地上で月の気分を味わいたければ、クレーターに行くのがいい。
アポロ計画の訓練で使われたクレーターのうち、有名なのはアメリカ・アリゾナ州の砂漠にある「メテオクレーター」とハワイ・マウイ島にある「ハレアカラ火山」。メテオクレーターは、前回のコラムで紹介したシューメーカー博士が地質学的調査を行い、直径約50メートルの巨大隕石が衝突して出来たことを突き止めたところ。
ロサンゼルスからグランドキャニオンに何泊かキャンプしながら向かう途中にあり、私も立ち寄ったことがある。走っても走っても360度の地平線が広がる砂漠に深さ170m、直径1.3kmのクレーターが突如現れる。隣接された資料館でアポロの月面活動や宇宙船のカプセルを見たあとにクレーターに降りれば、気分は「静かの海」を歩く月面の宇宙飛行士。なんとなくホッピングしてみたりして。
マウイのハレアカラ山は標高3055m。サンセットが幻想的と聞く。映画「2001年宇宙の旅」のロケに使われた。
NASAはすでに宇宙飛行士たちに火星飛行の訓練を始めている。1996年に、訓練に参加した毛利宇宙飛行士の話によると、アメリカ・ニューメキシコ州の砂漠を火星にみたてて、「火星を表現する代表的な岩石を10分でとってくる」という課題を与えられたという。きれいな石ばかりを集めた人は「それは火星を代表するのか」と問われていたらしい。星を代表する石を集めるのは結構難しいものだ。NASAは2010年代に有人火星飛行を目指しているが、火星飛行から持ち帰った石は、月の石以来の熱狂を巻き起こすに違いない。
ところで、アポロ宇宙船が持ち帰ったのは石だけではない。アポロ14号のパイロット、スチュアート・ルーサはアメリカ杉や楓、松などの種子を約500数個、宇宙船に持ち込んだ。種子は地球に帰ったあと汚染除去されたために、発芽するのか心配されたが、無事に芽を出した。3年ほどたって苗木になった頃、フィラデルフィアの自由の鐘の広場、NASAゴダード宇宙センターなどに送られたほか、日本の昭和天皇にも送られた。「Moon Tree」はルーサが1994年に亡くなった後も、多くの人々に愛されつづけている。
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