マキオちゃんは、一日3回、チアキちゃんにEメールを送る。仕事で顕微鏡をのぞいている間も「次はどんなジョークでチアキちゃんを笑わそうか」と頭の片隅で考えている。
マキオちゃんは毎朝、チアキちゃんにモーニングコールをかける。チアキちゃんが世界のどこにいようと、必ず。チアキちゃんの朝はマキオちゃんの夜。そのため、不必要な付き合いはお断りすることにしている。
数年前に向井万起男さんにインタビューしてこの話を聞いたとき、その徹底ぶりに感動した。宇宙飛行士・向井千秋さんはアメリカでくらしている。日本で医師として働く夫の万起男さんと結婚して16年半になるが、一緒にくらしたのは2年半だけ。
でも同じ屋根の下に住んでいる夫婦より、完璧にコミュニケーションとれてるかも・・・。
そんな二人のイイ関係を象徴するような本がでた。「4001の願い」。中身は宇宙とはまるで関係ない。「赤道の真上に立つ!」とか「アマリリスを窓辺に植える」とか、稀有壮大な夢からささやかな目標までまぜこぜにして、4001の願い事リストが並んだ本。
きっかけは、千秋さんが友人のお見舞いに訪れた病院でのこと。面会時間前に病院に着いてしまった千秋さんは時間つぶしに売店にたちよった。そこで出会ったのがこの本の原書「 the wish list 」。夢中になった千秋さんが万起男さんに送り、「二人で翻訳して日本に紹介しよう」と決めた。仕事の合間にメールで原稿を送りあい、1年かけて本になった。
正直に言うとチアキ・マキオペアの本でなかったら、この種の本は手にしなかっただろう。でも、パラパラっとめくっているうちに「これは!」と思わずチェックしてしまった項目がいくつか。ふだん忙しさにまぎれて忘れていた、心の奥底の熱い思いを再確認して。
笑えるのは、千(千秋)と万(万起男)の200の願い事リスト。いかに対照的な二人かが浮かび上がってプッと吹き出してしまう。そして、最後の願いにじーんときた。「万:上房より先に死にたくない、・・・女房を孤独にしたくない。」
「4001の願い」バーバラ・アン・キプファー著
向井千秋・向井万起男 共訳 文藝春秋社 本体価格1000円
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