コラム
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2002年 7月分 vol. 3
日本の「ミニ地球」実験って?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

写真 人間が宇宙でくらせる時代になった。だけど生身の体は宇宙にさらせない。宇宙空間は大気がない真空の世界。何も身に付けずに宇宙に出たら、たちまち体液が沸騰してしまう。

 だから宇宙船も宇宙服も、地球の環境を運ぶ「ミニ地球」だ。たとえば宇宙服は隕石や宇宙空間の激しい温度差から宇宙飛行士を守るため、14層もの生地からできている。宇宙服の内部は約0.3気圧の純酸素で満たされているが、その環境を維持するのが背中にかついだ生命維持装置。2本の酸素タンク、二酸化炭素を吸着する水酸化リチウムのカートリッジ等が入っていて気圧や温度をコントロール。そのおかげで約6~8時間の船外活動を行える。

 自分自身が「小さな地球」になって、宇宙に浮かぶのはどんな気分なのだろう。日本人でただ一人、宇宙服を着て2回の船外活動を行った土井隆雄飛行士は「宇宙が私たちを呼んでいるような気がした」という名セリフを放った。宇宙との一体感があるのかも。

 ところで地上に「ミニ地球」を作り、動植物と人間が自給自足するという試みが、日本で始まろうとしている。場所は青森県六ヶ所村の環境科学技術研究所。閉鎖空間に自然の生態系を作り、イネやヤギなどを育てる。人間や動物の食料は植物から、植物栽培に必要な肥料は人間・動物の排泄物から作るなど、エネルギー以外の必要な物質はすべて内部でリサイクル。目的は物質の循環を解明すること。2005年ごろから二人の人間の居住実験が始まる。週レベルからスタートし、2007年には3~4ヶ月滞在する予定。

  この種の実験では、「バイオスフィアII」が有名。アメリカ・アリゾナ州の砂漠の中に作られた巨大なガラス張りの閉鎖空間に熱帯林やサバンナ、海洋まで再現。8人の男女が約3800種の動植物とともに2年間をすごした。途中で二酸化炭素が増大し、密閉を解除したこともあり、地球の生態系を再現するのはホントに難しいってことが明らかになった。

  日本の「ミニ地球」実験が「バイオスフィアII」と違っているのは、最新技術を使って物質の循環をコントロールすること。この技術は月面や火星での基地建設で必要になる。そんな実験が日本で始まろうとしていることが、もっと注目されていいのでは?



環境科学技術研究所
http://www.ies.or.jp/