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おなじみの家電に、ゼロベースで向き合う

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー
中居創・ダドーネ アレサンドロ・
西悠也

生活のリアルを捉えた冷蔵庫で、 オセアニア・東南アジアの市場を拓きたい

中居

三菱冷蔵庫の主な市場は、日本とオセアニア・東南アジア地域です。国内ではほぼすべての家庭に冷蔵庫があり、買い替え需要がほとんど。一方で、東南アジア地域では冷蔵庫のない家庭も存在します。今後は経済成長や人口増加にともない、新たに購入する家庭や、高価格帯の商品に買い替える家庭が増え、市場の拡大が見込まれます。そこでこれらの地域に向けた新製品を企画するための調査活動を始めました。

西

まずは基礎情報の収集から着手。東南アジア地域を対象に、売れ筋の冷蔵庫の価格やサイズ、デザインなどを調べました。「ここで意識したのが所得の階層です。低価格帯の冷蔵庫を購入する層で、大きな割合を占める「ロウアーミドル層」と、近年急速に増加している「アッパーミドル層」をターゲットとし、性格の異なる2つの冷蔵庫の商品企画を進めることにしました。次なるステップは現地調査です。ここからはデザイナーだけでなく、設計者や営業担当もチームに加わってもらいました。

ユーザーの生の声から生まれるデザインがある

西

タイで訪問したのは、ロウアーミドル層の7つの家庭です。どんな食生活を送っているのか。冷蔵庫を日頃どのように使っているのか。観察やインタビューを行いました。周辺の市場やスーパーマーケットの視察も実施。店頭に並んでいる売れ筋の食材から食生活を推定し、冷蔵庫の使われ方を予測しました。タイでは、食品を使う分だけその都度購入する、いわゆる「都度買い」が主流です。食材を長期間ストックしておく習慣がないためか、どの家庭でも冷凍室のサイズは小さめでした。

中居

驚いたのは、冷蔵庫が使われている環境が、想像以上に過酷だったこと。エアコンもなく、屋外と繋がった高温多湿な空間に設置され、傷も多数見受けられました。ドアポケットが脱落していたり、ドアのパッキンが剥がれかけていたり、日本の感覚では想像できないくらい酷使された冷蔵庫を目の当たりにしたのです。彼らの「とにかく壊れにくい冷蔵庫がほしい」という声には切実さがありました。この経験から、堅牢性と手入れのしやすさをコンセプトに据えることにします。食品のほかに化粧品や薬も収納しているので、「臭い移りが気になる」という声があったのも印象的でした。現地に赴き、実際の使われ方を観察したからこその気づきを集めていきました。

ダドーネ

アッパーミドル層をターゲットとした商品企画に向けては、タイ以外の東南アジア地域で、建築家やインテリアデザイナー、フードジャーナリストといったエキスパートたちへのインタビュー調査を行ったほか、比較的所得の高い8つの家庭を訪問しました。どの家庭も、食材をまとめ買いして保存し、冷凍室がフル活用されていました。2、3日で使い切る肉や魚であってもすべて冷凍保存されています。一方、調理の際には常温環境で時間をかけて解凍していることもわかりました。ここから導き出されたアイデアは、単に大きな冷凍室を設けるにとどまらず、鮮度を保てる冷凍の良さを備えながら解凍の手間も省ける機能を搭載すること。アッパーミドル層向けの製品も着実にコンセプトが固まってきました。

品質を保ちながら、いかにコストを抑えるか

ダドーネ
コンセプトからモックアップを作り、量産化に耐える設計を探っていきました。悩ましかったのが、高級感のある外観を保った上で、いかにコストを抑えるかです。とりわけタイをメイン市場とした低価格帯モデルでは、これが大きなハードルになりました。実現したかったのは、ドア前面の樹脂ハンドルをなくし、鋼板素材のドアパネル自体を折り曲げてハンドルを形成するアイデアです。堅牢かつ洗練された印象になる上に、ホコリや汚れが溜まりにくく清潔に保てます。しかしながら、このデザインを実現しようとすると高コストになるため、何度も設計の修正を重ねることに。試行錯誤の末、ようやく量産できるモデルが完成しました。
西
一方で、アッパーミドル層向けにコンセプトを組み立てた中価格帯モデルは、オーストラリアで大きな販売規模が見込めると考え、更なる現地調査を重ねました。オーストラリアのユーザーはキッチン空間全体に統一感のあるデザインを求めます。友人を招いてホームパーティーを開く習慣がある彼らにとって、冷蔵庫はインテリアのひとつ。他人の目に触れることを意識する必要があります。そこで、華美な装飾やコーティングは施さず、素材の質感を活かした美しさを追求。マットフィニッシュで落ち着いた仕上がりに調整していきました。

シンプルな箱に見えて、奥が深い。冷蔵庫の面白さです

ダドーネ
こうして量産化が実現し、低価格帯モデルは2020年から、中価格帯モデルは2024年から販売を開始しました。これらのプロジェクトを通じて実感したのは、関係者間のコミュニケーションがいかに大切かということ。設計部門、営業部門、デザイナーが一緒に現地に赴き、同じ体験を共有したからこそ企画が成立したのだと思います。また、プロダクトデザインを具体化する際も、画面上で示すだけでなく立体のペーパーモックを作って設計者とイメージをすり合わせる努力を重ねたことで、コンセプトがブレることなく量産化に繋げることができたのだと思います。
中居
冷蔵庫はどの家庭にもあって、家族全員が使う製品です。そんな製品をデザインすることには大きなやりがいがあります。外観と内部、両方にデザイナーが深く関われるのも冷蔵庫ならでは。シンプルな箱のように見えて、実は奥が深く、それもまたやりがいに通じるのです。普段から見慣れた製品でも、ユーザーの環境や使われ方をつぶさに観察すると、常に発見や驚きがあります。そこに新たな課題を設定し、デザインで解決する醍醐味を楽しみながらこの仕事に向き合っていきたいと思います。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

中居 創

2007年入社
ライフクリエーションデザイン部食生活デザイングループマネージャー。ソフトウェア開発の実務経験を経て三菱電機に入社。以後、家庭用空調機、冷蔵庫などのプロダクトデザインを手掛ける。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

ダドーネ・アレサンドロ

2016年入社
ミラノの大手メーカーや三菱電機でのインターンシップを通じてプロダクトデザインの経験を積む。イタリアでのデザイナーとしての活動を経て三菱電機に入社し、現在に至るまで国内外向けの冷蔵庫のプロダクトデザインを手掛ける。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

西 悠也

2023年入社
パーソナルモビリティ、ベッドや寝具などのプロダクトデザインを経験しキャリア採用にて入社。現在は海外向け冷蔵庫のプロダクトデザインを担当。