に広い領域のデザインおよび研究開発に取り組む。
三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー
八木澤 喬樹
2005年入社
車載機器(主にカーナビ、コンセプトカー)のインターフェースデザイン担当を経て、家電製品(テレビ、エアコン、冷蔵庫等)の企画、インタラクション、サービスデザインを担当。2019年より3年間ビジネスデザイナーとして東京大学にて産学共創領域のデザインに従事。2022年度4月帰任。
三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
UIデザイナー
関野 修佑
2014年入社
複数の会社でUIデザインの業務を経て入社。現在は「ekinote®」のほか、電力や水処理など、社会インフラ向け製品のUIデザインに従事。