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2002年 11月分 vol. 2
土井飛行士 「大草原の小さな家」で超新星発見
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


写真 日本人で初めて宇宙遊泳をした宇宙飛行士・土井隆雄さん。実は土井さん、知る人ぞ知る「アマチュア天文家」。ナント、自分の観測所で星の最後の大爆発「超新星」を発見した。

 やっぱり土井さんは「時間をかけても必ず大ヒットをとばす人」だ。1984年に宇宙飛行士に選ばれてから初飛行まで、13年間待ち続けた。超新星の観測も11年前から始めていた。周りに流されずに、自分の信じた道を歩み続ける人。「やってくれたね~」とうれしくなる。

 土井さんが超新星を発見したのはヒューストンから車で約2時間、テキサス州ワイマーの「スターリッジ観測所」。週末ごとに訪れる観測所兼別荘らしい。この大発見の知らせ方がまた「奥ゆかしい」土井さんならでは。10月にアメリカで開かれた学会のために訪れた国立天文台の渡部潤一氏を、土井さんが自分の観測所に「ぜひ」とご招待。そのとき初めて超新星発見を披露したそうだ。

 渡部氏曰く、スターリッジ観測所は「大草原の小さな家のようなところ」。周りになーんにもなくて夜空がひたすら暗い。「天文マニアだったらあんな観測所をもちたいと思うだろうね」。あいにく渡部氏が訪ねたときは、曇っていて星は見えなかった。4000坪ほどの敷地の草刈りはどうしているかを訪ねると、土井さんは渡部氏を草刈り用のトラクターに乗せてくれたそうだ。

 今回の超新星は、直径30センチの反射望遠鏡で「ろ座」の北部にある銀河NGC922に発見。「超新星の発見は宇宙飛行と同じくらいエキサイティング」と土井さんはコメントを発表している。

 中学生の時に友達の影響で星を見始めた土井さん。大学では天文学と迷った末に「自分で宇宙に飛び出すロケットを作りたい」と宇宙工学を専攻したが、アマチュア天文家としての活動も続けていた。宇宙飛行後ヒューストンのライス大学に通い、天体物理学の修士号を取得している。

 11月6日、筑波宇宙センターで行われた船外活動訓練に参加した土井飛行士は「宇宙に行ってみて、もっと宇宙を知りたくなった。一つのアプローチが天文学。その知識を次の宇宙飛行でいかしたい」と語った。
 いくら時間がかかっても、土井さんは必ずもう一度、宇宙にもどるだろう。